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3-1 invite to

「おーい、そっちに2体ほど抜けて行ったぞ」

「りょーかい、こっちは任せろ」


 俺は返事と共に前進する。目の前には2体の魔物。ワニによく似たそれらは、その長い脚を使って素早く移動している。ドルンリザードと呼ばれるこの魔物はワニの外見のくせに偶蹄類のような体つきだ。10体程の群れで生活する習性がある。機動力が低いのでその強力な顎力にさえ気をつければさして脅威では無いEランクの魔物だ。

 ちなみにこの魔物は食肉として人気が高い。癖がなく淡白な味が魅力だ。


 俺は亜空間から鎖分銅をとりだす。そして小さい分銅側を回転させてから、大きく弧を描くように投擲する。うまい具合に先頭をかけるドルンリザードの脚に絡まったのを確認する。そのまま自分の体を動かして2体目の前脚に鎖を引っ掛ける。

 弛んだ鎖を振りながら操り、2体目に鎖を絡めて生け捕りにした。一種の捕縄術だ。さすがに亀甲縛りにしたりはしない。ワニの亀甲縛りなんて誰得にも程がある。


「いやー、さすがだね。でもなんで生け捕りに?ま」

 俺の後方にいた魔法使い然としたロープ姿の女性が話しかけてきた。


「せっかくの美味しい肉なんだから、きちんと血抜きをしたいでしょう? こいつらはすぐに血を抜かないと臭みが出てしまうからね」

 言いながら俺は鎖を思いっきり引っ張る。身体強化を施した腕力により、1体300キロはありそうなドルンリザードを2体同時に引き寄せる。


「だから生け捕りにして、しっかりと首を落として血抜きをしようと思ってね」

 俺の台詞に納得したのかは分からないが、この女魔法使いは曖昧な笑みをこちらに向ける。


「……力、強いんだね」

「それほどでも無いよ。これぐらい少し鍛えればみんな出来るさ」

 女魔法使いは微妙な雰囲気で苦笑いをしていた。





「いやー、クオンセルのお陰で今回の依頼は随分と楽ができるな」

「ああ、おまけにドルンリザードを8体だぜ?」

「普段なら持ち運べないから断念するところだったけど、クオンセルのおかげで移動もスムーズに出来る」

「そうね。これなら臨時とは言わずに正式にパーティーに入って欲しいわ」


「いえ、ありがたい話ですが……」

「分かってるよ。ピュール、クオンセルを困らせるなよ」

「だって!」

「アハハハ、なんだピュール。もしかしてクオンセルに惚れでもしたのか?」


 ピュールと呼ばれた女魔法使いはからかわれていること知ると、顔を真っ赤にしてそっぽを向いてしまった。そんな様子をこの一団は楽しそうに笑っている。


 彼らはEランクの冒険者で構成されたパーティーだ。現在、俺は臨時にそのパーティーに入り、ある依頼をこなして街へと戻る途中である。

 あのハーピー討伐が終わってから1ヶ月が経っている。俺は無事にEランクになり、来週にはDランクの昇格試験を受けることになっている。受付嬢の話によると、同じように昇格試験を受ける人たちと何かしらの依頼を受ける事になるらしい。

 今まであまりパーティーを組んだ事が無かったので、練習や見識を広めるためにここ1週間ほどは臨時に様々なパーティーに参加させてもらっている。何かトラブルを起こすこともなく、色々な人物と知己を得るのも楽しいものだ。

 今回参加したこのパーティーは皆、気のいい連中なので知り合えて良かったと思える。少し騒がしいのが玉に瑕ではあるのだが…。




「では素材の買取金額はこちら、依頼達成の報酬額はこちらになります」

「あいよ。……ほらクオンセル。あんたの取り分だ」

 パーティーのリーダー格の男が俺へと分け前を渡してくる。銀貨4枚だ。


「人数割にしては多いようですが?」

「あんたには素材の運搬で助けられた。その分色を付けさせてもらった。なに、臨時収入もあったんだ。気にしないでくれ」

 臨時収入とはドルンリザードのことだろう。

確かに普段よりは稼げたのは事実だろう。


「分かった。有り難く受け取っておくよ。じゃあまた機会があれば!」


 俺は軽く頭を下げてこの場を後にする。仕事終わりの打ち上げがあるだろうが、誘われる前に退散する。今夜は予定があるのだ。

 それに、分け前を多く貰ったと言ってもEランクの稼ぎだ。はっきり言ってあまり多くない。そういった店では今日の稼ぎなどすぐに吹き飛んでしまう。


 冒険者にランクがあるように、街の店にもランクはある。貴族御用達の高級店には、冒険者であればBランクぐらいの稼ぎがないと通えない。飲食店では1皿で銀貨数枚の値段のものまであるのだ。いや、上を見ればキリがないのでもっと高級なものも存在しているらしい。まだお目にかかってはいないが。

 そう考えると、今日倒したドルンリザードなどはまさに庶民の味だろう。串焼きにして屋台では銅貨1枚で2本は買えるだろう。まぁ安くても美味いのだから文句は無いが、格差を感じてしまうのはしようが無いのだろう。俺は仮にも侯爵家の出身ではあるし、今でもそれなりに金はあったりするからな。


