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3-4 イライラは良くない

 ミミの挨拶はたったそれだけの言葉だったが、場の空気を変えたような気がした。気のせいかな?

 でも少なからず俺に対して、良く無い印象を持っていた6人組はニコニコしている。可愛らしい少女の登場で機嫌が変わるとか、単純というか、なんというか、分かりやすい奴らだった。


 そんな感じで自己紹介が全員分終わった。ちなみに2人組の殺気を放っていた女の方がヤオ、男の方がシンという名前だった。男は軽い感じでやほー、と言いながらだったのが印象的だった。【血の乙女】の片割れはレイラと言って、魔法使いらしく紺色のローブ姿だった。……グチグチパーティーの事は聞き流していたので知らん。


「では、今回の昇格試験について話すよ。さっきも言った通り受験者全員をこちらでシャッフルして2組のパーティーを作る。そして、君らにはこの街から北西の森に行って『ツキサシドリ』の卵をパーティーの人数分持ち帰って来てもらう。明日の2番鐘が鳴るとともに出発して、明々後日の日没を期限とするよ。質問はあるかな〜?」


「ちょっと待ってくれ!」

 グチグチパーティーの1人が慌てた様子で声を上げる。

「北西の森ってことは、『逢魔の森』に行くのか?」

「いいや、そこまで奥には入らないよ。というか入りたく無いでしょ?」


「もちろんだ。だが、逢魔の森付近に行くのは御免こうむりたい。試験で命を落としたくは無い」

「その辺りは安全マージンを取るよ。パーティー2組とも僕かリースカが同行する。本来は試験中の審査が目的だけど、危険な場所に行かないように進言もする。ただ道案内役では無いからね、勘違いはしないで欲しい。基本的には君たちで全て意志決定してもらう。事前の情報収集や当日の行動は君たちの責任下でよらしく。それでもイヤなら今回の試験は辞退してくれ」


 なるほどね、通常の依頼を受けた時と同じわけだ。ツキサシドリの卵を取ってきて欲しい、って依頼を新造パーティーで受けたようなもんだな。

 それよりも逢魔の森ってなんだ? 俺以外みんな知ってるみたいな反応だったし、後で誰かに聞いてみよう。まぁ反応を見るに危険な場所なんだろうけど。

 とりあけず辞退する者は出なかったな。


「では、これから君たちにはパーティーに別れてもらい、手合わせをしてもらう。いきなり新造パーティーで命をかけろ、というのも酷だからね。お互いにどの程度の力量か、戦闘スタイルの確認も含まれている。……あ、ここでの勝敗は試験には影響しないから安心してくれ。ではパーティーを発表する」



 俺のパーティーは、シンという男、【血の乙女】の女の子、グチグチパーティーの3人で合計6人だ。担当試験官はリースカという無口な男の方だ。


「では手合わせを始めよう! ちなみにリースカは回復魔法の使い手だ。安心して戦ってくれ。決闘をするわけでは無いので、命の危険になりそうな攻撃はしないでくれよ」


「よし! じゃあ俺が1番乗りだ! 誰か相手をしてくれ‼︎」

 俺のパーティーから声が上がる。シンという名の男だ。あの殺気を放った女の相方だ。

「じゃあ俺が相手になろう」


 名乗り出たのはグチグチパーティーの1人だ。長剣を持った男で、軽めの素材の防具からスピードを活かしたタイプであることが分かる。

 シンの方は手に150cm程の長さの棒を持っている。槍のように金属が付いていたり、尖っているわけでは無いので、やはり『棒』だ。しかも木製だ。あれが主武器なのか? 変な奴だな。


 まぁお手並み拝見だな。



「シッ!」

 長剣の男が低い体勢で一直線に距離を詰める。なかなか速い。対するシンの方は右手で棒を軽く持ったままだ。

 長剣は下段に放たれて足を掬うような軌道を描く。シンはそれを棒を地面に突き刺すようにして、攻撃を受ける。そしてそのまま笑顔になると、右足で棒の中心辺りを足蹴にした。棒は右手から離れて長剣を抑えたまま地面に叩きつけられる。

 なんだそりゃ!


