2-24 食いしん坊(娘)、再び
俺は掲示板の前の人集りに近づいていくと甲高い女の声が聞こえてくる。なんだ? どっかの女性が助けにでも入ってくれているのか?
俺の予想では、今日登録したばかりの新人冒険者で獣人の娘であるミミは、頭の悪そうなチンピラみたいな冒険者たちに声をかけられる。仲間になれ、小間使いとして使ってやる、ここはガキのくる所じゃねー、とかなんとか言われたりして対立する。それらを無視するミミ。
怒る男たち。
ミミに手を出そうとしてハクにのされる。
うん。こんな感じだろう。
<相棒ー、そんな妄想は良いから早く行ってあげたら? もしかしたらヤバイことになってるかもしれないよ>
お?
コーメーちゃん、そんなこと言うなよ。それにヒーローは遅れて来るってもんだろー。
<いや、そんなことはいいからさ。ミミが可哀想だろ………。うん? あれ??>
「どしたんだいコーメーちゃん? 悪者退治か、後始末か、何が待ち構え………。あれ???」
人集りをかき分けてたどり着いたその先は、俺の期待したようなものは一切無かった。だが、ミミは床に座り込んでいる。
いや、ただ座り込んでいるだけじゃ無い。その手にはミミの頭よりも一回りは大きい肉の塊があった。
恐らく煮込まれているのだろう、汁が滴り落ちている。その隣ではハクが同サイズの肉を頬張っている。ちなみにお代わり用だと思われる肉塊が大皿に山のように積み上がっている。
ミミもハクも何かに取り憑かれたようにガツガツと肉を喰らっている。
「なんだこの状況は?」
<………>
俺のつぶやきにコーメーは無言を貫く。
「ほらー、ミミちゃんもハクちゃんもおかわりはまだまだあるからね〜。いっぱい食べるんだよ〜〜」
そう言って新たな皿を持ってきた女が語りかける。その皿にはさっきのは別の一口サイズに切られた焼肉が積まれていた。
ミミはその皿を確認すると、かぶりついていた肉塊の箸休め的な感じで、焼肉にも手を伸ばす。幸いなことにこちらはフォークが添えられていたので、手づかみでは無い。いや、何が幸いなのか……。
「にしても、普段からあまり食べさせて貰ってないのか? すごい食べっぷりだね」
皿を運んできた女とは別の女がそう語る。
いや、きちんと三食食べさせてあげてます。しかも一人前どころか、数人分は軽く食べてます。
「しかもこんな所に置いてけぼりにして、そのクオンって男はろくなもんじゃ無いね!」
いや、役割分担ですよ? むしろなぜミミは仕事をせずにただ肉を食べているのでしょうか?
「そうに違い無いですよ、姐さん。きっとロクでも無い中年のおっさんなんですよ。ミミちゃんもきっともう少し大きくなったら体の奉仕を強制させられて……」
いや、俺はロリコンじゃありません。
「もういっそのことウチのチームに入らないか? あたい達は、獣人の女性だけで構成されているんだ。ムカつく男どものいない綺麗な仲間が沢山いるよ」
いや、むしろ俺が入りたいです。ケモミミ達の楽園かぁ〜〜、いいなぁ〜〜。
などと、いちいちツッコむのが悲しくなってきた。俺は現実逃避のために離れた椅子に腰掛けて成り行きを見守ることにする。
よく見ると、ミミにエサ?をやっているのは俺のことをディスっている女2人だ。2人とも獣人で片方はネコ科らしく、三角形のミミがピンと突きたっている。もう片方は牛か? 小さい角が生えていて、ものすごい巨乳だ。スイカが2つくっついている。
2人ともお揃いのシンボルの入ったダガーを腰に下げている。同じパーティーなのだろうか。
ネコ科の方は軽戦士風の革鎧に何本もの短刀をくくりつけている。牛乳の方は金属片の縫い付けられた革製の全身鎧に大きな盾を背負っている。全身鎧なのになぜ巨乳と分かるかって? 鎧の胸部が明らかに大きんだよ! しかも脇の隙間部分から白い横乳が………。
<相棒、凝視しすぎだよ>
そんなことは無い。ガン見しないように気を配っていたはずだ。………それにあれはしょうがないだろう。男ならばあの膨らみに視線が奪われてしまう。あの乳を愛さない男はきっとこの世にはいない。そう愛だ! あの双丘には愛が詰まっていて、愛によって包まれているのだ。そして愛とは信仰! そう信仰そのものなのだ‼︎ あそこにおわすのは乳神様だ!
