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3-5 吐き出すものは……

「ヤオ、彼のことをどう思う?」

「……どういう意味ですか?」


「色々とひっくるめてさ、意見を聞きたいんだけどね。取り敢えず戦闘についてはどうかな?」

「……強いです」

 ヤオと呼ばれた少女は目を細めてクオンセルのことを見つめる。

「不思議な魔力を纏っています。まず単独での勝利は困難です」


「君でも無理か?」

「……正面からでは死にます。ただ方法は無くはないです」


「だが、攻撃を当てることは出来るのか?」

「……攻撃を当てなくても相手を殺す方法は無数にあります」


「なるほど、君は元々暗殺専門だしな。まぁ敵対するつもりは無いから。……あ〜、そんな顔するなよ。ごめん、悪かったよ」

「若、ワタクシを虐めないでください」

 ヤオは俯きながら、シンに反抗するように後ろを向いてします。そんな姿を見ながらシンは彼女の頭を撫でてやる。

 すると、彼女がリラックスし始めたことが分かった。全く甘えん坊だな、そう言って笑う。


「明日からの試験では別行動になる。くれぐれも同じパーティーの人らに迷惑を掛けるなよ?」

「……若以外はどうでもいいです。でも若がそう言うのなら従います。ただ若を守れなくなります」

 彼女は振り向きながらそんなことを言う。その目には強い意志と、不安げな光が入り混じっている。


「そんな目でこちらを見るな」

 再びシンはヤオの頭を撫でてやる。


「ありゃ、彼はこちらに戻っては来ないんだ。さっきまで楽しく話していたのにな。まぁ、この試験で仲良くなれるように頑張るか」

 リングから降りたクオンセルが、自分たちとは離れた位置に向かう姿を見て、シンはそんなことを言う。

「……若は彼をどうしたいのですか? 役に立つとは思えないのですが…」


「今のところは何かをする訳でもして欲しい訳でも無いさ。ただ今後のためにも彼とは仲良くなっておこうと思っただけだ。まぁ難しそうだけどな……」

「……若にはワタクシがおります」


「いや、別に友達いなくて寂しいとかじゃないからな!」

 そんなことを言って焦り出すシンを、ヤオは優しい目で見ているのだった。



     ――――――



「ふぅ……」

 俺はリングから降りて、息を吐く。別に疲れたわけでないんだが、気持ちが落ち着かない。ミミに会っただけでこんなに動揺するとは思わなかった。……だが、楽しそうで良かった。ビビアンに預けたのは間違っては無かったようだ。


「ワン!」

「ん? ハクか! 久しぶりだな。元気にしてたか」


 鳴き声に気付くと、足下にハクが来ていた。俺はこれ幸いと、その美しく柔らかい純白の毛を抱きつきながら堪能した。よしよし、きちんと手入れされているな。それになんだが、いい匂いがする。もしかしたら【血の乙女】に影響でも受けたのかな? あそこは色々と思うことはあるが、女性のみの花園だ。そんなところにいるハクから良い香りがするのは気のせいかもしれない。匂いだけでそんなことを想像してしまうのは男の(さが)か……。

 

「いや、ハクだけでも癒されるぞ! なぁハク‼︎」

「ワンワン!」

 俺はハクと戯れながら色んなことを無視した。ただ癒されることを望んで、夢中でハクを堪能した。いや、柔らかいな相変わらず。


「ハクちゃんがそんなに懐くなんて、流石ですね」

 そんな声を聞いて顔を上げると、そこにはレイラという少女がいた。目尻の下がったおっとり系の少女だ。


「挨拶が遅れました。レイラです。普段はミミちゃんとパーティーを組んでいます。ビビアンさんから少しは事情を聞いています」

 そう言って、フードを下ろす。そんな彼女の頭にはうさ耳があった。彼女も獣人だった。まぁ血の乙女なんだから、驚きはしないな。


「クオンセルだ。ミミは元気にしていますか?」

「はい。いつも元気で私は圧倒されています」

 それは良かった。本心からそう思う。

「今日も、私のせいで試験に遅刻しそうだったのをミミちゃんが引っ張って走ってくれたから間に合ったんです。あのパワーには圧倒されてしまいます」

 俺はそんなことがあったのか、と返事をしてその様を想像して、思わず笑ってしまった。

 そして彼女から普段のミミの様子を少しだけ聞いた。


「あ、どうやらミミちゃんの戦いも終わったみたいです」

 彼女の言葉につられてリングを見ると、ミミはリングで座り込んでいた。どうやら負けてしまったようだ。相手はグチパのリーダー格だったのでしょうがないか。彼だけは他のメンバーよりも強そうだったしな。

 俺はそんなことを思いながらリングに近づいた。


「ちょっと待って! 俺の相手が居ないよ。俺だけ仲間はずれか? ムカつくぜ」

 グチパの1人がそんなことを叫び始めた。……確かに、参加者が11人なんだから1人余る。今更だけどな。  


「そんなことは分かっているよ。だから君は僕が相手するよ」

 と、試験官のジュラがリングに上がろうとする。だが……

「元Bランクのジュラさんとなんて、嫌だ。ボコボコにされちまう」

 そんなことを喚く。そして周囲を見回すと、俺の足下を凝視して叫んだ。


「その使い魔を相手にしたい。試験本番でも活躍するんだろ? だったら力量を見なくちゃいけないんじゃないか?」

「待って! ハクを虐めるつもりなんですか?」

 どうやらハクをご指名のようだ。ミミが抗議するが、男は頑として受け付けない。ハクも試験に参加するのだから、戦うことにおかしな点は無い。男の言うことももっともだ。試験官も苦笑いしている。

