2-23 とりあえず冒険者ギルドへ行く
私は少年の話を聞きながら頭をフル回転させていました。商人として目まぐるしい日々を送っている私には、様々な情報が入ってくるのです。商人にとって情報は無くてはならない生命線ですからね。
私がシャイダーで成功出来たのも決して運が良かったからではありません。そりゃあ商売において運に作用される部分はあります。いやむしろ運次第という場合がほとんどかも知れません。
それでもあえて、私の成功は運では無いと思っています。
なぜなら私は運は自分で引き寄せるものだと思っているからです。
例えば、運良く思わぬ商機が目の前にあったとしてもそのチャンスを手にするための材料が必要になりますよね? 材料が無ければ売ることができません。
それに売りたくても売れないものはあります。
例えば薪を売ろうと思っていても店頭で待ち構えていても売れるようなことはほぼありません。重きですからね。それに、少し頑張れば火を起こす魔道具もあるので薪が必要無い民家もあるのです。では誰が薪を買うのか? それは魔道具を買えないような庶民です。彼らは薪が無ければ自分達で取りに行きます。だから売ろうとしたら、自ら民家を歩き回り、何らかの理由で自前で用意出来ずに欲している家を探すしかないのです。いくつか売れるようになってくると、段々と各家が薪を欲しがるタイミングが分かるようになってきます。そうすれば、そのタイミングを見計らって売りに行けるようになり時間の短縮になります。更に余った時間で他の家に薪を売りに行けるようになります。狙って物を売らなければ成功はしないのです。
また商人にはこんな逸話も残っています。大昔の大商人ターヨーは、一代で莫大な資産を手に入れた偉人として有名です。幼い頃、農家に生まれた彼はある商会に丁稚として奉公することになりました。そこで最初の仕事は鍋の蓋を売ることでした。鍋の蓋を20個売るまで戻ることを許さないと言い渡されて、彼は街を鍋の蓋を背に担ぎ売り歩きました。しかし一向に売れません。当然です。鍋の蓋ですよ? 必要性は高くなく、あれば良いが基本的には無くても困らないものです。では彼はどうやって売ったのでしょうか?
キッカケはただの偶然でした。
ある時、腹を空かして歩いていると目の前に串焼きの屋台がありました。その匂いにつられて近づきますが、当然お金が無いので買えません。だから、店の手伝いをして串焼きを恵んで貰おうとしたのです。すると店主は忙しい時間帯ということもあり少年だったターヨーに手伝いを頼みます。彼は根が真面目なので一生懸命働いたそうです。そして賑わいが落ち着くと、店主から賄いとして肉串をもらいます。
そこで、店主はターヨーの荷物に目がいきます。「お前はなぜそんなに沢山の鍋の蓋を持っているのか?」不思議に思った店主が尋ねて、その経緯を聞くことになります。すると店主はターヨーから鍋の蓋を買ったのです。屋台には既に鍋の蓋はありましたが、店主は笑いながら「新しい蓋が欲しかったんだ」と言って新しい鍋を使い始めます。
ターヨーは思ったそうです。なぜ売れたのか?
