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2-25 力量

「はぁ………」


 俺は今この状況を理解出来ないでいた。…正確には理解したくないって方が正しいか。

 でもやるしか無いな、死にたくないし。


 目の前には熊の獣人で、身の丈2メートル越えのマッチョウーマン。両の手にそれぞれメイスを握っている彼女は名をビビアンという。なんでも【血の乙女(ブラッディ・メイデン)】という女性獣人だけで構成されているチームの副長で、Cランクのベテランで近々Bランクの昇格試験を受けるそうだ。昇格はほぼ間違いないだろうとの噂らしい。

 チームというのはBランク以上の冒険者だけが作ることのできる組織だ。まぁ簡単に言うと普段から仕事を共にするメンバーをパーティー、そのパーティーが同じ目的や目標で集まったより大きなグループのことをチームと言うらしい。ここビルリアには幾つかのチームが存在していて、その目的や想いを同じくする仲間が寄り添っているそうだ。

 血の乙女もそんなチームの1つで、獣人の女性のみで構成されている珍しい集団だ。差別されて身寄りも無く、ビルリアに流れ着いた少女達を保護することを目的にAランクの冒険者が3年前につくったらしい。現在では構成員50を超える規模になり、腕の立つメンバーも少なくないらしい。


 え? なんでそんなことを知ってるかって?

 簡単だよ。教えてもらったんだ。ここ訓練場まで移動する間に人好きのする笑顔のおっさん冒険者が楽しそうに教えてくれた。そんな彼は少し離れたところで、見物人から金を貰うのに忙しそうだ。どうやら彼主導で賭け事が始まっているらしい。これを見越してあんなに楽しそうに俺に話しかけたんだろうな。


「はぁ………」

 俺はもう一度ため息をついて、現状把握が済むと涙が出そうになる。それにミミとのやり取りもそのおっさんから聞いている。


 どうやら完全に俺たちに落ち度があるようだ。俺の推測はこうだ。

 恐らく【血の乙女】のメンバーは掲示板の前に1人でいるミミを心配して声をかけたのだろう。あの年齢でソロの冒険者はまず居ないだろうからな。

 そして話を聞いているとミミがお腹が空いたと主張。メンバー2人は希望通り飯をおごる。その食いっぷりに普段あまり食べれてないのだろうとメンバーは考えた。もしかしたら不当な扱いを誰かから受けているのかもしれない、と。

 それで肉に夢中なミミにアレコレ尋ねる。肉に夢中なミミはおざなりに返事をする。その結果、クオンセルという男がミミを連れ回したあげく、冒険者登録をさせて1人で働かせようとしている。そしてその報酬を奪おうとしている。とでも勘違いしたのだろう。きっとその辺りから俺も見ていた場面に繋がる。


 つまり、彼女達からすれば善意だったのだ。それが、まさかのミミの逆ギレ。その上チームのことまで馬鹿にされたので、副長のビビアンはキレた。

 彼女らの活動は誇れるものだと俺も思う。弱者を守ろうとしているのだ。きっと本人達も自分たちの行いを誇っているのだろう。


 そりゃあ怒るよね。


 俺は改めてビビアンを見る。その様子から怒りは些かもおさまっていない。むしろ手にしたメイスをクルクルと回しながら俺を見る。それはまさに狩りをする者の目だっだ。



 あまりの出来事に頭が痛くなってくる。

 だが、それが分かれば話は簡単だ。悪いのはこっちだ。うん、謝ろう。土下座だな。


 前世では多くのミスをしてきた俺だが、ことあるごとに土下座で乗り切ってきた。おかげで問題がそこまで表面化しなかったことも何度かあった。


 この世界でも土下座は通じる。

 【育成道場】では年に数回、ウェンキッシュがキシリの弟子達を誘って王都の酒屋で飲みに行くことがある。そして大抵その翌日はキシリに土下座していた。毎度のようにトラブルを起こしてキシリに後始末をしてもらっていたらしい。そんなウェンキッシュにどこか親近感を持ち仲良くなったものだ。


 よし、まずは申し訳なさそうにしながらひざ立ちだ。俺が必殺の土下座を繰り出そうとしたその時、野次馬達の方から凛とした声が響いた。


「なんの騒ぎですかこれは? まもなくギルドから重大な発表があります。掲示板前に集まって欲しいんですが?」

「ビビアン、あなたが居ながら何をやっているのですか! 恥を知りなさい」

 2人の女性が野次馬集団から出てくる。


 1人はエルフだろうか? 尖った長い耳を持ち、薄い金髪はサラサラとしていて、その顔の造形も美しくどこか神秘的な雰囲気を出している。スタイルも抜群で、胸元が大きく開いたワンピースを着ていて、豊かな胸がその存在を主張している。