 長剣を手放してしまった男は、距離を取ろうと飛び退こうとする。シンは踏んづけていた右足の甲で棒を蹴り上げるとそのままキャッチして男へ向けて突き出す。

「っせぃや!」

 気合いの入ったその突きは男の左肩を撃ち抜く。

 そのまま男は2m程、後ろへと吹っ飛んだ。幸い後方へと逃れようとしていたので、それほど大きなダメージにはならなかったようだ。勝負は一瞬だったな。


「私の勝ちだね」

 シンは涼しげにそんなことを言って、リングから降りてきた。そしてなぜか俺のところへと来た。入れ替わりにリングにはヤオとグチパーの誰かが上がった。


「さっきはツレがスマンかったね」

「……なんのことだ?」


「惚けないでもいいでしょー。でも許してくれよ。彼女も悪気があったわけじゃなんだよ」

「はぁーーっ、訓練所で無差別に殺気放ってる女が普通なわけないだろう? 悪気も何もないだろう」


「いや、なんか知らないけど変な魔力を感じたらしくてな。反応してしまっただけみたいだ。あいつ、ちょっと敏感なんだよ」

「その辺は良く分からないが……、殺気を向けられる方の身になってくれ」

 高ランクの魔物が放つレベルだったぞ、あれ。それに変な魔力? 俺は感じなかったけどな。


「まぁまぁまぁ、俺に免じて頼むよ」

 そう言って右手を差し出してきた。

「俺はシンって者だ。半月前に帝国から来た流者だ。これからよろしく頼む」

「ああ、クオンセルだ。こっちこそよろしく」


 胡散臭い空気を纏っているので、好意的な対応はしないようにする。外面営業スタイルはお休みだ。


「じゃああんたがハーピー討伐で活躍したって噂の人かい?」

「どんな噂か知らないが、……多分そうだ」


「こんなところで有名人と会えるとはな〜」

 嬉しそうな雰囲気を醸し出してちゃっかりと俺の隣に立つ。まぁ試験のためとはいえ、臨時パーティーを組むんだから無視したりするのも後に響きそうだ。でもこいつと話していると、なぜかイライラする。


「大したことはないさ。それよりもツレの応援は良いのか? 苦戦しているみたいだぞ?」

 俺はリング上の戦いへと視線を向けさせる。

 ヤオという女は片刃のショートソードを持ちながら、リング上を動き回っている。対戦相手の魔法を避けるための動きだが、回避に専念している為か旗色が悪い。少なくとも飛んでくる火玉を掻い潜って攻撃に転じるような素振りは無い。


「あ〜〜、大丈夫だ。あの程度の相手なら問題ないさ。そろそろ動くんじゃないか?」

 そんなやり取りが聞こえたのかは分からないが、勝負が動いた。


 ここにきてヤオが突然、魔法使いへと走り出した。確かに彼のように遠距離の攻撃魔法を得意とするスタイルは懐に入るのが1番手っ取り早い。だが、そんなことは相手も分かっているわけで……。対策をしていないわけがない、

 魔法使いは口の端を釣り上げると、左手をかざす。それと同時に地中から鋭い突起が付いた壁がせり上がってきた。火だけではなく土の適性もあるようで、土壁の構築は中々素早いものだった。あいつ、戦う意味忘れてんじゃないか? 当たれば致命傷になる類の魔法だぞ?

 だが、リング外で観戦していた者たちは全員が意表を突かれることになる。

 なぜか分からないが、出来上がった土壁はヤオとは明後日の方向に出現したのだ。しかも、当の魔法使いはそのまま「串刺しになれー」、とか叫んでいる。串刺しなんて、致命傷だろう……。


 結果としてそのまま魔法使いの懐に入ったヤオが当身を食らわせて勝負あり、となった。


「なんだ今のは?」

「さてな、見間違い(・・・・)でもしたのかな」

 シンは適当に適当に相槌を打つ。だが、ヤオが何かしたのは明らかだ。その種を教えてくれることは無いだろうから、聞くことはしない。


 そして、ヤオたちと入れ替わりでリングには血の乙女のレイラと斥候風の出で立ちの男が上がる。

 ヤオも俺の方へと歩いてきた。いや正確にはシンの元へ、が正しいか。

「……若、遅くなりました」

「なんだシン、お前はどこぞのボンボンなのか?」


 俺は素直に思ったことを口にしたのだが、気分を害した者が居たようだ。すぐ近くから殺気が膨れ上がるのが分かる。

「きさまーーっ!」

「やめろヤオ」


 俺に飛びかかってきそうな勢いのヤオをシンが棒を使って制した。対応出来ない速さでは無かったが、シンが止めなかったら確実に攻撃してきたはずだ。少しばかり驚いた。この女は沸点が低そうだ。

