3-7 Dランク昇格試験 襲撃?
「さて、もう森はすぐそこだ。本格的に中に入る前に昼飯にしよう」
リーダーの指示で一息つくことにする。3人ずつに分かれて2交代の昼飯だ。ちなみに班分けはグチパとそれ以外だ。先にグチパが見張り役を買って出てくれたので俺たちは少し早めの昼飯を食べる。
「クオンセルは飯をどうするんだ? その荷物じゃ碌なものが無いだろう。まさか昼飯は抜くのか?」
「いやいや、ちゃんと食うさ。俺はそれなりに食事に気を使ってるんだぞ? 3食きちんと取らないとダメなんだ」
俺はシンの疑問にそう答える。俺の荷物はマント内のショルダーバッグのみだ。中には【溢れる水筒】と手拭い程度しか入っていないので、周りから見れば1泊2日の冒険にしては軽装すぎると映るのだろう。
俺はそんなことを視線を無視して【亜空間】から丼と箸を取り出す。それなりの大きさの器から甘酸っぱい匂いが鼻腔をくすぐる。これはビルリアの露店で買っておいたものだ。太めのパスタのような麺に、甘辛く味付けされた野菜や肉が入ったあんかけがかけられている。俺はこれに、別の容器に入ったお酢を回し掛けて食べ始める。
この料理は最近のお気に入りだ。理由は単純で味付けに醤油が使われていることだ。この世界には俺のように地球それも日本から転生してきた先人が多い。そして彼らがもたらした恩恵の1つに食文化がある。ビルリアでは生産されていないが、ここミスディオ王国の北西部では大豆を使った加工品が特産となっている。
つまり、醤油や味噌などの調味料が比較的安易に手に入るのだ。先ほどのお酢も同様で王国の東部の広大な耕作地で採れた穀物類から作られている。当然、稲作もしていて米も食べられる。ただ日本に比べてそれらの調味料の流通は少なく、値段も高い。だが、元日本人としては慣れ親しんだ味を求めてしまうものだ。よってそれなりの食費をつぎ込むことになったのは仕方の無いことだと理解している。
「ちょっと待て、クオンセル! どこらからその料理を出した? しかもなんで湯気が出るんだ?」
「ん? 秘密だ。なんでお前に教えなくちゃいけないんだ?」
「ぐっ。確かに冒険者は秘密主義が多いし、それをギルドも推奨している。でも……」
「まぁまぁ、これでも食えよ。おごるから。ほら! レイラも食べろよ」
俺はそう言って亜空間からドルンリザードの肉串を出して2人に一本ずつ渡す。必要以上に自分の手の内を教える必要は無い。シンは少なくとも信頼できないと思っているから尚更だ。
ちなみに、これらには甘辛い醤油ベースのタレがかかっている。焼き鳥みたいで美味しい。
「……おう。悪いな。うまいなコレ! ドルンリザードか? ―――っておい、ちげーよ! 話そらすなよ!」
「ぉぉお、ノリ突っ込みか。やるなお前」
「あの、クオンセルさん。ありがとうございます、美味しいです!」
「レイラは素直で良い子だな。もっと欲しいなら言ってくれよ?」
俺がレイラに微笑みかけていると、目の前を串が飛んでいって地面へと突き刺さる。
「シン、あぶねーよ。つーか食べるの早いな」
「美味かったからな! ―――っだからそんなことじゃなくてだな」
俺に鋭い視線を向けてくるので、シンが言葉にする前に俺が遮る。ダメだな。こいつを相手にするとイライラが止まらない。
「まぁ魔法鞄みたいなものだよ。それなりの大きさのものを収容できる。それに収容したものの時間は凍結されているので、肉が腐ったり、料理が冷めたりしない。これぐらい教えれば良いか? いや、いいだろ。納得しといてくれ」
「……聞きたいことはまだあるが、しょうがないか。でもクオンセル、お前キャラ変わりすぎじゃ無いか? 朝から別人みたいだぞ? レイラちゃんもそう思わないか?」
「……そうですね。違和感がすごいです」
シンはこれ以上の追及をやめたようだが、矛先を変えてきたみたいだ。
「まぁ、猫かぶってたしな。こっちの方が素だから安心してくれ」
シンのおかげで朝のうちに素を出してしまったので今更取り繕う必要が無い。このまま根掘り葉掘り聞かれるのも面倒くさいな。話題も変えたいし、逆に今朝の問題を片付けるか。
「それよりも、盾の代用を考えないとな。ぶっちゃけると俺は目処が立ってる。シン、お前の方はどうなんだ?」
