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2-29 先人たちは語る



 執事に案内されたそこは、バスケットコート1面は有りそうな広さの天幕だった。その中には現場総指揮のフラン、彼女をリーダーとする【血の乙女(ブラッディメイデン)】の副長のビビアン、教会から派遣されている回復魔法使いのリーダーである初老の男、騎士のような出で立ちの精悍な顔つきの男、俺を連れてきた執事、そして俺の6人だけだ。

 どうやらこのメンツがこの班の主だった者たちなのだろう。半分は知らない顔だ。一昨日この街に来たばかりなので当たり前と言えば当たり前だ。


 そんなことを考えているとビビアンから声をかけられる。


「よぉ色男、さっきぶりだな」

「……お陰様で、俺のパーティーは絶賛会議中だよ」

「ビビアンから話は聞いています。彼女にはきっと何か理由があるはずです。頭ごなしに叱責するようなことはしてはいけませんや」


「ん? パーティーってお前は仲間は、あの嬢ちゃんだけだろ?」

 何故か、お前には友達は1人しかいないだろう? と、脳内変換されてしまった言葉に怒りを覚えるが 思いとどまる。俺にはフィットという夜の街で親交を深めた親友がいるのだ! ボッチなんかじゃない。


「……どうせすぐバレるから先に言っておくけど、俺はコーメという魔精霊と契約している。それに使い魔も一頭いて、こいつは人語も理解できるくらい賢い。こいつらも俺のパーチィーメンバーだ」


 俺の言葉に天幕内のメンツが思い思いの反応を示す。そして近くの人間と話しだしてしまう。


「まぁ言いたいことはあるだろうが、今は俺が何故ここに呼ばれたのかを教えて欲しいんだが…」

「ああ〜。単純な話だよ。あたしを倒したあんたのことをここに居る会いたいって言うから呼んだんだ」


「え? それだけ??」

「それだけだよ。時間的にも飯時だから夕食ご馳走しやってことだ」


 予想だにしていなかった単純な理由に俺は信じることが出来ずにフランを見る。彼女は俺と目が合うと静かに首を動かして肯定の意を示す。


「だけど貴方にもメリットはあるはずですよ。ここにいる皆さんと知己を得ておくとビルリアで少しは生きていきやすくなると思います」

「そうか、それは確かにありがたい話ではあるな。口調は改めた方がいいか?」


「私はそのままでも構いませんよ。皆さんはいかがですか?」

 騎士風の男がそう言って周りを見渡すが、特に反論は無いようだ。


「では夕食にしましょう。まずは今夜の動きのおさらいをしておきましょう」



 フランが宣言した通り、夕食が運びれてからの話題は今夜の作戦行動のおさらいだった。フラン自身は夕食後は追撃班に合流して直接指揮をとりながら戦うのだと言う。


 作戦は大まかな流れで言うと以下の通りだった。


 ハーピーの住処である湖、及び洞窟を東・北・西の3方向から奇襲班が広範囲の攻撃魔法を放つ。そして南だけを残し、囲うように戦闘を継続する。


 南の方向へと逃げ出すハーピーたちを追撃班が掃討する。また追撃班の一部は奇襲班の囲いから逃げだしたハーピーを始末するために、広範囲に点在している。


 ある程度のタイミングを見計らって、南側から湖へと進行する。4方向からの囲いを完成させてこれを殲滅。


 防衛班は追撃班ですら取り逃がしたハーピーが、ビルリア方面に来るのを防ぐためにこれを処理する。またフランからの伝令を受けて最終的には湖へと向かい、怪我人やハーピーの死骸の処理を手伝うこととなる。


 一通りの説明を受けて、俺は疑問に感じたことを口にする。


「ハーピーは空を飛ぶんだ。上空に多く逃げられた場合はどうするんだ?」

「もっともな質問ですね。ですがそれはハーピーの性質上あまり問題にはしておりません。ハーピーは夜目があまり効かないので、夜はあまりたかく空にあがることはありません。またある程度の集団高度を主としているので、単独で逃げ出すことも少ないです」


「ハーピー以外の魔物はどうなんだ? いくら冒険者と言ってもハーピーを囲いながら、後ろから攻撃されたらひとたまりもないだろう」

「これは斥候からの情報だがな、ハーピーの住処にしている森には現在、他の魔物がほとんど居ないそうだ。普段なら鬱陶しいくらいいるゴブリンやオークなんかも含めてな。どうやら大量のハーピーがあの森の他種族を食い荒らしているらしい」


