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2-15 断固たる意思

後半部に残酷な描写があります。気になる方は読まないようにお願いします。

「所持者? つまりお前を使えってことか?」

「そうだよ。そうだよ。ライアンは見ての通り死んでるからね。今は無理やり僕の能力で動かしているんだよ。だからいろいろと不十分で不自由でさ」


 相変わらずの無表情だが、不機嫌なことを醸し出すように荒い足取りでなおも俺に近づいてくる。


「それに僕は便利だよ? なんといっても殺した相手を使役出来るんだから! その辺のやつを殺していけば、知らないうちに不死の軍団を手に入れられるんだよ。彼らは疲れないし、従順だし、中には成功した吸血鬼もいるから退屈もしないしよ。彼らには知性もあるし、永遠に歳をとらないよ。若い女がいれば女に不自由もしないだろうさ。どうだい素晴らしいだろう?」


「……お前の目的はなんだ? わざわざ俺に所有されなくてもいいだろう」

「目的かい? 単純だよ。僕は最初から最後まで、世界に悪意をふりまきたいだけさ。それ以外はどうでもイイんだよ。何故君かと言われればね…」

 少し思案するような動きをして、顎に手を当てて胡散臭い仕草で続ける。


「君は【転生者】なんだろう? あまり詳しくは無いんだけど、転生者は強いってのがお決まりだからさ。このライアンは然程でも無かったけど、君は吸血鬼をあまり苦も無く倒せるんだから有望だよ。それに、君は敵を殺すことに大した忌避感とか無いんじゃないかな?」


 こいつの言うことはだいたい合っている。俺は自分でもそこそこ強いと思うし、敵に対しては容赦しないようにしている。この世界には俺とはどうしても相容れない人間がいることを知っているからだ。無抵抗な人間を捉え弄び殺す盗賊や、他人を貶めることが大好きなバカ王子とか。

 そういった俺の周りに害をなすような存在は叩き潰す。ケースバイケースだけど、基本的にはこの世から退場して頂くように考えている。

 だからこいつの言っていることは間違ってはいない。そう間違ってはいないんだけど…。


「断ったらどうなるんだ?」

「えっ? 断るの?? だったら死んでもらうよ。僕の力で永遠に悪意を振りまく死体となって働いてもらうよ」


 最初から拒否権は無かったんだろうな。話し始めからずっと距離を詰めてきてるし、俺の質問には気兼ね無く答えるし、脅されているようなもんだ。

 断ったら不死者として悪意を振りまく道具のような存在に。受け入れたらライアンのように悪意を振りまくような行動をするように先導される。


「そうか、それは遠慮したいな。……ところで、話は変わるんだけど……」

「ん、なんだい? あまり待たされるのは好きじゃないんだ。早く決めてくれないかな」


 もう俺との距離は10メートルを切った。更なる威圧感に肝が冷える。でも、聞き出しとかないといけないことがある。


「そう言うなって。人生左右するんだから確かたいことは多いのさ。……さっきまでクロの頭に魔剣が引っ付いていただろう? あれはなんだ? あれもお前の能力か?」


 俺の言葉に無表情だった顔面に変化が起きた。悔しそうに口がへの字に曲がっている。、


「ああー、あれか。あれは僕の力じゃないよ。ムカつくけどここの封印を解いた神官が使った魔法だよ。【混合種ハイブリッド】とか言っていたかな。僕とクロを同化させたというのかな? 無理やりくっつけて従わせようとしたんだ」

 怒りのこもった瞳で、自らの拳をギリギリと強く握りながら語る。


「僕としては不本意なものだったんだけど、君のお陰で自由になれたしね。そのうち彼らにも仕返しをしてあげなくちゃいけないね。うん」


 そう言って立ち止まると魔剣の切っ先は俺の目の前にあった。そろそろ選択をしなくてはいけないらしい。こいつを初めて見たときから感じている不吉で不快な印象が更に強くなっていく。