理由は分かりません。店を手伝ったお返しなのか、ターヨーの境遇に同情したのか、はたまた全く違う理由があったのか。そこで彼は同じように屋台や民家を巡りながら手伝いを申し出ます。そしてその対価に鍋の蓋を買ってもらうことに成功したのです。
話がかなり脱線しましたね。
私は思うのです。ターヨーは鍋を買って貰うために何かを手伝う、という『付加価値』をくわえたのだと。
そして独立した彼はライバル店とは別格のサービスで顧客のリピートを増やし、大商人となったのです。
このように商売には『付加価値』も必要になるのです。
なぜこんなことを語り始めたのかですって? それは目の前の少年のせいですよ。彼は黒目黒髪という少し不吉な要素を含んだ容姿をしています。おとぎ話のどこぞの悪魔のようですね。しかも年齢は若く、おそらく成人前後でしょう。
しかも少し年の離れた住人の娘と行動を共にしています。そして貴族のような丁寧な口調や所作を心得ているのです。見間違いで無ければあのマントのシンボルは……。
極め付けは精霊と契約すらしているのです。今まで色々な人間に出会ってきましたが、彼のようなチグハグな存在は珍しいです。
そして彼の口から50羽ものハーピーを全滅させた、しかもビルリア領主の嫡子であるポロス様を救ったのだと言うのです。
コム村で出会った時から、彼には何かがあると思い面識を持つように動きました。まさかそんな縁を運び込んでくるとは思いませんでした。
ビルリアでの商いをする者としては領主であるローレンシウム家との接点は喉から手が出るほど欲しいものです。知己を得れればこれ以上無い商機と言えるでしょう
さて私はどうやって彼らとの縁を深めれば良いのでしょうか? この幸運を逃さずに手に入れるには私はどんな付加価値を用意すれば良いのでしょうね。
――――――
「それは大変なことがありましたね。ご無事でなによりです。空間魔法にも驚きましたが、随分とお強いんですね」
「いえ、確かに故郷では強くなるための修行をしていましたが、まだまだですよ」
「…確かクオンさんは魔法国家バスタリアのご出身でしたよね? 失礼で無ければ教えていただきたいのですが、まさか英雄キシリの【育成道場】のご出身では?」
「…これは驚きました。よくご存知ですね。おっしゃる通り、幼い頃からその修練場で鍛えていただきました」
俺は当時の荒行のようなしごきを思い出して体が身震いしたのを感じた。思い返せば修行を始めたばかりの頃は毎日のように恨み言を口にしていた。今は感謝しているけどね。うん。恨みが9割ってところかな。
ただキシリの孫であることは隠しておくことにした。あのご婦人は敵が多い。何かに巻き込まれたり、利用されたりするのは真っ平ごめんだ!
「あそこは有名ですからね。もちろん他国にあるということで脅威としての意味も強いです。ですが最も大きな理由は有用な人物を多く輩出していることですね。あなた方は多様な国や団体に散っており、その有用性を広く知らしめていますからね」
「そうなんですか? 外からそのように思われてい るとは知りませんでした。旅の途中も特に何か言われたことはありませんでしたし」
思ったよりも認知があるのか? それにしては道中で出会う人にそれらしいことを言われたことは無いんだけど。俺が気づいていないだけか?
俺は疑問に思い首をひねる。
「ええ、ですがあなた方のことを知っているのは為政者や情報に強い者たちです。一般にはあまり知られていないでしょう。それに…」
なるほど。知る人ぞ知るってやつか。まぁそんなに大人数が外で活動しているわけじゃ無いらしいしな。
「それに、この街にも1人いるんですよ。あなたの先輩に当たるのでしょうか? あなたと同じシンボルの入った手袋をした人物がね」
俺は途中から話半分に聞いていたが、最後のセリフは聞き逃せなかった。この街にも【武骨者たち】がいる。それもおそらく俺の知らない人物だ。
俺の動揺を察したのか、一瞬だがフィットは眼を細めると小さく笑みを浮かべた。
「おや、もうこんな時間ですね。申し訳ありませんがこれから別の商談がありまして…。クオンさんさえ宜しければその人物の事などまたお話ししたいですね。宜しければ今晩のお食事などご一緒にいかがでしょうか?」
フィットがドアに目を向けるとシャイダーを持ってきていた女性と、初老の男性が並んで立っていた。おそらく商談相手なのだろう。アポ無しで来た身分としては引き下がるを得ない。
俺は主導権を握られた、と一瞬後悔したが後の祭りである。どちらにしろ、同門には会えとキシリから言われている。教えてくれるなら話に乗るべきだ。相変わらずのポジティブ思考だなと内心思いつつも、フィットへと頷き返す。