 俺の質問にフランとビビアンを中心に答えが返ってくる。さすがは高ランク冒険者だ。俺でも感じる注意点には指摘される前に検討・解決がされているのだろう。俺の質問にほとんどタイムラグなく答えているのがその証拠だ。


 だが、そんなやり取りをしている更なる疑問が浮かんできた。


「最後になるんだが、今回のハーピーの大量発生の原因は分かっているのか? ギルマスに聞いた限りじゃ4年前にも同じようなことがあったらしいがその時は巣を壊滅させたわけじゃ無いんだろう?」

「……まだ推測段階でしか無いが、今回の大量発生は4年前の討ち漏らしが集まり4年間で繁殖したと言われている」


「でも最近までハーピーの目撃情報すら無かったんだろう? いくらなんでも森の生態を変えてしまうような規模にいきなり変化するとは考えられなく無いか?」

 俺の指摘に何人かが驚きながらも同意するように頷いているのが見て取れる。ギルマスが言うには最も近いハーピーの生息地は馬で一週間以上も離れているらしい。


「だが、推測をたてるための情報が少なすぎる。それに、今は原因を突き止めるよりも目の前の脅威を取り除く方が重要だと思う。原因究明はそれからでも遅くはないだろう」

 騎士風の男がそう言って少しざわついたこの場を収める。

 ちなみに、彼は領主の私兵である騎士団の団長らしい。名前をアンガストというらしい。フランが現地へと向かった後は彼がこの防衛班の指揮をとることになってい。


「アンガスト団長の言う通りだな。俺も別段不満があるわけでも無いし、団長の言う通りまずはハーピーを根絶やしにするのが先だろう」

 俺はそう言って質問を終えた。俺が聞きたいことはもう無いので、お暇しようとしたが、


「おい、なに帰ろうとしてるんだよ。散々質問してきたんだ。お前も質問に答えろよ」

「そうでだな。俺も聞きたいことがいくつかある」


 ビビアンが人の悪そうな笑みを浮かべて後ろから俺の方に手を置く。いつの間にか背後に回ったのか、魔法だろう。だがこんなことで身体強化を使うなよ。それに、アンガストも悪ノリして俺に興味深げな視線を送ってくる。


「答えられるものだけでいい。まずは精霊と契約していると言っていたが…………」

 それから俺は質問攻めにあう事になる。フランは早々にこの場を離れて追撃班のところへと向かった。






「おい、クオン。取り敢えずお前が悪いと俺は思う。テントに戻ったら彼女に土下座しておけ!」

「朝帰りなんて…。あたしもクオンが悪いと思う。今夜にでもパーティーを抜けるって言い出すんじゃ無いか?まぁ、本当にそうなったらあの子はうちで貰ってやるよ」

「それならそれでいいさ」


 俺が質問を受ける番になると、休む間もなく次から次へと質問が飛んできた。初めはコーメーやハクのことで盛り上がった。空間の精霊とガルムの存在はそれ自体がかなり珍しいものらしく、かなり細かいことまで聞かれた。

 ガルムの好物とか知らないよ。肉じゃ無いのか? ハクは、俺たちの飯をよくねだってくるので雑食なのは間違いないが肉を好んでいるのは知っている。

 そんな質問にネタが無くなると執事の男と回復魔法使いのリーダーもこの場去って行った。


 俺もそのタイミングで逃げ出そうと思ったのだが、ビビアンに捕まった。「ミミのことも聞かせろよ〜」と、再び肩を掴まれた。女の話なら自分も加わる、と言ってアンガストも寄ってきた。そして、酒を飲んでもいないのに絡んでくる2人を連れて天幕を出たのが先ほどのことだ。


 あたりは真っ暗で月も出ている。おそらく作戦開始まで時間は少ないだろう。それなのにこの熊女と好色団長はミミのことを根掘り葉掘りと聞いてきて今に至る。

 へそを曲げているミミについても、昨夜の楽しい時間のことや、先ほどの火の海事件のことも話した。その結果、なぜか俺は地面に正座させられている。


「いいか、クオン? 俺もカミさんにはよく怒られる。あいつは家に帰るのが遅いといらんことまで想像してくる。若い女の団員に鼻の下を伸ばしているだの、付き合いで飲んでいるのに、お前が行ったような店に通っているだの…。俺の話を聞きやしない。言い訳をするなんてやましいことがあるでしょ? だとさ」