「ハク」

 俺は足下のハクに、耳打ちをする。


「私も彼の意見に賛成です。使い魔なのですから、戦えることを証明してあげるのも手ではないでしょうか?」

 俺は手を挙げて試験官にそう進言する。ミミからキツい視線を向けられるが、気にしない。ガシガシとメンタルのゲージが減っているような気がするが、気にしない。


「でもですね〜。……使い魔のハク君はどうなんですか? やりますか?」

 判断を決めかねて、試験官はハクにやる気があるか聞いてみた。

「ワンワンワン!」

 ハクは元気よく吠えると、コクコクと頷いてみせた。

「では本人もやる気のようですし、特別に許可しましょう。両者ともリングに上がってください」


 ハクたちと入れ替わるようにして、リングを降りてきたミミが俺へと向かってくる。お怒りのようだ。

「ちょっとあなた! 勝手なことを言わないでくれませんか?」

「私は意見を言っただけですよ。それにハク自身もやる気みたいですしね」


 俺の反論にミミがブチ切れそうだったところをレイラが止めてくれた。ミミは彼女に宥められているが、視線は俺から外れることは無かった。

 ミミはハクが戦えることを知らない(・・・・)のか。


「大丈夫だよ。安心して見ていればいいよ」

 俺は微笑んでリングへと目を向ける。


「犬っころ。悪く思うなよ! かかってきな」

 男は余裕なのか、ニヤニヤしながら戦闘態勢を整える。負けるなんて微塵も思っていなんだろう。

「ワン!」

 ハクは返事するように一吠えすると、本来の姿を取り戻す。一瞬の静寂とともに現れたのは、3mを越えようかという巨大な獣だ。

 ハクは久々に本来の姿になったようで、前足を伸ばしてクゥ〜、と唸っている。仮の姿である大型犬サイズならば愛らしい仕草だが、本来の姿でやると威嚇しているようにしか見えない。


「は? は? はぁ〜〜〜〜???」

 相手の男は目の前のことが理解できないのか、叫びながら腰を抜かしている。その驚き様はリング外でも同じようで、周囲だけでなく、訓練場全体の空気が変わったようだ。ミミも口をあんぐりと開けている。


「頑張って、戦ってくれ〜〜」

 俺は男にそう言ってミミの方へと笑った。


 それからしばらくは、男の断末魔のような叫びが訓練場にこだました。ちなみに、俺がハクに指示したのは「あの男と戯れて遊んでもらえ」だ。結局、男は傷一つない状態でリングを降りることになる。精神的にどうだったのかは俺には分からない。ただ俺のイライラが完全に消え去ったのは言うまでもないだろう。




「クオン、少しペースが早いんじゃないですか?」

「……そんなことは無い! 無いよね〜、ムンちゃん?」

「そうね〜。暴れたりしないからあたしはいいと思うわよ〜」


「分かってるね〜。ムンちゃん大好き〜〜」

「キャッ! クオンちゃんここじゃダメよ。オイタシしないの!」

「はぁ、クオン。君は試験を明日に控えているんじゃ無いのですか? そんなんで大丈夫ですか?」


「良いんだよ! 今日は泊まって、ムンちゃんに起こしてもらうんだからね〜」

「ね〜〜」


「はぁ……。レニ、本当に大丈夫なのかい?」

「ムンちゃんはまだまだ酔ってないから大丈夫よ。そんなに心配しないでも大丈夫! あたし達はこれでもプロよ」


「君たちに不満は無いし、信頼しているさ。でも当の本人がコレですからね」

「こんなに酔ってるクオンちゃんは珍しいけど、何かあったの?」


「私も聞いた話だから、何とも言えないんだけど。どうやら昇格試験でねーー」

「フィット! 適当てことを言うな!」

「言うな〜〜」


「はいはい。酔っ払いは黙ってて下さいね。……ほら、コップを齧らない。ふーっ。ーー聞いた話だと、試験にミミちゃんが来たらしいんですよ」

「ミミちゃんって前に話してたあの子? 確かに記憶が……」


「そう。その子です。なんでもその子と今日会ってケンカしたらしいんですよ。なんでも使い魔のことで揉めたみたいですね。ーーちょっ! クオン。吐くなら外でお願いします。ムン、さっさと連れて行って!ーーまぁ、そういうことですよ」

「それで酒に溺れるって……。クオンちゃん、らしいって言えばそうね。そんなことなら手放さなきゃ良かったのに」


「まぁ色々と考えがあるんですよ。とにかく、明日の試験に遅れないようにしてもらわなくちゃ。ましてや不合格なんてなったら……」

「不合格になっちゃいけないの? また受ければ良いじゃ無い。クオンちゃんならすぐになれるわよ」


「いや、ちょっと領主様絡みであってですね。私としては是非とも今回の試験に受かって欲しいんですよ」

「あら、商売の話? だったら失敗できないわね。分かったわ。ムンちゃんに精だけじゃなくて酒やらなんやら吸い取って貰うように言っておくわ」


「……頼みます。試験のためにも体力だけはそれなりに残しておいてくださいね」

「それは本人の頑張り次第じゃないかしら。うふふ」


 そんなこんなで、夜の楽園はその闇を一層深いものにしていった。


明日の夜に続き投稿します、

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