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2-26 戦って分かること


 ビビアンは先ほどよりも遅めのスピードでこちらへと突っ込んでくる。右手を大きく振りかぶると、そのままメイスを投擲してくる。メイスは回転しながら俺の顔めがけて正確に投擲されている。


 だがこの程度では俺の【好都合領域コンビニエント・エリア】は破れない。この魔法を展開した俺に、魔力の込もらない飛び道具が当たることは無い。これは無意識で出来ることだ。そーゆー風に魔法をイメージしプログラムしているからだ。だが魔力が通っている武器や肉体などは、この魔法で反らすことは出来ない。手を使い意識的に発動すれば可能ではあるが………。


 つまりこの飛んでくるメイスは放って置く。

 ビビアンはメイスと同じ直線上をなおも突き進んでくる。ただ一箇所、左手に持つメイスに変化があった。何らかのギミックだと思うが、メイスの先の金属部分が棒の先からこぼれ落ちたのだ。だがそれは地面に落ちることなく空中で止まる。どうやら俺の目には映らないが、紐か何かで固定されているのだろう。

 確かこの種の武器はフレイル? いや先端部の金属が丸い形状だからモーニングスターか。

 そして先ほど投げられたメイスが俺の横を通り過ぎるタイミングで、真上からモーニングスターの先端部が落ちてくる。だが、この攻撃も俺は避けることなくやり過ごし、再度カウンターを合わせて拳を放つ。

 しかし、俺の拳がビビアンに当たることは無かった。足元が爆発した。俺は反射的に魔力を下半身に集中させる。だが、爆発の勢いを殺す事は出来ず、そのまま俺は爆風で軽く吹き飛ばされてしまう。


 空中で体を回転させて、しっかりと地面に足から着地すると同時に負傷箇所が無いかを確認する。…少し足に痛みを感じるが戦闘に支障は無い。


 それよりもさっきの攻撃は何だ?


 俺は先程まで自分がいた場所を見る。そこは地面がクレーター状になっていて、その中心に変形モーニングスターを持ったビビアンがいた。そしてこっちを見ると笑いながら語りかけてきた。


「どうやらあんたの魔法障壁みたいなので、あたしの魔法を防ぐことは出来ないみたいだね。それにさっきの感覚からすると衝撃を受け止めるんじゃなくて、滑らせるような性質を持っているようだね。詳しくは判らないけど、攻撃を阻害するようなモノだろうね。……ふふん、不思議な魔法を使うじゃないか」


 

 俺はビビアンと対峙しながらも、自分を殴りたい気持ちで一杯になった。もちろん今の状況でそんなことはしない。ただ自分に慢心があったことを自覚する。


 ビビアンは数度の打ち合いで俺の魔法の効果を冷静に分析出来ている。完璧とは言えないが、対応するためには十分な情報を得ている。それに引き換え、俺は彼女の言葉からさっきの爆発が魔法によるものだと推測をたてることしか出来ない。


 純粋な格闘技術にはさほどの差は無いと思われるが、旗色はこちらが悪い。だが観察眼や分析力などは彼女に上をいかれている。やはり冒険者、それも高ランクはその報酬や地位などに釣り合う実力の持ち主なのだろう。

 確か、ウェンキッシュが言っていたな。「いい冒険者っていうのは頭が良くちゃなれない。依頼を受ければ、常に予測不能な出来事が起こり得る。それらを対処するためには物事を冷静に観察して、生き残る為にきちんと対処する頭のキレが必要だ。…………俺か? 俺はその辺は本能と経験でカバーだ! ハッハッハツ!」


 きっと彼が言いたいのはこの事だろう。未知の敵に遭遇したら絶対に必要なもので、冒険者に欠かせない要素だ。



 うん。細かい反省は後にしよう。今はその事に気付けただけで良しとしよう。相手を舐めていたことも認めよう。彼女は格上だ。彼女の冒険者としての経験は俺の比ではない。俺は挑戦者なんだ。


 1度大きく息を吐いて、俺はしっかりと目の前の敵を見据える。いま最も信頼できるのは自分の体だ。そしてオリジナルの魔法。後は度胸くらいか?!


 俺は腰を低く落とす。

 さぁ、ここからは俺の番だ!