 この存在は戦闘力うんぬんの前に対峙するべきものではないことを強く感じる。本能的に逃げ出したくなる。俺が勘がずっと訴えてくる。これはヤバい、離れろ、逃げるんだ。

 でも俺はその訴えを無視する。自分としては珍しく勘に逆らおうとしている。だってそうだろ? 俺は大量殺戮者になりたいわけじゃ無いんだから。


「嫌だ」

「ん?」


「聞こえなかったのか? 嫌だ、と言ったんだ」

「なんでだい? 理由を聞いてもいいかな?


 ライアンだったものの唇から冷たい声が発せられる。魔剣の本体は怒っているのか、俺の目の前で黒い靄のようなものを出している。俺は気圧されて後ろに下がりたいのを抑えながらも、きちんと言葉を紡ぐ。


「第一印象から決めてました。あなたのことが好きになれそうにありません」

「はぁ?」


「だから魔剣あんたのことは嫌いだって言ったのさ。悪意を撒き散らすなんてのは不快でしょうがないね。そもそも俺は立派な人間になりたいんだ。目指しているものが違いすぎる」

「…ここで死ぬことになってもかい? そして永遠に僕にこき使われるんだよ?」


 明らかに怒気を増したそれを、俺は精一杯の強がりで笑う。出来るだけシニカルに、相手を蔑むように。


「何度も言わせるなよ。へし折るぞ、クソ剣」


「……死ね」


 黒い刀身は俺の命を奪わんと真っ直ぐに俺の心臓へと向かってきた。


 俺はただまっすぐに向かってくる剣に右手をかざす。魔力も何もまとわずにいたそれを、黒の切っ先が突き抜ける。勢いが削がれた刃はそれでも俺の心臓を貫かんと突き進む。

 それを半身になって、右肩で受け止めてやっとのことで剣が止まる。


「何悪あがきしてんのさ。さっさと死ねよ」


 そう言って魔剣を引き抜こうとすると、肩から切っ先が抜けて血が溢れ出る。


 でも魔剣はそれ以上動くことは無く、固定されたように俺の右手から離れない。


「ちっ、何だってんだよ?」


 俺の行動の意図が読めないからだろう。珍しく顔を歪めながら俺を睨む。


「さっき言っただろ? バカ剣」

「はぁ、なんのことだよ」


 俺は返事をすること無く両手に魔力を集める。

 右手には剣を逃さないように、刀身を握るその周りを固定する。ズルズルと右手を前に進ませる。そのまま魔剣の鍔に手を伸ばすと手の筋肉を魔力を使って強化して固定抜け出ないようにする。


 再び肩へと切っ先を突き刺すように、自分から動かす。

 

「確かに、この魔剣は恐ろしいけどな。俺が死ぬまではただの切れ味のいい剣でしか無いんだぜ」

 俺は苦痛に歪む唇を、どうにか笑みの形にすると語りかける。


「だから何をしたいんだお前は!」

 魔剣を俺から引っぺがそうと蹴りを入れてくる。俺は全身に、魔力を巡らせて力みながら耐える。


 そして、左手に集めていた高密度の魔力をそっと黒い刀身の腹にあてる。手の平から徐々に魔力を流し込んでいく。


「おい、やめろよバカ! そんなことをするな! クソッ」

 俺の狙いに気づいたのか、ソイツは狼狽えながら魔剣に両手を添えると引き抜くのでは無く目を閉じた。


 途端に肩の傷口から魔剣の魔力が流れてくる。その魔力はどろどろとしているけど不快では無く、冷たいけど身をぬ委ねたくなるような暖かさで、触れたく無いけど受け入れてくれるような感触がした。そして肩から首を、通ってきて右目まで侵食された。


