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1-5 修行の始まり

「よし、まずは飯だ。さぁついておいで」

 そう言うと、足早に部屋を出て行く。おれは遅れないように彼女の後ろにつき従う。

 

 途中、床が土で覆われた広間の前を横切った。中には魔法の練習中なのか数人がペアになったりして、お互いに魔法をぶつけ合っている。


 ある組では片方が火球を無数に生み出し相手にたたきつけている! 攻撃された方は火球と同じ数の水球を生み出して、それを巧みに操って相殺させている。


 ある組では土魔法で自分と同じサイズのゴーレムを作り出して、互いに殴り合いをさせている。


 そして中央では一人の魔法使いが生み出した結界に向かって、4人が四方からそれぞれの魔法を打ち放っている。結界の強度チェックか? リンチしているわけじゃないよな?


 随分と実践的だったり、危険な内容なんだな。魔法の使えない俺には地獄のような修行内容だ。

 俺はふと、気になったことを師匠に聞くことにした。


「師匠、質問をよろしいでしょうか?」

「ん、なんだい? スリーサイズは教えないよ」


「いや、祖母のスリーサイズなんて知りたくも無いですよ。……この施設には何人ぐらいの人がいるんですか?」

「今は弟子兼使用人が30人くらいかね。それ以外は事務方や裏方に3人いる程度だよ」

 

 これは多いのか、いやこの規模の施設を考えればやはり少ないんじゃないか? でも少なくとも俺の先輩は30人いるわけだ。イジメめられないかな。ちょっと心配だ


「そうですか。修行内容についてですが、もしかして師匠に直接ご指導していただけるのですか?」

「ん~、そうだな。本来ならばうちの高弟に面倒を見させるんだが、アンタの体質では放り込んだ途端に死んじまうからね。初めはあたしが面倒見てやるよ」


「ありがとうございます」

「……どっちが幸せなのかは分かんないけどね~。―――さぁ着いたよ!」


 何か、聞き捨てなら無い言葉が聞こえたような気がしたが、俺の直感が聞き流せと言っている。

 食堂では、腹こそ膨れるがどこか漢方のような味のした食事をとった。

 おなか一杯の食事が出るだけましかもしれない。後で聞いたら疲労回復などの効果のある薬草が入っていたようで、漢方のような味はそれが原因のようだ。


「さぁ、次はアンタ専用の部屋に案内してやる。付いて来な」

「えっ? 個室を頂けるのですか?」


「まーそうだね。細かい説明は着いてからするよ」

 

 まさかの一人部屋? 勝手にだが兄弟子たちとの雑魚部屋で、掃除・洗濯・料理などをやる共同生活を想像していたのだが、なんだかいい意味で期待を裏切られたな。


 だが、俺はこのキシリという人物を見誤っていたことをすぐに知ることになる。




「ここは……」

 師匠に連れて来られてのは、二十畳程はあろうかという全てを白く塗られた窓の無い部屋だった。

 白塗りとは言っても照明は少なく全体的に暗い印象で、家具の無い殺風景は光景はどこか独房を連想させた。いや、映画とかで見た精神病患者の部屋の方が似ているかもしれない。比較的清潔だし。


「どうだい、新人のガキが住むには広すぎる部屋だろう?」

 人相が歪む様な悪い笑みを浮かべながら、師匠は声をかけてくる。


「えぇ~、非常に広い部屋に驚いています。でもおっしゃられたように私のような者には分不相応なのでは?」

「いいや、アンタにはここが最適なのさ」 

 

 と、言うや手を引かれて俺は部屋の中央に座らされる。


「では、早速だが修行の段一段階を始める。アンタには1ヶ月間この部屋だけで生活してもらう」

 衝撃の告白に、状況が理解出来なかったために反応が出来ずにいた。そんな俺を余所に話はどんどん進んでく。


「食事の心配はしなくていい。日に2度この部屋まで運ばせる。それに3日に一度は湯も用意してやるから身体を拭きな」

「えっ?あの…」


「あぁ~、心配しなくていい。そこの隅の衝立の裏がトイレだ」

 いや、そんなことの心配をしたのではない。なんだこの状況は? 俺は軟禁されるのか??


「さて、一通りの説明は済んだね。言っておくが、あたしのことを師匠と呼ぶからには命令は聞いて貰う。多少の文句や生意気な態度、質問には目を瞑るがこれは絶対遵守だ。いいね?」

「………」


「分かったのかい? 分かったのなら返事をしな」

「は、はい」


「よし。ではこれからこの修行内容について話す」


 なんだか良く分からないが、逆らうことだけは駄目だと直感が言っている。

 そんな俺に嬲るような視線を向けながら、キシリはこの修行の詳細を告げる。


「アンタにはそこの壁一面に『現時点で自分が出来ること』を書いてもらう。なるべく具体的にな。筆と墨はこれを使いな」

「えっ? 何でですか??」


「つべこべ言うな! 2週間後に1度様子を身に来るがそれ以外でのあたしとの接触は無い。というよりも他者との接触を禁ずる。当然だが食事や湯を持ってくる者にはアンタに干渉するなと伝える。では頑張りたまえ、落ちこぼれ君」


 そして、扉を閉め鍵を何箇所かかける音がしたのち、静寂が訪れた。


 こうして、俺の修行生活が始まったのだ。






  ――――――





 

「よろしいのですか?」

 あたしがクオンセルを残して部屋から出てくると、弟子の一人が声をかけてきた。


「いきなり何のことだい」

「勿論お孫さんのことですよ。まさか本当に一ヶ月もこの【内省の間】の中に?」


「言った通りだよ、何か文句でもあるのかい?」

 不満そうな弟子を一睨みする。

「い、いえ決してその様なことでは……」


 この程度で萎縮するくらいなら、意見すんじゃないよ。さっきは5歳のガキがこれ以上のプレッシャーに耐えていたってのに…。高弟のくせにだらしないね。

 この弟子は現在この施設にいる4人の高弟の1人だ。

 実は彼が気圧されてしまう程のプレッシャーをキシリはクオンにかけていた。普通はこの弟子のように黙って委縮してしまうのだが、クオンは負けじと言い返してきた上にあたしに反発して意見までしてきた。


 あのクオンセルという子は非常に面白い子だ。


 ミランダからの手紙に『頭のいい子』と書かれてはいたが、きっとそれ以上の何かが有るとキシリは睨んでいる。

 クオンならば1ヶ月くらいは大丈夫だろうと思った。ただの直感ではあるので、確証はまったく無いが…。

 それに一度様子を見るのだから、修行が達成できるかどうかは別として問題は無いだろう。

 そこまで考えて、ふと疑問に思ったことを高弟に聞いてみる。


「そーいえば、アンタの時は何日くらいだったっけ?」

「初めて入った時は、一週間で根をあげて扉を破壊して出てきました。今でも一ヶ月以上も入っていられる自信はありません」

 

(……アイツにはちょっと長かったかな?)

 

 キシリは少し後悔しそうになったが、駄目なときは駄目でしょうがない。と考えてクオンセルのことを頭の中から消した。


「それよりも、他の高弟を道場に集めておくれ。ちょっと緊急の話がある」


 そう言って彼に用事を伝えると静かに、目的の場所へ歩いていった。


しばらく内面がメインの修行期間です。

あんまり爽快感は無いかもしれませんが、大事な部分なので、読んで下さい。

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