     ――――――



 私は目の前の光景が信じられない。あの少年は何なんだろうか? 私の親友でもあり、チームの特攻隊長でもあるビビアンの猛攻を受け切っている。あまつさえ、反撃をする余裕まである。彼女はランクこそまだCではあるが、純粋な戦闘力ではこのビルリアにいるBランクに負ける事は無いだろう。

 あの気性のせいで少々周りとトラブルを起こしがちだし、身内に対して甘いから外部からの評価はあまり高くない。チームでも下位の新人達の指導や、依頼に同行したりしているから、自分の能力に相応しい依頼を受ける事が少ないからだ。そのためギルドへの直接の貢献度は低い。自分よりもチームの妹のような存在達を優先して大事にする、そんな優しい女性なのだ。


 だから彼との戦いは、日頃本気を出せない彼女の良い発散になると思っていた。だが、思った以上にあのクオンセルという少年が強い。

 彼女は奥の手こそ出していないが、ほとんど全力を出しているのでは無いだろうか? それに先程繰り出したモーニングスターを介した魔法は、普段の戦闘では見せない大技だ。それを初見で受けたというのに彼はさほとダメージを受けていない。


「末恐ろしい少年ですね」

 私は思わず考えていた事を口にしていたようだ。その発言で周囲の視線を集めてしまう。


「戦わせてみて正解でしたね。やはり英雄キシリの血を引くものと言ったところでしょうか。ただ報告にあった火魔法は使わないんですね」


 私の独り言にギルマスが言葉をつなぐ。どうやら彼女は彼の実力をそれなりに知っているようだ。さっき冒険者登録したばかりだと言うから、独自の情報ルートで得たものだろう。発言通り、ビビアンと戦わせたのはその実力を探るためだったのだろう。


「火魔法とは何ですか?」

「あんまり教えてはいけないんですか……、先ほど貴女にお伝えしたハーピーと戦闘して勝利したのが彼です。そしてその際に火魔法を使ったと聞いています」


 ギルマス直々にハーピー討伐作戦の現場指揮を取って欲しいと、依頼を受けたのはついさっきの事だ。これから他の冒険者にも詳細を伝えて、作戦への参加希望者を募るところだった。

 その作戦のキッカケになったハーピー50話を倒したのが彼なのか。それが本当ならばあの戦闘力は頷ける。ハーピーは単体では脅威では無いが、集団になると非常に厄介だ。それを退ける力を彼は持っているということだ。だがしかし……。


「ではあの少年はビビアン相手に手加減をしていると?!」

 新人が随分と舐めたことをしてくれる、そんなことを言おうとしたが1人の声に遮られた。


「手加減では無いですよ。事前に決めたように死ぬような致命傷を与えないように、戦い方を限定しているだけです。それに炎については別の理由です」


 少年の連れだったか、犬の獣人である少女がそう言い放ったのだ。彼女はあの少年よりもさらに若い。だがその目は真剣に目の前の戦闘を追っている。何が起きているのか、どんな攻防がおこなわれているのか、一時も見逃さないように視線が外れることが無い。


「では彼は、ビビアンを殺すほどの何かを持っているということですか?」

 私は少女の発言に問いを投げかけるが返事が返ってくることは無かった。戦闘に変化が起きたのだ。


「どうやら決着がつきそうですね」

 ギルマスの発言通り、少年の纏う空気が変わっている。何かを狙っているようだ。

 この場にいる全員がその決着を見逃すまいと、全神経を彼に向けることになった。



     ――――――



 俺はこの戦闘で初めて先に仕掛けた。俺が彼女を確実に上回っているものはスピードだ。だったらやることは1つだ。懐に入って重い一撃をブチ込む。あの体格と武器なのだから、懐に入ってしまえば逆に安全地帯になるはずだ。


 俺は下半身に魔力を重点的に循環させる。初動は柔らかく、全身をバネにして弾けるように動く。正面から突っ込む俺に対して、ビビアンは笑みを浮かべて迎撃態勢をとる。

 正面から打ち合うとでも思ったのだろうか? だが俺はそんなリスキーなことはしないし、出来ない。足をつんのめさせると、彼女の3メートルほど手前で斜め後方へと弾かれるように下がる。

 そして再び別の角度から突進をする。そしてまた同じように弾けるように彼女から離れる。


 俺の行動の意図が掴めないのだろう。ビビアンは顔を歪めながら、得物を手に迎撃態勢を取り続けている。さらに数回それ繰り返すと、彼女は怒り出したようだ。「やる気はあるのか?」

 そんな罵声が聞こえてくるが、気にしない。むしろやる気満々だ! そのまま同じ行動を繰り返す。


 するとビビアンは俺が仕掛けているモノに気づいたようだ。子供が悪戯をする時のような悪い笑顔を浮かべると黙って構える。どうやら俺の攻撃にカウンターを合わせるつもりらしい。


 俺はそんな彼女をよそに準備を続ける。


 そして準備は整った。


 ビビアンの周囲を2メートル程の高さの土柱が何本も取り囲んでいる。全て飛び跳ねながら、無属性で作り上げたものだ。

「いいねぇ! 何をしてくれるんだい?」


 ビビアンの挑発に俺は行動を持ってして応える。



 俺は地面に足をつけることなく、土柱を足場に三角跳びの要領で飛び跳ねまくる。時に死角から攻撃を仕掛け、時に離れ際に棒手裏剣を投げつけ、時に新たな土柱をビビアンの近くに作り出す。