「その話か〜。俺はわざわざ盾を用意しなくても対処できるぞ。重いし邪魔だからな、持って来なかった」
「おいおい、そのことは他のメンバーには――」
「――言ってないぞ」
「おい……」
俺は殺気を込めて睨む。
「いや、待ってくれ。悪かったよ。謝るからそんな目で見ないでくれ」
「なんなんだお前は? 試験に受かりたく無いのか? 意図的に邪魔してくるようなら相応の対処をさせてもらうぞ」
「だから、悪かったって! 別に誰かを貶めようとしたわけじゃ無い。ちょっとからかっただけだ」
「信じられないな。俺の勘がそう言っている」
俺は魔力を体に循環させ、さらに身体の周りを覆う。得体の知れない奴だから、速攻で決めに行く。そして腰を上げようとした瞬間、制止する声があがった。
「や、やめて下さい、リースカさんに見られてますよ‼︎」
レイラの声とともにその場に突風が巻き起こった。食べかけの昼飯は器とともに舞い上がって、俺のマントはバザバサと音を立てる。シンの頭は風で髪留めが飛んだのか、乱れに乱れている。
「喧嘩はやめて下さい! 私は試験に受かりたいし、2人にも仲良くして貰いたいです!」
「おい! なんだ? 何が起きた??」
騒ぎに気付いたのか、リーダーたちが駆け寄ってきた。俺とシンについてはレイラから説明が入り、喧嘩両成敗となった。また、ツキサシドリ対策については目処が立ったことも伝わった。そのあとは俺とシンが見張りを変わることにした。当然ながら別の場所を担当した。
時間となり、森へと入ることになる。このまま午後は森の中を突き進むことになる。目的地は逢魔の森との境界線である深い渓谷。この渓谷の岩肌にツキサシドリは巣を作っている。よって夜はこの渓谷で明かし、早朝の日の出前に崖を降りながら卵を奪うことになる。
「よし、では入るぞ。陣形は打ち合わせ通りに! この森にはそこまで厄介な魔物はいないはずだ。だが、油断はするなよ」
リーダーの一喝により、気を引き締めた俺たちは森へと入った。
1時間ほどしたところで、魔物の襲撃を受ける。
「ホーンウルフだ! 数が多いぞ‼︎」
前方の木々が微かに揺れた方と思うと、3頭の角の生えた狼が現れた。
「こいつらは斥候役だ。別方向からも来るぞ。後衛はレイラを囲むようにしろ」
リーダーの指示を聞き、レイラの近くに移動する。目の端で3頭のホーンウルフと戦うグチパの3人を見る。一対一の状態になっているようで、戦闘は危な気無さそうだ。確かこの魔物のランクはEランクだったはずだ。さすがに遅れはとらないだろう。
陣形の後方からガザガザという音がしたかと思うと、数台のホーンウルフが躍り出てきた。
「レイラちゃん、打ち合わせ通りによろしく!」
「分かりました」
レイラは落ち着いた態度で魔法を構築していく。一瞬のタイムラグののち、風の塊が敵に襲いかかる。ゴォオオ、という音ともに体重の軽いホーンウルフたちは瞬間的に体が浮いてしまった。
「ッシャア!」
「セイ」
俺はその隙を逃さずに亜空間から取り出した棒手裏剣を投擲。遠くの3頭の顔面に命中して絶命させる。手前にいた2頭はシンの棒術によって前足を払われた上で胸部を強打されていた。そのままぐったりとして動かない。
「まだいます」
レイラの声とともに茂みの奥から爆発音がすると、さらに2頭のホーンウルフが飛びて出てきた。爆風に驚いたのか、若干よろめいたような態勢だった。すかさずシンが駆け寄り、2頭とも棒で脇腹を突いた。鈍い音がしたことからどこかの骨が折れたようだ。
ただの棒だと思っていたが、なかなかどうして強力な一撃を放つ代物だ。突けば槍 払えば薙刀 持たば太刀、だったかな?そんな言葉を何かで読んだ記憶がある。刃の無い分殺傷力は下がるかもしれないが、十分な凶器であることを認めざるをえないだろう。それに刃が無い分、扱いやすそうだ。様々な箇所を手に持ち、支点と力点を移動させながら放つ攻撃はまさに多彩と言えるかもしれない。
「そっちは片付いたか? 負傷はして無いな、後衛組は角と魔石を剥ぎ取ってくれ。本来なら皮も剥ぎ取りたいが、今は時間が無い。俺たちは警戒しているが、気を抜かないでくれ。後続がまだいるかもしれん」