 もう1人はビビアンの知り合いだろうか、ウサ耳を持つ凛とした美しがある獣人の女性だ。その肢体は引き締まっており無駄な肉は見当たらない。そして臓器を守るように金属が埋め込まれた上等な革鎧をつけている。かなりカスタマイズされているようで、肩や太ももの部分は素肌が見えていたりする。ちょっとエロい。だが1番重要なのはその胸だ。先ほどの牛乳には若干遅れをとるがその大きさには目を見張るものがある。

 そんな2人に目を奪われていると、その後ろから乳神様が現れた。息を切らして俯いているのでブルブルと盛大に震えていらっしゃる。眼福だ。


 ……どうやら彼女がこの場を治めるために連れて来てくれた人物達なのだろう。その2人を確認して周りの野次馬冒険者は数歩後ろに下がって静かにしている。この2人の女性はかなり影響力があるようだ。


「ねぇビビアン? 私はあなたが決闘騒ぎを起こしていると聞いたんですが……。まさかそんなことは無いですよね? 誇り高き【血の乙女】での私闘は厳禁。副長のあなたがそれを破るなんてことは無いですよね?」



 ウサ耳の獣人の笑顔の笑顔の尋問に、俺の前にいたビビアンもメイスを背中に隠すようにしてあたふたしている。どうやら彼女には頭が上がらないようだ。しどろもどろに言い訳を始めているが、あのままではラチがあかないだろう。


 うん。場の混乱している今しかあるまい!


「どうもすいませんでした。私たちが悪かったです‼︎‼︎」


 俺は後ろにいたミミを瞬時に正座させると、頭を掴み地面に叩きつけるような勢いで自分の頭とともに下げさせる。そして訓練場全体に響くような大声で謝罪の言葉を紡ぐ。


「そもそもこちらの勘違いでした。私たちは昨日この街に来たばかりです。【血の乙女】さん達のことも知りませんでした。その志の高い活動は世に称えられ、語り継がれるべきものかと思います。それを知らずに失礼を申しましたことを深く、深く陳謝致します」


 俺の謝罪に場の空気が凍っているのを感じる。そっと顔を上げるとビビアンが目を点にしてこちらを見ている。俺は周りに見えないように何度もウインクをして合図を送る。ビビアンは俺の合図に気づいたのか何度か目を瞬かせると、意図に気づいたようだ。


「フラン、誤解なんだよ。あいつもああ言ってるだろ? 別に決闘しようって訳じゃないんだよ。ただあたし達を馬鹿にすることを言ったから落とし前をつけさせただけなんだ。な? 血だらけのボゴボコにしてゴブリンの餌にしようなんてこれっぽっちも思ってないよ。な?」

 どうやら俺はゴブリンの餌にされる寸前だったらしい。


 俺は身の危険を再度感じていると、フランと呼ばれたウサ耳女がこちらに視線を送ってくる。慌てて下を向く。もちろん全身から反省してますオーラを放出することは忘れていない。


「……そうですか。どうやら私の誤解だったようですね。そこの2人も、そんなことはやめて立って下さい。我がチームを軽く見た発言は誤りだったんですよね」

「はい。その通りです。無知ゆえの発言でした。どうかお許しください」

 土下座はすぐにやめてはいけない。もういいから! と半ば呆れらるまでやるべきだ。頭を上げようとするミミを抑えつけて再度謝罪する。


「分かりましたから、もう頭を上げてください。ギルドマスター、うちの者がお騒がせしたようです。申し訳ありません」

「大事でなくて良かったですね」


 俺達が顔を上げるとフランは隣のエルフへと謝罪しているところだった。ギルドマスターって言っていたよな? ここのトップってことか、むさいおっさんじゃないんだな。

 そんなことを考えていると、ギルドマスターと目が合う。その美しい立ち姿に不覚にもドキリとしてしまう。彼女は最後に少しだけ微笑むと周囲の野次馬へと声をかける。


「では皆さんは掲示板の方へと移動して下さい。手ぶらで訓練場に居てもお暇でしょう? さっきも言った通りギルドから重大な発表があります」

 どうやらギルドマスターには俺の茶番はバレているようだ。いや、フランにもか…。まぁ大事にならなくて良かった、良かった!


 俺は何食わぬ顔でミミの手を引く。ここに居たら何を言われるか分からない。それにギルドの重大発表ってのも気になるしな。野次馬達と一緒にサッサと移動しよう。


 だが、ギルドマスターの横を通った時だった。

俺の期待を裏切るように彼女から声がかかった。


「待って下さい。あなたはまだここに居てください」


 俺は聞こえなかったように華麗にスルーして歩を進める。知らんぷりだ。


「だから待って下さい。『英雄キシリ』のお孫さん、確か名前はクオンセルといったかしら…。あなたに言っているんですよ?」


 俺は驚きのあまり足を止めて振り返ってしまう。訓練場に野次馬の姿はもうほとんどなく、俺とミミ以外は血の乙女のメンバーが近くにいたが彼女らは目をパチクリとさせているだけだ。彼女達には素性がバレてしまったかもしれない。