 アンガストは拳を強く握って俺に語りかけてくる。


「だがな、俺は悟ったんだ。そんな変な勘ぐりをさせてしまうような甲斐性の無い自分が悪いんだと。

本当のことだろうと何だろうと、カミさんの機嫌が悪い時はまず謝れ。ひたすら謝れ。カミさんの怒る空気を感じたら瞬間的に俺は誤っている! そして愛しているのはお前だけだと囁くんだ。お前も同じことをしてみろ! それで問題は無くなるはずだ。ガハハハハハハ」


 アンガストの言うことは変に生々しく、気持ちが込もっていた。だが、語るときに涙を流している姿を見る限り、かなり無理をしているように思える。騎士団長の夫婦関係とか普通は聞けないし、悩みを聞いてくれる相手もいないのだろうか? それに本当に問題は無いのか?

 俺へのメッセージと言うよりも、積もる思いをさらけ出してストレスを発散しようとしているように思える。


「でも団長。俺はミミと結婚しているわけでも無いし、付き合っているわけでも無い。それに11歳の子供だぞ? そんな女心みたいなものはまだ持っていないだろう」


「クオンはバカか! バカなのか?! この唐変木が‼︎」

 今度はビビアンが俺の頭をバシバシと叩きながらバカだ、クソだと罵ってくる。特殊な性癖は持っていないので嬉しく無い。ただ痛いだけだ。それに相手は2メートルオーバーの巨体だ。痛い…。


「叩くな馬鹿力め! てぇい‼︎ さっきから痛いんだよ。それになんでお前にバカ扱いされなきゃならない?」

 俺は文句を言いながら頭に振り下ろされる手を取ると、一本背負を決める。ビビアンはグアっと女らしく無い声を上げると、笑いながら起き上がった。ダメージは無いようだ。


「女っていうのに年齢なんて関係無いんだよ。それに昨日のあの子の言い分を考えればあんたに好意を抱いているのは間違いない。そうだろう? 身に覚えはあるはずだ」


 立ち上がってビビアンはそんなことを言い出した。ミミが俺に好意を持っているって? そりゃあ、確かにそんな言動はあった。分かっている。


「そんな顔をするってことは心当たりがあるんだね。それに対して、あんたはどんな態度をとってるんだい?」

「どんなも何も、あいつはまだ子供だろ? それに友人から託され子なんだ。好きとか嫌いじゃ無いんだよ」


「はぁ〜〜。あんたも中々だね。獣人は成長が早い。11歳と言えば恋心の1つや2つあっても可笑しくない。それにあんたの事で、このあたしに喧嘩を売るような子なんだよ? それを子供扱いして態度を保留にするなんて、随分とカッコ悪いんじゃ無いかい?」


 ぐっ、ビビアンは正論を言っているような気がする。だが11歳は前世ではまだランドセルを背負っている年齢だ。好きとか嫌いはあるかもしれないが、憧れや尊敬と区別がつかないようなものだろう。そんな彼女に何を言えって言うんだ?


「あー、なんだかミミ(あの子)が可哀想になってきたよ。クオン、あんたはそこの情け無いバカ亭主の話でも聞いてあげな。あたしがあんたの代わりにミミを慰めてやるよ」


 ビビアンは俺の返事も聞かずにその場から離れていく。後輩思いの優秀な冒険者と聞いてはいたが、俺が思うにあよ熊女はただのお人好しだ。まぁ感謝はしてやるか。


 俺はどうやらミミに対して、態度を決めないといけないらしい。

 この作戦が終わったらキチンと話をつけよう。俺はそう思って隣で自分の世界に浸っている団長を回収しようとする。だが、その時異変が起きた。


 ――――ドン! ドドン‼︎


 静かな夜の空気に爆発音が響き渡る。離れた前方の森に火の手が上がっているのが見て取れる。


 そして再び爆発音が聞こえてくる。

 いやそれは1度や2度じゃない。立て続けに魔法が放たれているのがわかる。奇襲で広範囲魔法を使うことは聞いていたが、これほど連発するものか? 

これでは余力が残らないんじゃ無いか?


 そんなことを考えていると、今度は空高く、2つの火球が上がると盛大に弾けた。


「な? そんなバカなことが?」


 どうやら爆発音で我に返ったようで、隣でアンガストが目を見開いて不吉なことを言い出した。


「なんだ? あれは何かの合図か?」

「……ああ、あれは作戦失敗の合図だ。クオン、皆を集める。フランから伝令が来るはずだからお前もパーティーを連れてさっきの天幕まで来い!」


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