ありがたや、ありがたや〜〜。
俺は静かに手を合わすと揺れる双丘をただ拝むのであった。
ふと気付くと俺の周りには俺と同じように双丘を愛溢れる眼で見つめるこ男たちが居た。
ああ、分かってるよ。あんたたちも同志だろ?
俺は隣に座るねずみ顔の青年と固く手を握る。
「それ以上、クオンさんの悪口を言わないで下さい」
俺が馬鹿なことをしている間に、どうやら新たな動きがあったようだ。ミミが珍しくお怒りのようだ。ただ肉塊は相変わらず大事に両手に抱えている。
「さっきからあなた達はクオンさんの悪口ばかり言って! もうウンザリです。食べ物をくれるから黙っていましたが、もう我慢の限界です」
どうやら肉に夢中で周りのことが目に入っていなかったわけじゃ無いようだ。ただ肉に集中していただけのようだ。
「クオンさんには普段から美味しいものを食べさせて貰ってます。それにオジサンじゃなくて、若くて強くてカッコいいんです」
おお、なんかミミが反撃してくれている。いいぞ! もっとやれ、もっと褒めろ‼︎‼︎
「分かったよ、ミミちゃん。あたい達が悪かったって…。この通り、謝るからさ!」
「うん、ゴメンね」
「分かって頂けたら良いんです」
「でも折角だからさ、あたい達のチームに入りなよ」
「そうですよ。この街はまだ良いですけど、この国は獣人に優しく無いです。仲間を作るのは大事ですよ」
「お断りします。あなた達のような他人を貶めるような、ズルい方々と仲間になんてなりたくありません」
ミミは勢い良く手にした肉を頬張るとキメ顔でそんなことを言う。カッコ良いことを言っているようだが、ミミ達が食べている肉は恐らく彼女達の奢りだろう。だってミミには現金を渡してないし……。
ミミよ、散々奢ってもらった肉を食べておいて、相手のその言い草は無いんじゃないか?
俺はヒートアップしたミミをなだめるために近づくために立ち上がった。だが、俺以外にも立ち上がった者がいたようだ。
「そこのお嬢ちゃん。まだ小さいから多めにみてあげていたけど、あたし達のチーム【血の乙女】を馬鹿にしているのかい?」
そんなことを叫びながら立ち上がったのは、身の丈2メートルを超える大柄の女性だ。彼女も獣人らしく、体型から熊だと予想できる。推定スリーサイズがオール100オーバーの巨体だ。だが余分な脂肪ではなく筋肉がその体を覆っているのが傍目からでも分かる。
「「ビビアンの姐さん!」」
どうやらミミにエサを与えていた女達の上の立場の人みたいだ。どうやらミミに自分たちのチームを馬鹿にされてお怒りのようだ。ところで、チームってなんだ?
ビビアンと呼ばれた熊の獣人女性はノッシノッシとミミへと歩いていく。ミミはかなり小柄なので、近づくとその巨体に隠れてしまいそうだ。
「うちのチームを侮辱したことを撤回しな! さもないと痛い目をみるよ」
「いいえ、むしろクオンさんを貶めたことをキチンと謝罪してもらいたいです。あなたがそのチームの上役ならば代表して謝るべきです!」
なんでミミはあんなにケンカ腰なんだ? どう見ても体格的に勝てないだろう。きっとビビアンはゴブリンくらいなら素手で引きちぎってしまいそうだ。
周りの反応からも彼女が有名人で実力のある人物であることが窺える。口々に殺されるぞ、と囁きあっている。
「あたしを前にしてよくそんな大口を叩けるもんだな。だったらそのクオンとかいう男をここに連れて来な! 話はそれからだよ」
まさかの俺指名です。そりゃあヤバそうだったら助けに入るつもりだったけど、これって完全にとばっちりだよね?
俺はゆっくりと後退するように逃げることを選ぶが、ミミと目が合ってしまった。何故だ? 周りには大勢の乳同志がいて隠れていたハズなのに……。
俺が周囲を見回すと、同志達は数メートル後方に退避していた。どうやらビビアンに恐れをなして離れていたらしい。クソ! あんな奴らは同志なんかじゃない! 裏切り者め‼︎
ミミはそんな俺へと元気よく手を振る。
「ほ〜〜、あんたがクオンかい。チョット訓練場までツラかしな」
「……はい」
そして掲示板の前には肉を食らい続けるハクだけが残った。
キリがいいのでここで終わります。
続きもよろしくお願いします。