 でもおかしい。なんで俺の素性がバレているんだ? 名前についてはさっき冒険者登録を済ませているから、知られていても不思議ではない。ただ俺のような新人の名前を知っているものか、という疑問は残る。それに【武骨者たち(バンプキンズ)】の証であるシンボル付きのマントを羽織っているので【育成道場】出身なのがバレるのも理解できる。


 だが、俺がキシリの孫ということがバレるのはおかしい。バスタリアでは育成道場にキシリの孫がいることは知られている。でもあのバカ王子ぐらいじゃないとクオンセル《俺》がその孫だと知ることは出来ないはずだ。しかもここはかなり距離の離れた他国の地、辺境の街ビルリアの人が知っているような情報では無いはずだ。いかにギルドマスターという権力を持っていても知られているのは有り得ない(・・・・・)はずだ。


 反応したのはミスだったなぁ………。これじゃあ誤魔化しようがない。取り返しがつかない。


 俺は一瞬だけ俯くと頭を切り替えてギルドマスターを見る。この切り替えの速さは俺の強みだな…。バレてるんならしょーが無い。バレても大丈夫だろう。うん。


「それで、俺をこの場に残した理由を聞いても良いですか?」

「おや、シラを切られると思ったんですが…。いさぎよい態度は好きですよ。折角なんでそこのビビアンと戦って欲しいんですよ」


 俺はもちろん驚いたが、それよりも血の乙女の面々が驚いている。


「ギルマス、さっきの件は終わったことです。このタイミングでビビアンと戦わせる意味が分かりません」

 フランの意見に残りの3人が同時に頷く。いや、俺とミミも頷いている。


「そんなの簡単な話です。彼の力量を知っておきたいんですよ。だからビビアンに測って貰いたいんです」

 素敵な笑みを浮かべてシレッとそんなことを言う。


「ビビアンも本当は気が収まって無いんじゃないかしら? それにあの【育成道場】出身者よ? あなたもその力量に興味があるんじゃない?」

 そんなことを言われたビビアンは、ゆっくりと噛みしめるように頷くとニタリと笑う。

 ああ、その気になってしまわれている。

 せっかく回避できたのに。


 いつのまにか、フランまで俺への視線が変わっている。放っておくと、自分も参戦したいと言ってきそうだ。そんなに【武骨者たち(バンプキンズ)】って人気があるのか? 人気とは違うか。高ランク冒険者というのは戦闘狂(バトルジャンキー)ばかりなのか、この戦闘は回避出来ないのか?


「クオン君、さぁ早くお願いします。さっき言った通り時間が無いのは本当なんです」

 俺の無言の訴えを、ギルマスは笑顔付きでスルーして促してくる。

 逃げ道は無いようだ。

 ここは腹をくくってしまうしか無い。


「じゃあ、殺しは無しで! それに致命傷になるような攻撃も無し! 力量を測りたいんならそれで構わないですよね?」

「大丈夫さ、ちゃんと手加減してやるよ」


「…よろしくお願いします。でもさっきのお願いはビビアンさんの為ですよ?」

「言うじゃないか! 生意気坊主め‼︎‼︎」

 場の空気がピリつく。俺とビビアンは申し合わせたかのように、その場を離れて改めて対峙する。



 ビビアンが両手のめいすをは交互に打ちつけてくる。通常よりも大きいその得物をビビアンは軽々と振り回して、様々な角度からの連撃を繰り返す。

 俺はそれらを躱す、左右からの横薙ぎを上体を屈めて躱す、下からの掬い上げるような一撃を頭をひねって躱す、上段の一撃をスウェーバックで躱す。


 俺はことごとくメイスによる攻撃を躱すのだが、ムキになっているのかビビアンは攻撃の手を緩めない。連撃は終わらない、躱して、躱して、躱す。


 どんな体力してるんだ!


 俺は心内心で毒づく。気持ちの問題か、単純に体力なのか、俺の動きが鈍っているのが分かる。


 俺の異常に気付いたのか、さらに畳み掛けるように攻撃を加えてくる。ブォンブォンという音と共に俺の顔のすぐ横をメイスが通り過ぎていく。


「ちっ!」


 俺は避けられない一撃を察知すると、【好都合領域コンビニエント・エリア】を発動させる。


 俺の得意魔法により、彼女のメイスは角度を変えて俺の目の前を通り過ぎる。


「なっ!?」

 思い通りの軌道を辿らなかったメイスに、ビビアンは驚き顔をしかめる。俺はその瞬間を逃さずに懐に潜り込む。態勢の崩れたその巨体に力一杯体当たりをかます。

 予想通り大したダメージは無いようで、3メートルほど離れたビビアンは更に笑みを深くする。


「やるね。第二ラウンドだよ」


 彼女は再度こちらへと突っ込んで来た。

ビビアンとの戦闘はまだ続きます。

久しぶりの戦闘シーンは書く側としても楽しいものです。


今後もUnThikableをよろしくお願いします。

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