3-16 2回目の狩り
―――3日後―――
俺は再びポロス等と共に、東門を出た平野部へと来ていた。冒険者として活躍できるように、というポロスの言葉を現実にするべく、魔物狩りにやってきている。
今回も護衛としてムースンや騎士も同行しているが、何故かミーシャもついて来ている。さすがに8歳の女の子を狩りに連れて行くのに俺はかなりの抵抗感を持っていたが、領主であるフロイストから直々にお願いされてしまった。
ムースン曰く、前回の狩りのように自分だけお留守番するのが嫌だ。仲間外れにしないで欲しい。お兄様と一緒にいたい、等々を主張を泣きながら訴えたらしい。
そんな程度で外に送り出すとは随分と娘に甘い後領主様である。ただ騎士の人数はムースン含めて6人に増えた。
子供狙いの誘拐もここ数日目だった被害も出ておらず、ここまで貴族も狙われていない。ポロスとミーシャを街の外へと出すことは躊躇われたが、本人たちの希望で今日も狩りへと行くことになった。
どうやらミーシャはかなりのブラコンのようだ。魔物との死闘で、土埃や返り血で汚れる兄の姿をキラキラとした目で見つめている。多少はスプラッタな部分があるのだが、耐性でもあるのだろうか? 平然としている。
今も、捕まえておいたゴブリンの首に剣を突き刺したポロスに駆け寄って水を飲ませている。甲斐甲斐しく世話をしている足下にゴブリンの死体が数体転がっているのは、どこか絵的にシュールだった。
「ゴブリンならば武器を持っていても、問題なく倒せるようになりましたね」
ムースンがそんなことを言いながら近づいてくる。前回に比べて格段に動きの良くなったポロスを見て、どこか誇らし気だった。
「まぁ、ゴブリンですからね。単体ならば成人男性であればそう遅れを取るわけでも無いですよ」
「それでも、です。魔物を殺す、ということに抵抗感もなくなってきたと思います」
まぁ、それが狙いの1つなのだから出来るようになってもらわないと困る。殺生に抵抗感が完全に無くなるのも問題だが、魔物相手ならばこちらも気兼ねなくやれる。問題は人間相手の場合だが、これは積極的に関わるのもどうかも思う。無理に人殺しをさせたり見せたりは、年齢的にもまださせたくない。この思いは個人的な気持ちかもしれないけど。
「……そうですね。ボチボチいい時間なので、昼休憩にしましょう。ゴブリンの剥ぎ取りをして軽食をとりましょう」
俺はムースンを連れてポロス達の所へと向かうことにした。
「なぜクオンセルは斧を使うのだ?」
昼飯のサンドイッチを頬張りながらポロスがそんなことを聞いてきた。ちなみにポロスは最近になって俺のことを師匠と呼ぶようになってきた。
「私にとって都合が良いからですよ」
「都合が良い? どういうことだ?」
俺が斧を、それも投擲を前提とした手斧を重用するのは遠距離攻撃の手段を増やしたかったのと、斬撃を行うためだ。
今更言うに及ばず、俺は魔法による遠距離攻撃が出来ない。よって魔法以外で離れた敵に対応する手段を武器に求めた。手斧に限らず、棒手裏剣や鎖分銅なども活用してるのはまさにそのためだ。
加えて斬るという行為を求めたら、俺的には斧が1番都合が良かった。ロングソードなどのいわゆる直剣は斬る、というよりも叩き斬る為のものだ。肉を斬るのでは無く断つ。技量によって結果は変わるのかもしれないが、俺にそこまでの力量はない。それに刃が潰れれば直剣はただの打撃武器になってしまう。
刀や曲刀などは刃を滑らせ引き抜くことで肉を切り裂くことが出来るが、耐久度や技術に難点があった。この世界にも過去の転生者らによって刀は存在する。だけどそれらの機能を十全に活用できる技術体系が一般的ではなかった。【武骨者たち】にも手練れと言われる者は存在しなかった。
よって斬ることを目的とした場合、重心や強度を加味したら斧が最も扱いやすかったのだ。決してどこぞの斧バカに悪影響を受けたわけでは無い。断じて無い。
ただ、そんな個人的なことを延々と説明しても退屈だろう。それならばいっそのこと……。
「質問を返すようですが、お答えするのに逆にお聞きしたいことがあります。ポロス様はなぜ剣を主武器にしているんですか?」
