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2-21 ビルリア到着

「お、お前。良くやった。その汚らしい魔物を置いてこちらへと来い」


 俺を呼ぶ金髪碧眼の美少年は、足をガクガクと震わせながら気丈に声を掛けてくる。身なりから貴族ということがわかる。子供とは言っても貴族ならばきちんと礼節を持って接しないといけないな。


「はい。少々お待ちください」

  俺はオーク屍を亜空間に収納して少年の下へと移動する。亜空間を使った時にムースンさんの目つきが鋭くなったような気がする。気のせいか?



「私はローレンシウム辺境伯の嫡子であるポロスだ。ムースンから話は聞いた。助力を感謝する。そなたの名を聞きたい」

「…お初にお目にかかります。私は魔法国家バスタリアより旅をしておりますクオンセルと申します」

 驚いたことに、この少年は目的のビルレアを治める辺境伯の嫡子だという。正真正銘のお坊ちゃんだ。何でこんなところに居るんだ?

 俺は疑問に思いながらも、失礼のないように片膝を立てて名乗る。俺の実家も他国ではあるが貴族だが、家を出ている分際なので家名は名乗らない。それに機嫌を損ねないように平民として普通に対応する方が無難だろう。


「旅人にしては礼節を弁えているな! だが冒険者では無いのか?」

「冒険者にはなろうと思っていますが、まだ登録はしておりません。出来れば噂に名高い辺境の地ビルリアにて冒険者になりたいと思っています」


「クオンさーん!」

 ポロスとそんな会話をしていると、馬に乗りハクを従えてミミが近づいてきた。俺は彼女は不審人物ではなく自分の連れだ、と伝えると簡単に紹介をして先に戦闘の後処理をした方がいいとポロスに告げた。生き残った騎士の手当ての必要性や、戦闘により流れた血の匂いが他の魔物を呼び寄せる、と伝えるとポロスも作業を急ぐように指示をして再び馬車の中へと引っ込んでいった。



「お気遣い感謝します」

 ムースンと呼ばれた女騎士が俺へと頭を下げる。騎士なのだから俺などに頭を下げずにどっしりと構えていても良いだろうに、好感の持てる人物のようだ。

「いえ、それよりもケガ人は? 回復魔法は使えませんがポーションは持っていますので…」


 どうやら倒れていた3人のうち2人は手遅れだったが、1人は致命傷もなく気絶しているだけだった。奮闘していた2人も軽い裂傷程度だったので手持ちの普通・・のポーションで癒すことができた。

「ありがとうございま。自分たちが常備していたものは戦闘中に使用してしまっていて困っていたところでした。それで代金なのですが……」

「店舗価格で良いですよ。特別上等なものでもないですし。………それよりもお聞きしたいのですが」


 俺はポーションの代金を受け取りながら疑問を口にした。


「ここを通るのは初めてなのですが、あの量のハーピーはこの街道でよく現れるのですか? 死体を数えると50体はいます」

 俺はまだ未回収のハーピーを指差して語りかける。ムースンは俺の話にただじっと耳を傾けている。

「ハーピーが大量に出没するのはその習性からままあることだと聞きます。ただそれにしてはハーピーの規模が少ないなと思うんです」

「クオンセル殿の言いたいことは分かる。普段この街道にはハーピーは現れない。ハーピーの情報があれば我々もこの人数の警護で外出することは無い。異常事態なのは間違いがないので、ビルリアの冒険者ギルドに調査してもらう必要がある」


 コーメーからハーピーの習性を聞いた限り、今回の襲撃は中途半端なのだ。彼女?らは繁殖期になると100体以上の個体を引き連れて人間の男を攫うようになる。攫われた男はしばらく繁殖の為に生かされるが、ある程度するとハーピーに食べられてしまうそうだ。ハーピーはメスの個体しか生まれず、雄の人や人型の魔物を攫っては子種を搾取して種の存続をはかっている。

 ある意味でハーレム状態だが、いくら人間に近い容姿をしているからといっても個人的にはご遠慮したい。ケモノ耳ならまだ良いが、ハーピーは完全に魔物だ。しかも用が済めば食べられてしまう。そんな人生は俺には許容できない。


 少し脱線してしまっだが、どうやら今回の襲撃は想定外のことのようだ。いくら辺境の地とは言っても街道を通るだけであのレベルの危険に遭遇するのは稀なことらしい。良かった、少し安心する。

 ならば事後処理を終わらせてさっさとビルリアに移動した方が良さそうだ。


「でしたら早くビルリアへとお戻りなった方が良いでしょう。良ければハーピーの死体は私の方で回収しておきます。素材のこともありますので、騎士の方たちが倒された分はビルリアでお渡しします。それと、よろしければ亡くなられた騎士の方達のご遺体も運搬いたしましょうか?」

「それはありがたい申し出だが大丈夫なのか? 見たところ馬車なども無いようだが………」

 俺はコーメーを実体化させて亜空間の説明をする。ムースンは例のごとく驚いていたが納得してくれたようで運搬についてポロスの許可も出て、ある程度の金子も貰えることになった。ただビルリアに引き返すことについてはポロスが難色を示していた。だが事の重要性をムースンが伝えると了承せざるをえなかったようだ。



 俺たちとポロス一行は一緒にビルリアへと向かう街道を進む。騎士達が乗っていた馬はそのほとんどがハーピーにやられていた。残った2頭に馬車を引かせて、騎士達は鎧を脱ぎ徒歩で移動している。ムースンのみ御者として馬車に乗っている。当然俺とミミは自分たちの馬に仲良く騎乗している。