 その瞬間、右目には今まで見たことも無い映像が映し出されてゆく。


 目に映るのは2人旅をしていた兄妹が旅先で騙され奴隷となったこと。妹は娼館に売られて病気になるまで働かされたこと。兄は恨みをはその手に持った黒い剣で晴らしていた。


 目に映ったのは狩りから帰ってきた父親。戻ってきた我が家は黒焦げになっていた。その家の燃え残った一部の壁から煤けた妻の死体が首からぶら下がっている。火傷は無かったが裸で全身に擦り傷があった。その下には真っ暗に焼けた2人の息子の死体があった。その兄弟は互いを抱きしめ合っていて、2人の境界が分からないほどに焼けただれていた。そして獣のような叫びをあげていた。


 目に映し出されたのは親族の首。両親と祖父母、叔父や叔母と従兄弟のものまである。兄の結婚式に来ていたあまり面識の無い男の顔まで並んでいる。そして兄夫婦と姪と甥が両親の間に仲よさそうに並べられている。


 目に飛び込んできたものは、身なりの良い男性。床を這いずりながらこちらにむかっ何かを叫んでいる。床に転がっているものを投げつけてくる。俺は(・・)それらを意に介さずにゆっくりとは黒い刀身を男の胸へと突き刺す。何度も何度も何度も何度も。動かなくなっても突き刺した。突き刺す感触が無くなる頃になって俺はその首を剣ではねる。何故かその首の目と口は動いていてその様が笑えてくる。それを手で振り回しながら次の獲物を探していく。楽シイ。俺ハコレヲ楽シンデイル。ハヤク次ノエモノヲサガサナクチャ。


 ……オレハ?


 この血に濡れた腕は俺の腕か?

 黒焦げた息子を抱く腕は俺の腕か?

 楽しげに首を振り回すのは俺の腕か?



<自分を見失うな、相棒>


 何か聞こえたような気がする。




 ……………………違う。


 ……………………そうだ!



 それは俺じゃ無い!



「俺じゃ無い!」

「なんだ、戻ったのか? そのまま侵されてしまえば良かったのに」


 気がついて辺りを見る。

 そして頭を振るうと目の前には黒い刀身から出ている煙が俺の周りを渦巻くように覆っている。

 目の前のソイツは楽しげに笑っている。


「僕の抱える悪意はどうですか? ほんの一部でしたが楽しんで頂けましたかね。そしてそのまま悪意に身を委ねてください」


 俺は【好都合領域コンビニエント・エリア】を展開して強引に煙を吹き飛ばそうとするが、上手くいかない。この煙事態に魔力が通っているようだ。魔力があるものは手を使わないと干渉出来ないが、今は手を自由に動かすことができない。


「また無駄な悪足搔きを! クロ! こいつを押さえろ!」

 不死者となったクロがゆっくりと駆け出して俺へと迫ってくる。ヤバい、この状況ではクロにやられてしまう。まだ魔剣への魔力干渉は不十分で折ることは出来ない。万事休すか。


「ガァウ!」


 そこに巨大な白い物体が立ちふさがった。

 ハクだ!

 

 ハクはクロの体当たりをその身で受け止める。互いの頭で衝突し、距離をとる。だがすぐに態勢を整えると、再び体当たりを繰り返す。


「ワン!」


 何度目かの衝突でハクは俺へと視線を送りながら一吠えする。

 俺にはその言っている意味は理解できないが、言わんとしていることは分かった気がする。


「ああ、お前のご主人様と兄貴をいい加減楽にしてやらないとな!」



 俺はそうら叫ぶと【好都合領域コンビニエント・エリア】を解除して全魔力を左手へと注ぐ。


 黒い刀身にヒビが入る。

 俺の視界にはまた黒い煙が現れるが、俺は唇を曲げて叫んでやった。


「俺の勝ちだ!」


 何かが割れるような、金切り声のようなものが聞こえてくるがもう何も見えない。

 俺の周囲は煙に覆われて雲のようになっていく。

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