 俺は宿屋に戻り、シャワーを浴びて汗や汚れを落とす。季節はそろそろ秋に差し掛かろうとしているが、まだまだ暖かい。シャワーから出る冷たい水が心地いい。

 部屋に戻り、手持ちの中でも余所行きの綺麗めな服に袖を通す。今夜会う人物のことを考えると、普段のマント姿では失礼だろう。とは言っても今着ているのは、貴族様のような豪華な装飾の無い、清潔なだけの服でしか無い。


 俺は目的地に向かって進む。途中、ビルリアの貴族地区と商業地区の境目にある広場だ。ここから街並みは面白いように変化していく。


 この辺境にあるビルリアという街には幾つかの区分がある。領主が住まう地域は様々な貴族の屋敷も存在していて貴族地区とされている。また冒険者ギルドの支部がある場所は商業地区と言われ様々な店舗が軒を連ねている。厳密にはその中でもランク分けされた区分があるのだが、細々していて未だに把握しきれていない。

 他には農地が広がる地区や、一般市民の住宅街やスラムなんてのもある。

 この辺境都市は魔物が多く、それを狩るために優秀な冒険者も多く活躍している。その為か、辺境と呼ばれる立地の割にはかなり栄えている。バスタリアの王都程ではさすがに無いが、魔物の素材を扱った商売でなかなかのお金が落ちる。それは武器防具であったり、食事であったり、趣向品で会ったりする。そして、それらを多くの冒険者が購入することで上手くお金が回っているようだ。

 だが、そんな街でもスラムは存在する。これは必要悪とも言えるのか、どうしても人並みに馴染めない存在は生まれてしまうものである。

 まぁそういった場所から来る人材も貴族や商人には価値があったりするものだから、釣り合いは取れているのかもしれない。よーするに、人には言えない汚れ仕事などに打ってつけというわけだ。



「はぁー、ここに来たのは2度目だが、やっぱり豪勢な建物ばかりだな」

 俺が進む道には大小様々な屋敷が建っている。それぞれの敷地面積も広いのだろう。垣根や壁に隔たれていて中を見ることは出来ないが、立派な庭などが広がっているのだろう。

 建造物に造詣が深いわけでは無いので難しいことは言えないが、金が掛かっているのだけは分かった。


 俺はその中でもとりわけ大きな屋敷の前にたどり着いた。屈強そうな門番が3人いる。俺の姿を確認して、場違いな身なりに眉をひそめている。


「…何用だ?」

 無駄なやりとりもなく、職務に忠実な門番に少し好感を覚える。


「ご招待されて来ましたクオンセルと申します。Eランクの冒険者です」

 そう言って数日前に宿屋に届いた招待状とギルドカードを手渡す。


「ちょっと待て、確認する」

「お願いします」


 3人のうち1人が門の中に入り、敷地内の交番みたいな建物に入っていった。おそらく門番らの詰所みたいなものなのだろう。その中から2人の男が出てきて1人は屋敷へ、もう1人はこちらへ来た。


「さぁ、入ってくれ。こっちだ」

 俺は指示された通りに門をくぐると、そのまま男に連れらて屋敷へと向かう。


 門から屋敷までかなり距離があり、見事に手入れされた庭を歩くことになった。この庭の広さだけでもサッカーコート1面分以上はあるのでは無いだろうか。また庭のそこかしこに季節の花だろうか、椿のような花が咲く箇所があった。そこは無数の花に彩られた何かの祠のようなものだった。

 花を愛でる趣味は無かったが、不思議と美しいと思えるものだった。


「ようこそおいで下さいました。クオンセル様、どうぞこちらへ」

 いつぞやの狸執事と同じ格好をした初老の執事が出てきた。

 通された屋敷の中は、夕方という時刻の割には明るかった。おそらくランプのような魔道具が大量に使われているのだろう。内装については、拍子抜けするほどあっさりしていた。むしろ実家の方が煌びやかな物があったかもしれない。

 だが豪華さというものは無いが、隅々まで手入れがされているし、家具や置物などの質が悪いわけでは無さそうだ。個人的には装飾過多のいかにまなお貴族様よりかは好感が持てるものだ。


「申し訳ありませんが、夕食にはまだしばらくお時間があります。お時間になりましたらお呼びしますのでこちらでお待ち下さい」


 通された部屋で俺はソファーに座りくつろぐ。しばらくしてメイドがお茶を持ってきた。驚いたことに持ってきたのはウーロン茶だった。この地の特産品とは聞いたことが無いので、どこからかの取り寄せだろう。

 俺は暖かいウーロン茶を楽しみながらこれからのことを考える。

 そもそも今回のことは、面倒ではあるが約束していたので逃げることが出来なかった。しかも相手が相手である。何を言われるか分かったものでは無い。

 しかも予想が外れなければ、アイツもいるはずだ。あの件以来、会うことは無かったがどうにも苦手だ。出来るだけ顔を合わせたく無い。何を言われるか分かったもんじゃ無いし。

 そんなことをあーだこーだと考えいると勢いよく扉が開かれた。


「久しぶりだな、クオンセル‼︎」

「…えぇ、お久しぶりですポロス様」


 扉から入ってきたのはいつかの金髪碧眼の美少年だった。


次は日曜に投稿します。

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