 道中では馬車の小窓からポロスが顔を出して色々と話しかけてきた。どうやら旅の話が聞きたいようで、しきりにねだってくる。おざなりな態度を取ることも出来ないので、旅の途中で聞いた話として前世で読んだ昔話や物語を語って聞かせた。物珍しさからか、ポロスだけでなくミミも楽しそうにしていたので逆に良かったのかもしれない。




 それから野営で一泊してから無事にビルリアの門までたどり着くことが出来た。道中はさすが辺境の地と言える程に魔物が襲って来たりした。だがゴブリンや大型のトンボのようなウールフライヤーなどのEやFランクの魔物だけだったので、特に負傷することもなく済んだ。


「クオンセルどうだ? ここがビルリアだ‼︎」

 ポロスは場所の小窓を開けて俺へと問いかけてくる。その顔は明るく、ビルリアを誇りに思っているのが伺える。領主の息子なのだから当たり前か。


 実際のところ、ビルリアはスゴかった。何がスゴいかというと、まずは砦のような外観だ。街を囲む壁はバスタリア程の巨大さは無かったが、所々を金属で覆っている。目算だが、高さは5メートルはあり、横に15メートルおきに出っ張りがありバリスタだろうか、巨大なクロスボウのようなものが並べられている。その壁の上を数人の兵士が見回りのためか歩いている。

 そして目の前の門は鉄で出来ているようで、今は開いている状態だが、一度閉まれば侵入者を寄せ付けない威圧感がありそうだ。厚さも50センチはありそうだ。これなら巨大な魔物でも突破は難しいように思う。

 後で聞いた話だがこの壁は2代前の領主の時に完成したそうで、実に50年に及ぶ大工事だったそうだ。しかしその堅固な壁により、敷地が拡がることも無いので敷地内の人口密度は上がりっぱなしだそうだ。だが敷地内には30万人もの人が暮らしていて、耕作地もあり自給自足が可能ということだからかなりの広さだ。


「スゴいな。巨大な砦のようだ」

「こんな建物は初めて見ます」

 俺は驚いてしまい口調も素になってしまい、隣ではミミの口がこれでもかと開いていた。


「そうだろう。そうだろう」

 ポロスは誇らしげに頷くと、幼さの残る顔に誇らしげな笑みを浮かべていた。

 そんなポロスのおかげで、街に入るための審査は非常に楽な者だった。頼れる権威は嬉しいことだね。悪用しないように気をつけないといけないけど。


 門を抜けてからは人の多さと活気に驚いた。活気の原因は通りに並ぶ屋台だ。食べ物だけでなく、日用雑貨やアクセサリーなどの露店商も並んでいる。買い物客の半分くらいは冒険者風の格好をしている。時間的にはもうしばらくすれば日が落ちていくので、一稼ぎした後なのだろうか。

 居酒屋風の店舗からは威勢の良い声が聞こえてくる。ある場所ではケンカになっているようだが、周りの人集りはどちらが勝つかと賭けをしているようだ。特に止めに入る人はいないので、ジャレているようなものなのかもしれない。見回り中の兵士であろう男の姿も見える。あ、片方が剣を抜いた。それにはさすがに兵士も止めに入っている。

 冒険者が多いためか、あんなものは日常なのかもしれない。騒ぎがおさまるとみな普通に動き出した。


「クオンセル達はこの街は初めてなのだろう? 泊まるところの当てはあるのか?」

「知人がおりますのでそちらを頼ろうと思います。商人なのでどこか良い宿屋を知っていることでしょう」

 知人とはもちろんフィットのことだ。俺とさほど変わらないタイミングで街道を通っているので、ハーピーに襲われているかもしれないので安否確認もかねてだ。



「では、うちに泊まるのはどうだ? 恩人なのだから父上にも言って供に食事でもどうだ? 今夜は宴にしよう!」

「ありがたい話ですが…」


「そんなこと言わずにどうだ? また旅の話も聞きたい」

 ポロスはそっと俺のマントの端を握ってくる。これは断れないかな?


「ポロス様。クオンセル殿は旅の疲れもありましょう。無理強いするのは酷かと…。それに我々は領主様とギルドにハーピーについて報告せねばなりません。場合によってはそのまま警戒態勢になる場合もあります。そうなればうたげどころではありません」

「むっ、……そうだな」

 ポロスはマントを話すと俯いている。若くても時期領主としての立場や責任を理解しているのだろう。


「でしたら、また今度こちらから伺いますよ。数年はこのビルリアに滞在するつもりですし、機会はいくらでもありましょう。ハーピーの件が片付いたら伺いますので、その時はよろしくお願いします」

「ほんとうか? ではその時には今回の礼もかねて宴を開くぞ!」


「楽しみにしております」

「うむ。ではまたな! ムースン、まずは父上に報告だ!」

 そう言って馬車が立ち去っていった。途中、徒歩で着いてきていた騎士達がこちらを振り返り頭を下げてくる。騎士だというのに平民に頭を下げるとは、身分にとらわれないその行動に好感が持てる。ムースンの薫陶の賜物か、騎士団全体が、そうなののかしれないが気持ちの良い出来事だ。


 残された俺たちは道行く人に場所を聞き、フィットが営む商店までたどり着いた。そこは中々立派な二階建ての建物だったので、やはりフィットは商人として成功しているのだろう。せっかく出来た人脈なので大事にしておこう。

 しかし、肝心のフィットは留守だった。対応してくれた女性が言うには商工会の集まりがあったらしく今日は店舗には顔を出さないようだ。俺は伝言をお願いして、日を改めてくることを伝えてその場を去った。


 やることもなくなったので、道すがら屋台で食べ歩きをしようと提案する。ミミは満面の笑みで、ハクは尻尾を振りながら俺の周りを走り回る。俺も、屋台飯は楽しみにしていたのでこのまま食い道楽に突入だ!


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