 俺は自信をピンボールの球のようにイメージを続ける。決して止まらずに動きまくった。スピードは更に増し、彼女を翻弄する。訓練場には俺が土柱で跳ね返る音しかしなくなっている。

 そして土柱の数が50を超えた辺りで俺は仕掛けた。


 土柱で作り出した死角に潜り込み、土柱を半ばで折ると5本ほど山なりにしてビビアンへと投擲する。

 そして投げ終わった瞬間、今まででの最高速度で地を蹴り、柱で飛び跳ねる。


 ビビアンは上空からの土柱に気を取られて俺にまだ気付いていない。俺は一気に距離を詰める。


 だが、ビビアンは俺に気づいた。モーニングスターで空からの落下物を叩き落としながらも、高速接近する俺に気づくなんて、つくづく凄いやつだ。でも……


「もう、おせぇーーー!」


 俺に振り下ろされるモーニングスターよりも早く、彼女の片足にタックルをかます。そのまま掬い上げるようにして態勢を崩させて寝転ばせる。そのまま抱きつくようにしてチョークスリーパーを極める。そして、暴れまわるビビアンの意識が飛ぶまで耐えた。





「イタタタ……」

「全く、なんで勝ったあなたの方が傷だらけなんですか」


 ギルマスの半ば呆れたような声に苦笑いごまかす。ビビアンが思った以上に強かったんだからしょうがない。

 

「なぜあのような勝ち方をしたんですか、クオンセル君? 他にも勝ち方はあったはずです」

 フランが気を失っているビビアンをチームのメンバーに任せて、俺に話しかけてくる。


「……。大した意味は無いですよ。事前に決めた死なないように、ってものが1番大きいですね。それに…」

「…それに何ですか?」


 気恥ずかしくなって言葉を飲み込んだ俺にフランは逃さないとばかりに、至近距離まで近づいてきた。はぁ〜〜。


「それにビビアンさんが、予想以上に強くて凄くてカッコ良かったから……。だから武器に頼らず自分の信じられるこの体で立ち向かおうと思ったんです。そうしたらあんな戦法になりました。他意は無いですよ」

 きっと魔道具や魔力掌を使えばもっと楽に戦えたと思うけど、ビビアンを殺していたかもしれない。それにそんな勝ち方をしたくなかった。何と言おうと俺のわがままだね。


 そうですか、と無表情で頷く。納得してくれたのだろうか。俺は近くに寄ってきたミミの手を借りて立ち上がる。歩けない程じゃ無いので後で普通のポーションで治そう。この程度でグインから貰ったポーションはもったい無い。販売されているとポーションの手持ちは、ポロスを守る騎士たちに使ってしまってストックが無いのだ。


「ではさっさと掲示板の所まで行きますか。思った以上に時間がかかってしまいましたしね。そうだ、これは無理を聞いてくれたお礼です」


 ギルマスがそんなことを言いながら俺へと抱きついてくる。不意打ちに反応できずにそのまま抱きしめられてしまった。

 女性特有のいい匂いがして、頭がクラクラしてくる。それに何だか体が熱くなってしまう。しずまれ俺よ!

 数秒そうしていると、ギルマスはパッと俺から離れていく。体温の暖かさが失われて、物足りなさを感じているとミミが抱きついてきた。


「あたしだってぇ〜〜!」


 いや、俺けが人だから! そんや飛びつかないで!……ん??


「治ってる?」

「さぁ、行きますよ皆さん!」


 俺の体から痛みが消え、傷も見当たらない。

 どうやらギルマスによって回復したようだ。あの一瞬で傷が塞がるとは……。大した怪我では無かったが、驚異的な速度。

 ギルドマスターの肩書きは伊達では無いようだ。


「ところで、そのギルドからの重大発表って何なんですか? 私も聞いておく必要があるんですか?」


 俺の質問にギルマスは美しい顔を子供のように破顔させて返答をする。


「ハーピー討伐作戦の発表と参加志願者の受付ですよ。あ、クオン君も参加してもらいますね。これはギルドマスター命令です」


ビビアンとの戦闘シーンは後で変更するかもしれません。ですが、話の筋は変わることはありませんのでお気になさらずに。



断っておきますが、クオンセル最強系ではありません。自分が生きるために、障害となる敵は殺すことを前提に戦います。だからミスディレクションなどを活用して不意打ちが好きなんです。


正面から戦うとあまりめちゃめちゃ強くは無いです。現状はそんな認識を持っていただけるとありがたいです。


では、今後もUnThikableをよろしくお願いします。

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