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2-34 立ち止まる

今話で二章終了です。

「………」

「おや、なぜそんな顔をされてるんですか? 毅然とした態度ですよ!」


 俺は急に色々と語りだす執事、もといアルバートを見る。胡散臭いおっさんを見る目を意図的にしているのだが、アルバートはそんなのを気にせずにスラスラと語り続ける。



「繰り返しますが、師匠のようにとまでは求めませんが、あなた様にはもっとどんと構えて欲しいんですよ。そう師匠のようにです………。ああ、戦場を駆け抜けぬけるその姿はまさに戦女神。数多の敵をその清き水流で押し流し、吹き飛ばし、穴を穿つ。あの流麗な所作までやれとは言いません。ですが、あなたならあの方に近づけるはずです。いや、新たな英雄となれるはずでは無いのでしょうか?」


「は? はぁ」


 彼が何を言っているのかよく分からない。だがどうやら俺の祖母であるキシリを尊敬?していることは理解できる。

 戦女神って、この執事は何を言っているだろうか? むしろ鬼神とかの方が的を得た表現な気がするが……。



「……アルバートさん、あなたのお考えについてはまた今度話を聞かせて下さい。それよりも、なぜ私と行動を共にしたいと言ったのですか?」

「簡単なことですよ。誰かに邪魔されずにあなた様と話したかったのです。クオンセル殿のことを知りたかったのです。それに師匠から私のような同門に会うようにも言われていたのでは?」


 キシリからはネパシーヴァ教のことで、各地の弟子に情報を報告するように言われていた。墓守の一族の件もあるし、どこかで会いたい、と思っていたのは事実だ。それに現地の人から役立つ情報を貰いたいという下心もあった。


「そうですね。お伝えしたいこともあります。ですがハーピーとオークのこともあるので、これが落ち着いたら時間を頂けると嬉しいです」

「そうですね。そう致しましょう。……それはそうと、私などには敬語など使わずとも良いんですよ?」


 …アルバートとは距離を置きたい一心で、自然と敬語になっていた。どうやらお気に召さないらしい。


「兄弟子にそんなこと出来ませんよ」

「お気になさらずに、もっとフランクに行きましょう」


「いや、それはさすがに……」

「そうですか? 残念ですが、仕方ないですね」


 意外とあっさり引き下がった。


「それで、ハーピーとオークの件ですが……」

「ああ、あの有象無象はさっさと処理すれば良いでしょう」


「さっさと、ってそんな簡単に言わないで下さいよ。さっき100体のオーク相手に危ない目にあってるんですから」

「またまたご冗談を。その程度の数など大した問題でも無いでしょうに。あなた様の強さはその程度では無いはずです」


 アルバートは俺を買い被っているのか? さっきから変な発言が多いが、彼にふざけている様子はまるで無い。俺があの数のオークを蹂躙出来ると勘違いしてるのか? いや、もしかすると……。


「もしかして、さっきハーピーを倒した火魔法のことですか? でもあれはこの森では使えませんよ? 山火事になるし、そもそもあれは魔道具の力ですし」

「あれは魔道具だったのですか? 今度見せていただきたいですね。……でもそんなものを使わずとも大丈夫では無いのですか?」


「いや、無理ですよ。買い被らないでください」

「……そんなことは無いと思いますが、でしたら有象無象は私の方で処分しましょう」


 そう言ってアルバートは話を切り上げると、移動速度を上げて走り出した。







 俺は目の前の光景に唖然としてしまう。


「【土砂降り(ヘビーレイン)】」


 彼がそう呟いて、手を振り下ろす。すると、上空から無数の岩礫が降り注ぐ。今までも土魔法による石飛礫は何度も見たことがある。つい先ほどもオークメイジに同種の攻撃を受けました。

 だが、眼前で繰り返される魔法は俺の知るものとはレベルが……、そう次元が違うものだった。


 岩礫の1つ1つが頭よりも大きく、その速度はなんとか目で追える程もので、その魔法をうけているオークらに回避する術など無かった。


 俺は200体は居たであろう、かつてオークだったものに目を向ける。そのほとんどが原型を保っておらず、ただの肉片と化していた。数秒で多くの生命が失われた瞬間だった。


「ブ、ブギャ……」

 だが、数体のオークが死体と岩礫の山から這い出てきた。その体は金属鎧で覆われている。オークジェネラルだ。


「ふむ。鎧のせいですか? いや、同胞を盾にでもしたのでしょうか?」

 アルバートはそんなことを呟きながら右手を前へと突き出す。


「【強弾(ストロングショット)】」

 魔法を唱えると同時に1体のオークジェネラルが吹き飛んだ。そしてアルバートは他のオークジェネラルへと手をかざすと、また他の1体が吹き飛んだ。

 俺にはアルバートが何をしたのか分からない。おそらく目にも止まらない弾速で石飛礫を打ち出しているものと思われる。なぜなら、俺には視認できないので憶測でしか無い。


 俺がその魔法に驚き、恐れている間にオークは全滅した。


「クオンセル殿、終わりました。奇襲・追撃班に合流しましょう」

 アルバートはなんでも無いような顔で、その殺戮現場を進んでいく。まるで散歩しているような気軽さで歩いていく。


「……強いですね」

 俺は思ったことをそのまま口にした。


「そうですか? 私自身それほど弱いとは思っていませんが、そこまで強いとも思っていませんよ」


「いや、でもーーー」

「ーーー広域殲滅が得意だと言えます。例えるなら、向き不向きですね。私は対人戦ではエスペランサには勝てません。でも彼女よりも多くの敵を屠ることが私には出来る。今回のような戦いでは圧倒することが出来る。……それだけですよ」