「ん? 特に考えてはいなかったが普通は剣を使うのではないか? ムースンも剣だしな」
「では槍を使ったことは?」
「無いことは無いが、アレは私には重い。短槍ならば少しばかり扱ったことがある」
ポロスの返事を聞き、俺はムースンに視線を向ける。彼女は肯定するように頭を軽く下げる。
「武器は様々なものがあります。何を選ぶかはその場のその時の環境と、自身の体格や魔法を含めた技量を考えなくちゃいけません。例えば……」
俺は亜空間から槍と大剣、それにハルバートを取り出し地面に並べる。
「これらは間合いが長く、その分破壊力も高いです。重量もあるため相応の腕力と技術が必要です。しかし、その破壊力は凄まじく戦場などでは敵を寄せ付けない強さを持っています」
次に直剣や短槍、メイスや棍棒を地面へと出す。
「これらは先ほどよりも間合いが狭まりますが、扱いやすく携帯もしやすいです。また刃の無いものは鎧の上から衝撃を与えることも出来るので、鎧で固めた敵に有効だったりします」
最後に短剣類、ナイフやダガーやソードブレイカーなどを出す。
「これらは更に小さく重量も無いので、護身用に懐に忍ばせたりします。ソードブレイカーなどは相手の武器を受け止め破壊するためのものですね。それに戦闘以外にも使えるので応用が利きます」
俺が次々と亜空間から武器を取り出したので、ポロスやムースンら騎士も目を見開いている。ちなみに、様々な武器を持っているのは盗賊やら襲ってきた馬鹿な冒険者から奪ったものだったりする。
「これらはそれぞれ長所と短所があります。長物は広い場所では縦横無尽の働きを見せますが、屋内や森の中などでは狭さや障害物により振り回せません。逆にナイフやダガーなどは軽すぎて攻撃力が心許ないですね。それを補う為に急所を狙ったり、毒を塗ったりします。ではポロス様の持つ剣はどうでしょうか?」
「……どっちの長所も短所も無いな。屋内でも使えるし、長物ほどではないが重量もある」
「そうです。使い勝手の良さがありますね」
「……ふむ。つまり武器の選択としては無難だったのか」
ポロスは自分の剣をしげしげと見ながら言葉を紡ぐ。
「個人的にはそのまま剣を極めるよりは、他の武器も満遍なく扱えるようになる方が良いと思います。1つの武器を極めることは素晴らしいことです。それに得意なものを持つことも大切ですが、それに固執するのは間違っていると思います。なぜか分かりますか?」
「……相手が何を使うか分からないからか?」
考えながらも絞り出すようにして答えを出した。疑問系だが、悪くない答えだな。
「良い答えですね。敵がどのような武器で襲ってきても、その扱いを知っていれば対処しやすいですね。さらに自分の武器が無くても戦えます。例えば相手から武器を奪ったりも出来ますよね」
「う〜ん。様々な武器を使えるようになるか。気の遠くなる話だな」
腕を組みながらポロスは難しい顔をする。
「でもポロス様の身近にいるムースンさんや護衛の騎士たちは、今言ったような武器は大体扱えますよ? ねぇ??」
周りにいるムースンや騎士たちに視線を向ける。
「はい。その中でも私はこの長剣が得意ですね。腕力が劣るため長物では男に勝てませんし、護衛として屋内にいることもあるので……」
「私は騎乗する場合は槍を、普段はメイスを使います」
「私はこのハルバートが得意ですね。斬る、突く、叩く、と様々な攻撃ができます。そのため扱いはかなり難しいですが……。サブには短剣を使っています」
「私も大体のものは扱えます。今日は平野に行くと分かっていたので、槍と長剣を持ってきています」
ムースンや騎士たちが各々について話し始める。騎士というのはこれら武器の扱いに長け、戦術を理解してやっとなれる職業だ。日本でも戦国時代の武士などは刀一本で戦ったりしない。江戸時代などで戦争が無くなったので、刀一本でのし上がったような剣豪はいたりするが……。
「武器1つとっても学ぶこと、鍛えることは多くあります。ですが、戦闘ではまだまだ気をつけねばならないことがあります」
「弓か!」
「ええ、勿論そうです。ただしそれ以外に ――」
「――魔法ですね!」
ミーシャが大きな声で答える。