「すまないね、クオンセル。彼女は忠義に厚いだけなんだ」

「それだけか? そうなるとお前とは軽愚痴も叩けなくなってしまうな」

 友達少ないんじゃ無いか? と続けるとシンは凹んだのか、俯いてしまった。


「…若、ワタクシがおります」

 ヤオが一生懸命に宥めている。凹んでいる原因が自分だと彼女は分かっているのだろうか? 俺はヤオという人間は変な奴、というレッテルを張ることにした。


「おい、お前。次は俺たちの番だからな」

 グチパーの1人が俺へと声をかけてきた。おそらく手合わせのことだろう。

「分かりました。ではリング近くまで移動しましょう」


 俺はシンへと顔を向けるが、まだ下を向いているようだ。心なしか地面が少し湿っているように見えるが、見なかったことにしよう。

 友達がいないとシンに突っ込んでいる俺だが、自分も似たり寄ったりだと思い、次は少しだけ優しく接してあげようと思うことにした。


 そんな決意とは関係なく、リング上の勝敗が決まったようだ。レイラはくしくも斥候タイプのスピードに対応出来なかったようだ。首元にナイフを突きつけられて硬直している。彼女が弱いというわけではなく、実戦経験が少ない印象を受けた。単純に言えば、距離が縮まる度に攻撃が雑になっていた。普段からあまり前に出ることが無いのだろう。おそらく純粋な遠距離魔法を得意とするタイプだ。


「お疲れさん」

 俺はリングですれ違う際に簡単に声をかけた。特に深い意味は無い。単純に臨時パーティーのメンバーとしてコミュニケーションをとっておこうと思っただけだ。


「じゃぁ始めるか!」

 俺の対戦相手は槍を構えてこちらを見て睨む。

「噂じゃ、けったいな火魔法を使うようだが……。俺にそんなもんが通じると思うなよ」

 あれは火魔法じゃ無いんだが……。魔道具ですよ、と訂正するのが面倒なので反応はしない。ただゆっくりと近づいていく。


「なっ!?」

 俺の行動が意外だったのか、相手は驚いているようだ。まぁ、あちらんからしたら俺はこてこての魔法使いだと思われているだろうから、驚くのは無理もない。普通の魔法使いならば、距離を詰めるというのは己の利点を潰すようなものだからだ。


 俺は無手の状態でそのまま歩く。相手との距離は3mまで近づいた。相手の得物は槍で、2mはありそうな長物だ。そろそろ手を出してくるはずだ。


「舐めやがって!」

 相手は俺の胸目掛けて槍を突いてきた。訓練されたもん自分のない威力のそれは、無情にも俺に当たることはない。だが、繰り返し連続で突いてくる。

 肩を、腹を、首を、足を、腕を、頭部を狙った蓮撃は全て空を切ることになる。


「何しやがった!」

 相手は状況を理解できないのか、ただ喚く。俺は気にせず近づくと、槍を掴んだ。身体強化と日頃の鍛錬で鍛えた筋力は並ではないようで、片手で掴んだ槍が動くことは無かった。その槍の持ち主は顔を赤くして力んでいる。


「じゃあ終わらせようか」

 俺は呟いて、両手で槍を掴む。そしてそのまま引き抜き、手ぶらになった相手の足を払う。最後に倒れた男の目の前に槍先を向ける。


 最近、イライラしていたので完膚無きまでに圧倒する勝ち方をしてしまった。でも、俺がそれなりの実力を持っていることが広がれば、噂にかこつけて絡んでくる輩も減るかもしれないな。そんなことを考えながらリングを降りようとする。

 すると、見覚えのある犬耳が見えた。


「お兄さん、強いんですね! 憧れちゃいます」

 邪気のない、明るい笑顔でミミが話しかけてきた。俺は何をするでも無く、所在無げな片手で頭を掻きながら「君も頑張ってね」と声をかけてから逃げるようにリングから降りた。



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