俺は剥ぎ取りが不得意だったが、角と魔石だけなので指示通りにこなした。黙って従ったのは、シンやレイラが黙々と作業していたからだ。ちなみに残った死体のうち4つはこっそりと亜空間に入れておいた。
「初めて倒した魔物だけど、この角は何の素材になるんだ? 武器にするにはあまり強度がないけど」
俺が思ったことをそのまま口にすると、シンが答えてきた。
「確か、何らかの薬の素材になるはずだ。すり潰して粉末にするだったかな?」
「そうか」
シンの回答は真偽は分からないが、他のメンバーが口を挟まないから本当のことかもな。会話を続けたくないから、相槌をそこそこにその場から離れることにした。
後ろから「レイラちゃ〜ん。俺ってそんなに嫌われてんのか?」なんて言葉が聞こえてくるが、気にしない。
そしてまだ日がそれなりの高さにある時間帯に、渓谷へとたどり着くことができた。ホーンウルフの後に4回の襲撃があった。
150cmはありそうな、巨大エリンギの魔物のウォーキングマッシュルームの群。縦に斬撃を入れると簡単に避けるので比較的楽に倒すことができた。ただ中には麻痺毒を持った者がいたらしく、グチパの1人が半身麻痺で動かなくなっていた。ちなみに、死体は普通のキノコのように食すことが出来るらしいので、なるべく多く亜空間に隠れて突っ込んでおいた。
木の枝に擬態して待ち伏せしていた蛇のブランチスネーク。1本の木を通り過ぎるときに、ぼたぼたと何十匹もの蛇がぼたぼた落ちてくる様は、生理的な嫌悪感が凄かった。毒もなく、サイズも小さいために然程の脅威では無かったのであっさりと倒した。
そして毎度おなじみのゴブリン。
最後に再び別の群れのホーンウルフが襲ってきた。この時は20頭を超える群れだったので倒すのに時間は掛かったが、大きな怪我もなく済んだ。
全てEランク程度の魔物なので、大事なく無事に目的地に着くことができた。
俺たちは渓谷近くの、岩肌でちょっとしたスペースがあるところで野営をすることにした。木や草から離れているので、視界も開けている。野営と言ってもテントや天幕を張ることはせずに焚き火を囲って寝るスペースを多少綺麗にする程度だ。1泊なので誰も準備しておらず、全員が野宿にするつもりだったらしい。俺個人としては亜空間にテントが収納されているが、変なやっかみを受けそうだったので黙っていた。
ミミたちのいるパーティーはまだ来ていないのか、別の狩場に向かったのか、合流することは無かった。
夕食は途中で倒したウォーキングマッシュとブランチスネークの鍋だった。グチパのメンバーが作ってくれたものだが、非常に美味でなんというかいい出汁が出ていた。皆んな持参した黒パンを浸して食べていたので、俺もそれに習った。そのまま大きなトラブルもなく日が落ちて、明日の卵を奪うことの打ち合わせを再度行って早めに寝ることになった。見張りは2人組で3交代だ。
俺は気疲れからか、横になると【好都合領域】を発動させたまますぐに寝た。
どれだけ時間が経ったのか。俺は見張り役だったシンの声で目を覚ました。
「敵襲! 正体不明だ‼︎ 全員早く起きろ‼︎‼︎」
俺は跳ね起きて、見張り役だったシンとレイラに近づく。
「正体不明ってなんだ?」
「分からん。ただ囲まれている」
起きてきたグチパのメンバーも合流し、リースカ試験官を囲むようにして全員で円陣を組んだ。
「なんだ? 何も見えないぞ?」
「本当に敵がいるのか?」
「待て、確かに何らかの気配がする」
最後のリーダーの声に俺は心の中で同意した。俺たちは目には見えない何かに囲まれている。しかもそれらからは敵意を感じる。確実に友好的な雰囲気ではない。
「待ってください。崖の近くに何か光が!」
レイラの声に崖の方を振り向くと、まばゆい光に当てられて身動きが取れなくなった。
お読み頂きましてありがとうございます。
お陰様でブクマが100件になりました。これって少なくとも100人の読者がいて、続きを待ってくれているような状態ってことですよね?
嬉しい限りです。励みになります。
ただ、気付くとブクマの数が減っていたりするので100件はキープできるように頑張りたいと思いす!
次話を投稿する前に100切ってたら笑うしかないですが……。
これからもよろしくお願いします‼︎