 アルバートの言うことは分かる。でも俺は彼と対峙して勝てる自信が無い。あの強弾とかいう魔法を躱すことは出来そうにない。

 俺自身、対人戦に特化した戦闘スタイルであることは自覚している。自分の魔力特性のせいで広範囲の魔法攻撃が出来ないからだ。


 俺は釈然としないままだ。


「それに私の魔法はあまり使い勝手が良くありません。魔物相手では大破させてしまうので素材が得られません。ここのオークたちも傷がない魔石が残っていれば御の字ですね。さぁ早く行きますよ」


 俺はどこか釈然としないままアルバートについていくのだった。






「ん? アルバートさんではないですか。どうしてこちらへ?」

「フラン殿、お怪我もなさそうでなによりです。防衛班の方へ300羽程のハーピーが来ましてね。多少の混乱はありましたが、それらを駆除したのでこちらの様子を見にきました」


 俺たちが湖に着くと、そこでの戦闘はもう終わっていた。作戦参加者が手当てをしたり、倒した魔物から素材や魔石を剥いでいたりしている。その中にはオークの上位種やハーピーの変異種だろうか、通常の個体よりも大きな体を持ったものが見える。それらを処理する冒険者の顔はどこか誇らし気だ。


「こちらは想定外のことばかり起きたが、無事に依頼達成できたというところでしょう。死人もいませんし、被害は想定内ですね」

「さすがは高ランクの冒険者の方々ですね。C.Dランク(それ以外)の方々も良い経験になったとも言えるでしょう」


 確かに中堅どころとしては貴重な体験なんだろうな。トップクラスの戦いを見れるし、ともに戦って感じるものも多いだろう

 

「そうですね。アルバート殿、防衛班の被害は?」

「死亡は8人で怪我人は治療中です。まぁ、低ランク冒険者にもいい経験になったのでは無いですか?」


 そうか、8人も死んだのか。あの数のハーピーに襲われたんだ。実力的に仕方が無いといえばそうなのか? でも死人が出ていたのか。遅れてしまった俺に非難が向くのも分かるな。

 いや、ちょっと待て……。


「アルバートさん、さっきのハーピーとの戦いでは手を抜いていましたね?」

「ん? ……ええ、そうですよ」


 俺の指摘に、悪びれもせずに彼は答える。

 俺が野営地に着いた時、アルバートも戦っていた。戦ってはいたが、あの圧倒的なまでの魔法は使っていなかった。やっていたのはハーピーの翼を撃ち抜き墜落させていたくらいだ。



「でも、あの戦闘では死者も出ているんですよ? あなたが本気で戦っていれば、死人どころか怪我人も出さずに済んだと思いますけど!」

「…クオンセル殿は私のせいで死人が出たと非難されているのですか?」


 俺は思わず力強く頷いてしまう。別に知り合いが死んだわけでは無いけど、死人が出るのは悲しい。それに防衛班にいた冒険者はほとんどが若い者たちだ。そのことが俺の頭を更に熱くさせる。俺は

意図せずアルバートに食ってかかってしまっていた。


「前途ある若者をあなたは見殺しにしたようなものじゃないですか? そんなんで良いんですか?」


 俺の言葉に少しだけ驚いたような顔をするが、彼は俺の視線を真っ向から受け止める。

 俺は珍しく他人を非難している自分に驚く。それがなぜなのか、よく分からない。強さへの嫉妬からから、名も知らない冒険者への同情か、はたまたそれ以外のなにかか…。


「クオンセルは何を言っているんだ?」


 俺が自分の発言によって妙な思考の渦に巻き込まれ始めていると、隣からそんな声が聞こえてきた。


「アルバート殿は元々領主様のご配慮で今回のハーピー討伐に参加されている。つまり冒険者では無いのだ。それに死んでいった者については残念だが、彼らは冒険者だ。依頼を受けたからには、その全ての行動は自己責任だ」


 フランは俺の批判を切って捨てる。


「ましてや戦闘に手を抜いたから誰かが死んだ? だからなんなんだ? 仮に私がそれをすれば現場指揮として問題があるかもしれんが、アルバート殿はただの執事としての技量で支援役として本作戦に参加しているんだ。戦闘に参加してもらい感謝こそすれ、非難するなど有り得ない」


 アルバートの立ち位置など知らない。

 分からない。でも……


「……でも、アルバートさんには力があるじゃないですか! 力がある者には相応の責任があるのでは? やれるのにやらないのは卑怯では無いのですか?」


「力ある者には責任がある……。それはなんの責任ですか? 弱者を助けるもの? 脅威を取り除く責任ですか? クオンセルの言っていることはよく分かりませんね。あなたは何が言いたいのですか? 強者に頼りたいのですか? だったら冒険者など辞めーーー」


「ーーーフラン殿、その辺りで宜しいのでは無いでしょうか?」


 アルバートによってフランの最後の言葉は遮られた。そして俺の方へと顔だけを向けてこう言った。


「あなたの目指す『立派な人間』では私は無いです。色々な打算やしがらみがありますし、元々善人でも無いですからね」


 そこまで言って俺に背を向ける。


「あなた様はまだ弱い、それに経験も浅い、目指すべき目標もあやふやなようですね。でもそれが悪いとは言いません。今はとにかく落ち着いて休むことをお勧めしますよ」


 そう言ってフランとともにこの場を去っていった。

 俺はただ俯き拳を強く握ることしか出来なかった。


 こうして、俺の初依頼は苦い思いを残したまま無事終了したのだった。

ここまでお読みいただいてありがとうございます。


勝手ながら本編の更新はしばらくお休みさせていただきます。半月程止まる予定です。

これからもUnThikableをよろしくお願いします。

またキリがいいので、もし良かったらお気にや評価やら感想など頂けると嬉しいです。ではでは

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