「ええ、その通りです。流石ですね」
俺は笑顔で褒めてあげた。
「確かに……。すっかり頭から消えていたわ。ミーシャは凄いな!」
「えへへ」
ポロスはミーシャの頭を撫でながら笑いかける。ミーシャ本人も嬉しそうに目を細めて自分の頭も動かしている。
「話が長くなるので、魔法については別の機会にしましょう。最初の質問ですが、私がなぜ斧を使うのか。それは私が魔法を使うことが前提にあって選択したものです。おいおい理由は分かると思いますので、機会があればその時にでもお教えしますよ」
俺は取り出した武器らを亜空間に収納すると立ち上がる。
「では頭を使った後は体を動かしましょう! 魔物を呼び寄せますよ〜」
そして俺は午後の訓練を始まるためにゴブリンの死体をバラバラにぶちまけた。
なんだかんだでポロス一人で15体のゴブリンと、6体のホーンウルフを倒した。1日でこれだけ倒せれば大したものだった。
返り血を落としたり後始末を終えて、街への帰路でことだった。
「アレは商人ですかね?」
騎士の一人がそんなことを言い出した。俺たちが街道に戻ると二台の馬車と護衛らしい冒険者がいた。護衛は革鎧などの装備品から中堅どころの力量だと伺える。パッと見た感じ、何かトラブルでも起きたようだ。言い争いをしているようだった。
「ムースン、様子を見てきてくれ。場合によっては手を貸そう」
「ですが……」
ムースンは俺の方へと視線を向けて、どこか気まずそうな表情をする。俺はその意図に気づき、助け舟を出すことにした。
「訓練のことはお構い無く。後は戻るだけです。ただ身分は隠す必要があるでしょう」
俺の了承を得て、ムースンは騎士2人を連れて馬車へと走り出す。
「師匠、申し訳ない」
「気になさらないで下さい。今言ったように後は帰るだけです。それに領主の子として、あなたの姿勢は素晴らしいものだと思いますよ?」
「……感謝する」
黙って通り過ぎることもできだが、手を貸そうとするポロスを責める気にはならない。あの馬車の者たちが何者であれ、ビルリアに向かっているのだ。ビルリアを治める一族としては見て見ぬ振りを出来なかったのだろう。
そんなポロスを俺は好ましく思ってしまう。
――――――
「では、魔物に襲われ返り討ちにしたが、馬をやられたと?」
「はい、代わりに護衛の者たちに馬車を押してもらうように交渉していたのです」
「そーは言ってもな、馬車を押している間の護衛をどうするんだよ? 無防備な状態で魔物に襲われたらひとたまりも無いぜ?」
「では荷を捨てろというのか? あと少しでビルリアに着くというのに! 折角自由都市から数々の品を運んできたというのに……」
「それで死んじゃあ意味が無いぜ。ここは辺境だ。いつ魔物に襲われるか分かったもんじゃない! 騎士様も何か言ってくれよ」
護衛のリーダー格の男がそう言いながら私に助けを求める。客観的に言えば、この護衛の言うことは正しい。この上無く正しく、それは間違いない。
だが、この商人の言うことも理解できる。ビルリアまであと1時間ほどでたどり着けるのだ。ここで荷物を捨てるのは商人として許容できないのだろう。
こんな状態で意見は平行線を辿っていたのだろう。
事情を聞けば、そんななんとも言えない状況だ。だが、私はある解決策を思い浮かべてしまった。
だが、それは護衛の騎士としては勝手に対処できない。ここは自分の主人に判断を仰ごう。ここ数日でメキメキと頼もしくなっている主であれば、解決してくれるだろうと思う。
「……生憎だが、護衛中の身としては判断が難しい。しかし、主人に話してみよう。もしかしたら力になれるかもしれない」
私は不思議そうな顔を浮かべる2人を置いて、ポロス様の下へと向かう。
ポロス様はクオンセル殿から様々なものを学んでいる。武器についての理解も得た。以前に私が似たような説明をした事があった。その時よりもきちんと理解してくれたように思う。
そんな事実に若干の寂しさと嫉妬を覚えながらも、主人の成長を目の当たりにして嬉しさが上回る。元々優しさが目立つ少年だったが、ここに来て厳しさを学んでいる。
この事案も成長のキッカケになればいいと私は願う。




