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3-9 リュウケン

短いです。

夜にも更新予定です。


「そうか、とりあえず良かった。…そう言えば、カルアラレで何か問題でも起きたのか? 何かエルフの大切なものが盗まれたって聞いたけど?」

<相棒は耳が早いね。確かにその話は聞いてるよ。でも何で知ってるんだい?>

 俺は昇格試験のこと、ミミのこと、エルフに襲われたことを簡単に説明した。


「…まぁこんな感じだな。それにしてもエルフの魔法ってのは凄いな。一方的にやられちまった」

<彼らの魔法は特殊だしね。それに話を聞いた感じだと精霊も関わってると思うよ。まぁ森でエルフに勝つってのは難易度が高いよ>

 

「種族としての超えられない壁ってやつか?」

<そうだね。それこそチート級の能力を持った転生者とかじゃないと! ………。ちょっと待って>

 いきなり念話が切れた。何かあったのか? 疑問に思ったが、すぐにコーメーから念話がきた。


<………相棒、エルフの長老からお願いがあるんだってさ>

「俺に? なんだ? 俺に出来ることなら構わないぞ」

 コーメーを通して、間接的にだがエルフには世話になっている。今後のことを考えるとエルフとは良好的な関係を持っておく必要がある。

 コーメーとの念話を通して長老という人物とやりとりをする。


「つまり攫われたエルフの子供たちを発見・保護する。可能であればカルアラレまで護送してほしい、っことか? なぁ、これってさっき話した大切なものを盗まれた、って件のことか?」

<うん。そうみたいだね。子は宝と言うけど、エルフは長命の上に子が生まれる確率がかなり低いからね。こっちは大騒ぎさ>

 

「協力はしたいが、ギルドはもう動いているんだろう? それに逢魔の森を抜けてカルアラレに侵入して子供を攫うなんて芸当は、かなり面倒な相手じゃないのか?」

<そうだろうね。長老が言うにはギルドに依頼を出したからそっちに協力してほしいってことみたい。『黒い悪魔』なら力になってくれるだろう、ってさ>


「分かった。とりあえず明日はギルドに試験の結果を聞きに行く必要があるからこの件も聞いておく」

<うん。じゃあよろしく頼むよ。話が進んだら教えておくれよ>

 キリがいいので俺は念話を切ろうとしたが、コーメーから質問が来た。

<ああ、最後になるけどさ。ミミは元気だったかい?>

「さっき言ったろ? 仲の良い兎の獣人と楽しくやってるみたいだってさ。ただハクが本来の姿になった時に驚いてたから知らなかったんだろうな」


<ってことは危ない目には会ってないってことだよ、相棒。ビビアンに預けたのは間違いじゃなかったんじゃない?>

「そうかもなぁ。まぁ、細かい事はいいだろ。俺は今日は疲れたからそろそろ寝させてもらう。また明日な」

 俺はコーメーの嬉しそうな言葉に素っ気なく応えると、強制的に念話を切った。

 ため息をつきながら、部屋の天井を眺める。なんだかんだ言って昇格試験は疲れた。色々と考えたいことはあったが意識が遠のいていくのを感じる。俺は考えることを放棄して眠りについた。





 俺は日課の鍛練の為に、宿の裏庭にやってきた。ここの裏庭はそれなりに広いので、俺のように朝に訓練をしようとする冒険者はそれなりにいる。

 簡単な柔軟をして、型稽古をする。実は1ヶ月前から訓練を冒険者としての活動する時以外は、ある負荷を自分にかけている。俺は自分の顔周りに無魔法で空気を薄めるように抜いている。魔力で空気に干渉すれば比較的簡単にできるので、日常生活は常にこの状態だ。

 何を目的にやっているのか? 低酸素状態を維持して身体能力を引き上げようとしている。俗に言う高山トレーニングを魔法で平地で行っているような状態だ。無魔法のコントロールの訓練にもなるので、一石二鳥だ。