せいぜい高い物でも食べさせて貰おう。
俺とミミは屋台で適当に昼食をすませて、今は冒険者ギルドの建物の前にいる。位置的にはこの街のほぼ中心にあるようだ。建物自体は少し古さを感じるが3階建てでそれなりに大きい。それに裏手には体育館のような大きな倉庫と、運動場のような広場が 併設されていた。
「何というか、冒険者ギルドって感じだな」
時間帯のせいか、あまり出入りは激しくない。だが出入りする人間のほとんどは冒険者なのだろう、武器や防具を身につけた者ばかりだ。人種の偏りは無く、中には魔物らしき生物を肩に乗せたりしている人物もいる。
「もう、クオンさんは何を言っているんですか。当たり前ですよ。ここは冒険者ギルドなんですから!」
ミミの現実的な意見に苦笑いしながら扉を開けて中に入る。ちなみにコーメーは精神体で、ハクは普通に中に入ってくる。さっき使い魔を連れている人もいたから大丈夫だろう。
え、フィットの時には居なかったって? コーメーは精神体だったんだよ。それにハクは門番よろしく門の近くに陣取ってその愛くるしさを発揮して客寄せをしていた。
建物の中は想像通りに広く、奥には前世の銀行のようなカウンターがあった。そして右手の壁には掲示板のような巨大な板に、まばらだが張り紙があった。左側にはバーカウンターがあり、結構な数のテーブルや椅子が乱雑に置いてある。チラホラとだが今も冒険者がそこで飲み食いしているようだ。
さらに奥のカウンターの左右には扉のない出入り口があった。おそらく併設された施設への出入り口だろう。大きめの階段はカウンターの内側にある。
俺たちが室内を確認していると、何人かの冒険者と目が合う。どうやらテンプレの雑魚冒険者に絡まれるっていうのは無さそうだ。皆こちらを見ると、興味を無くしたように各々の行動を再開する。
俺は1番正面のカウンターへと向かい声を掛ける。
「すいません。私と彼女の冒険者登録をしたいのですが…」
「分かりました。ではこちらの用紙にそれぞれ必要事項をご記入下さい。…代筆は必要でしょうか?」
「いえ、問題ありません。ほらミミの分も俺が書くからな」
俺は余所行きの言葉遣いでカウンターのお姉さんとやりとりする。この世界の識字率はあまり高くないから代筆のサービスは当然のようにあるみたいだ。
それにしても、カウンターの女性は綺麗だな。俺の対応をしてくれている人はセミロングの茶色の柔らかそうな髪。大きな瞳が印象的なキレイ系の美人だ。他のカウンターにいる女性達も全体的にレベルが高い。しかも種族が様々だ。エルフとドワーフいないが半分は獣人だった。ちなみに、俺はエルフにはまだ会ったことは無い。この世界のエルフはかなり閉鎖的らしい。
そんなことを考えながら用紙に必要事項を書いてゆく。書くのは『名前』『出身』『得意な武器』『魔法などを含む技能』『冒険者になる理由』の5つだけだ。
「これは全て細かく書かなくては駄目ですか?」
「最低限で結構です。知られたく無いこともあるでしょうから…。ただし虚偽の内容が発覚すると最悪の場合、冒険者の資格剥奪になりますのでご注意下さい。俺は名前にクオンセル、出身をバスタリア、武器の欄には斧、技能については精霊契約者、志望理由は金を稼ぐため、と書いておいた。
ミミは技能の箇所を空欄してあとは事実をそのまま書いておいた。
「ではこちらの板に両手を開いて乗せて下さい。はい、押し付けるようにしっかりとお願いします」
俺は言われた通りに黒い板の上に両手を置く。なんだか指紋を取られているみたいだ。この世界にそんな知識があるとは思えないけど…。いや、俺と同じような転生者が居るんだからありえないわけじゃ無いか。
「ありがとうございます。それではそちらの女性の方もお願いします」
ミミも言われた通りに両手を乗せる。何が楽しいのか尻尾をふりふりと揺らしている。
「これは何をしているんですか?」
「これは魔力を読み取る装置です。冒険者ギルドを設立された方が発明したもので、冒険者全員に義務付けられています」
そう言って、女性は板の横から出てきた2枚のカードを引き抜いた。
「今からこちらのカードにお二人の情報をそれぞれ入力していきます」
彼女は席を立つとカウンター奥の男性にカードと用紙をそれぞれ渡して戻ってくる。
「ではカードが出来上がるまでに冒険者の説明をさせていただきます」
そう言って淡々と説明を始めた。随分とスムーズに作業が進んでいく。彼女がすごいのか、マニュアルでも存在しているのだろうか?