 ただ最初の頃は気圧の程度が分からなかったので、すぐに気分が悪くなって昏倒したこともあった。


 俺は周囲から見ると、運動量に比べて些か異常な量の汗を流し、肩を揺らすほどの呼吸をして地面に直接腰を下ろす。

 理由を知らない他の宿泊客からは体力の無い冒険者だと思われているかもな、と自嘲気味に笑ってしまう。俺は亜空間からタオルと飲料水を出して休憩を取る。


「相変わらず無茶なことをしてるね〜、少年」

 声を掛けてきた顔見知りに、俺は挨拶を返して世間話を始める。

「おはようございます、リュウケンさん。そちらも随分と調子が悪そうですよ? 二日酔いですか?」

「まぁそんなところだなぁ。古い知り合いに酒に誘われてな、奢りだって言うからしこたま飲んでやったんだわぁ。おかげで頭がガンガンと響いてやがる」

 リュウケンはそう言って、長髪を後ろで纏めている頭をさする。俺は苦笑いしながら、亜空間から新たなコップを出して水を渡す。彼はドカッと腰を下ろすと、俺に簡単に礼をして勢いよくそれを飲み干した。


 この二日酔いのおっさんにはなんちゃって高山トレーニングの初日に、昏倒してしまった俺を介抱して貰った時からの縁だ。とは言っても大した交流はなく、朝のこの時間帯に挨拶したりする程度だ。お互いにあまり自分のことは話さないが、冒険者同士ということもあって雑談レベルの情報交換をしている。

「そう言えば、少年はDランクの昇格試験を受けたんだろう? 出来はどうだったんだい?」

「なんと言うか、色々ありましてね。目標のブツは手に入れたんですが……、そこまでの過程で揉めてしまって」


「なるほど、試験のために組んだ臨時パーティーがうまく機能しなかったのかな?」

「そんなところですね。1人だけ嫌な奴がいてですね、おそらく試験に受かる気がなかったんですよ」

 俺はシンのことを愚痴りながら試験中のことをリュウケンに伝えた。リュウケンはそれを楽しそうに聞いていたが、最後には腹を抱えて笑ってしまった。

「はは、はーっははは! なるほどね〜。いやいや、その彼は中々に芸達者だね」

「芸達者? まぁ強かったとは思いますが、そんなに笑う程ですか?」

 俺はリュウケンの態度に少しばかり、苛立ってしまう。だが、彼はそんな俺を気にすることなく笑い続けた。

「悪い悪い。チョットばかしツボに入ってしまってな。ん、ん〜〜。少年はこれから試験結果を聞きに行くんだろう?」

「ええ、昼にギルドで聞かされる予定です」

「だったら、その時に俺が笑った理由が分かるはずだよ。楽しみにしておいたら良いさ」

 リュウケンはそう言って、立ち上がりながら腕を伸ばす。

「さてと、俺は軽く運動するよ。朝から楽しい話をありがとうな」

「構いませんよ。言われた通り、楽しみにしておきます。じゃあこれで」

 手渡されたコップを受け取り、俺は宿の中へと戻ることにした。


 何気なく振り返る。

 

 そこでリュウケンは舞っていた。

 両の手にフランベルジュを握っていて、振りかざす度にその刀身が炎のように揺らめく。

 2本のフランベルジュは弧を描くようにリュウケンの周りを煌めいている。

 その軌跡は波打つ刀身によっていっそう輝きを増している。


 だが驚くべきことはその使い手だ。リュウケンは1mはあろうかという2本の剣を滑らかに本当に舞うように扱っている。時には止まり、溜めを作ったかと思えば突風のような連撃をくりだす。

 斬撃だけではなく、時折足技も混ぜている。腰の入った回し蹴りは風を切って俺の耳にもその音が届く。

 じっと見ていると、リュウケンに相対する剣士の幻想が見えてくる。


 俺は食い入るように見惚れていたが、リュウケンと目が合った瞬間に現実に戻された。かぶりを振って宿屋へと戻り朝食をとることにする。


 あの舞う様な姿を見る度に自分の力量を思い知らされる。フィットに聞いた話だと、彼はAランクの冒険者だがここ数年はろくに依頼をこなしていないそうだ。生活に困らない程度に最低限の依頼はこなす様だが、積極的に活動しないことで有名らしい。

 周りからヤル気が無いと思われているらしい。

 だが、俺が知る限り彼が訓練を怠ったところを見たことは無い。

「この街は化物がウヨウヨしてるよな」


 俺は独り言を呟いた。

 でも悲観的な意味では無い。

 自分よりも強い者が多くいることは分かっている。それを超えるようになる為に日々頑張っているのだ。落ち込む暇は無い。

 朝食をかき込みながらそんなことを思う。


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