彼女から聞かされた内容は概ねウェンキッシュから聞き及んでいたものが大半だった。
○冒険者にはランクがあり、初めはFランクから始まりEDCBASといったように7段階になっている。
○依頼は単独でも複数でも受けることは可能だ。しか。複数の場合、パーティー内にEランクがいた場合はEランクまでの依頼しか受けられない。
○冒険者は自分のランク以上の依頼は受けられない。高いランクを受けるためにはランクを上げる必要があり、それは基本的にはギルドへの貢献度が上がればいいらしい。基準はギルド裁量なので、依頼をたくさん受けて働けってことだろう。
○またランクの昇格には試験があるものもある。DCBASにはそれぞれ昇格試験というものがあり、貢献度が高くてもこの試験に合格しないと昇格できない。
○依頼の種類については主に2つ。ギルドが発行するものと、個人が発行するものだ。
さらに『通常依頼型』『常時発生型』『指名依頼型』『緊急収集型』の4つのパターンがある。
それぞれ言葉の通りで通常依頼は雑務や採集・警護・討伐などギルドや依頼人が求める仕事のこと。
常時発生は街の近くに出没する弱いが数の多い魔物の討伐依頼だ。
指名依頼は仕事を任せる冒険者を選べるもので、通常依頼よりも割高だ。
緊急収集は大規模作戦が必要な案件の際に発行される。街やギルドに危機が及ぶ脅威に対しての対応だ。基本的には自己責任においての志願を募るが、条件に合うほとんどの冒険者が参加するらしい。
○犯罪行為については各支部が置かれている法に準じたものになる。犯罪行為を行った冒険者は資格剥奪の上、ギルドの裁量によっては賞金を掛けられて同業に追われることになる。
○冒険者同士のいざこざについてはギルドは責任を負わない。ただし明らかな犯罪行為があった場合はギルドもかいにゅうする。
○依頼を達成できなかった場合は、報酬の3倍を賠償金として支払うことになる。支払い能力が無い場合、ギルドの裁量によっては資格剥奪の上、犯罪奴隷とする場合がある。
○基本的にはギルドは冒険者を守る立場にあるので、何か問題や異常があれば報連相は欠かさずに行うこと。意図的に虚偽の情報を流した場合は、資格剥奪の上、犯罪奴隷とする場合がある。
まとめたが、結構注意事項が多い。ただ中身は当たり障りの無い、悪いことせずに頑張りましょう!って言った感じだ。説明が終わると奥の男性が2枚のカードを持ってきた。これが冒険者証明書らいしい。
サイズは前世のキャッシュカード程度で、用紙に記載された内容とランクが書き込まれていた。驚いたことにラミネート加工されたように、不正ができないような作りになっている。ちなみに紛失すると金貨3枚で再発行出来るらしい。無くさないようにしよう。だが、不正防止の魔法が掛けられていて本人の魔力以外には反応しないようになっているらしい。
「では以上になりますが、何かご質問などはありますか?」
「旅で仕留めた魔物の素材や魔石が大量にあるのですが、ここで買い取ってもらえますか?」
「では、そちらの入り口より買取場へ行って下さい。そちらで査定をして、このカウンターで現金をお渡しする決まりになっています」
「ありがとうございます。…じゃあ俺は買取の査定に行ってくるよ。ミミは掲示板でも見ながらどんな依頼があるか調べておいてくれ」
「分かりました」
「ハクはミミに付いていてくれ」
「ワン!」
ハクの元気な返事を聞いて俺は安心して買取場へ移動する。
そこでは旅の途中で仕留めた魔物や魔石を大量に排出した。大半が剥ぎ取り解体をしていない状態だ。どうやら解体未処理の魔物は作業料として2割引きでの買取になるらしい。ただ死体の量と作業を考えると雑魚魔物についてはそのまま持ち込む方が楽そうだ。
亜空間収納もあるので手間暇は省けるしな。
だが、予想以上の量だったのだろう。先ほどカウンター奥にいた職員らしき人が何人か応援に来ていた。さすがに真っ黒なハーピーが大量に出てきたのを見た時、職員は引きつった顔をしていた。
そんなこんなで査定に時間がかかるという事で、番号札を受け取ってカウンター戻ることになった。
職員の方たちの迷惑になるから、こまめに売りに来ようと内心で決めた。あとはミミと適当な依頼で探して受けようか、と考えて戻ってみると掲示板の前が騒がしく、人だかりができていた。
まさかテンプレでいかついおっさんに絡まれたりしてないよな?
俺はため息をついて人だかりの方へと足を延ばす。
いつもお読み頂きありがとうございます。
恐らく、もう1話今夜にでも投稿できると思います。
今後ともUnThikableをよろしくお願いします。
前半のフィット視点は内容を変えるかもしれません。ただ話の流れが変わることは無いのでお気になさらずに。




