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2-13 クロ

 ハクと共に歩き出して小一時間ほど、目の前に湖というには小さく、沼というには大きい水溜りについた。水は思いの外、澄んではいたが小魚一匹はおろか虫や水草すら生えていなかった。この場所からは生命の息吹というものが感じられない。


「ハク、ここが封印の中心なのか??」

「ワン!」


 ハクの元気の良い声が肯定の意を示してくれる。どうやら間違い無く目的地に着けたようだ。あとはここにいる黒幕を倒すだけだ。

 これで、この村でのできごとには一先ずの終止符を打つことが出来る。ハクもそれを理解しているのか、既に戦闘体に変化しており、興奮気味なようだ。

 ただ改めてハクを見ると、その大きさと鋭い爪や牙に圧倒されてしまう。コーメー曰く、ガルムという妖精種は冥界からの侵入を防ぐための番犬だったそうだ。だから死霊系や不死属性のものには強いアドバンテージがあるそうだ。それを抜きにしても、ハクとクロはライアンが探索をしていた【死と隣り合ううろ】という迷宮の下層部の一部を支配下においていたらしい。元々の迷宮内役目としては最下層の迷宮核を護る部屋の番犬をしていたらしかった。

【死と隣り合ううろ】という迷宮は、迷宮の難易度としても高い方だそうだ。コーメーがAランクの強さがあると言っているが納得の戦闘力だ。


 これから対峙するはずのクロも、同レベルの強さを持つことは明らかだろう。はっきり言って単独で戦うと勝率はゼロだ!  自信を持ってそれだけは言える。

 だが、ハクのお陰でかなり勝率も上がっている。そのお陰か随分と落ち着いて戦いの場へと赴くことが出来る。単純に互角のレベルであるハクとクロの戦いを横からかっさらうようにする。着飾る必要が無いので、飾らない言葉で表現するが、危ないことはハクに任せて不意打ちを食らわす、という作戦だ!

 外野は何とでも言うがいい!

 だがこんなものは所詮勝てばいいんだ!!

 フィクションじゃないし、騎士の決闘でもあるまいし、一対一でやる必要は何も無い。

 勝つためにこれくらいの小狡さは必要だと俺は思う。

 待っていろよ、クロちゃん‼︎‼︎‼︎




 だけどそんな狙い通りに行かないのが、異世界人生である。

 湖にしては小さいそれを渡ると、祠のような、神殿のようなものが建てられている、中心にある小島のようなとこに出た。どうやらここが終着点だろう。後はハクをターゲットにけしかけるだけだ。


 建物内にそれは居た。

 そこは体育館のように広く高い空間をけいせいしていたは。その中に大きな塊がある。


 体格はやはりハクと同等のものだった。ただ大きく違う点が二つある。一つは毛並みの色だ。ハクは雪のように白く美しい白をしているが、クロは真っ黒だ。光が吸い込まれるように暗く、不気味ささえあった。薄暗い屋内に闇と同化したかのように、爛々と輝く金色の瞳だけが浮かんでいるように見える。


 俺はハクという心強い味方がいるにも関わらず戦慄していた。


 二つ目の相違点。それは頭から生えている黒光りした()だ。いや、生えるというよりは突き出ている?  と、表現した方が適切か?  まるで頭の中から突き出ているようだった。

 しかもその角からは、禍々しいまでの魔力が溢れていた。クロ自身よりも、恐ろしく、不快で、嫌気のする魔力だ。いままでに感じたことの無いような種類の魔力に驚きを覚えるが、俺はその正体を直感的に理解できた。


「ハク、クロの頭の角みたいのは【感染する悪意マリファス・トゥ・インフェクト】で間違い無いか??」

「グル、グルルル」


 ハクは出会ってから聞いたことも無い低く怒りのこもった唸り声をあげて答えてくれた。ハクの反応からも分かった。

 原因やら理由は不明だが、かの魔剣はあのクロの頭に生えている。これは何を意味するのか?

 おそらくだが【ネパシーヴァ教】の神官が一枚噛んでいるじゃ無いだろうか。ただの直感でしかないし、確かめようがないのでそれ以上考えることはしなかったが、十分だろう。


 やることは変わらない。クロを倒す。

 ただクリア難易度が上がったような気がするだけだ。いや、あの魔力から察するに明らかに戦闘力も強化されているだろう。あのプレッシャーは隣にいるハクを凌駕している。


「ハク、作戦通りだが無理はするな。分かってると思うが、あの魔剣には要注意だ」

「グルガァ!」


 どうやら、ハク様はかなりお怒りのようだ。兄にあんな物が生えているんだから無理もないか。でも変に情がわいて動きが鈍るよりはマシかもしれない。


「よし、行けハク!」

 ハクは一目散に兄へと突き進んだ。

 クロはハクを視認すると、小さく唸っただけで身構えると頭を突き出してカウンターを仕掛けてくる。


 だからか、ハクは四肢をバネのように弾ませて、右へ左へとジグザグに動く。そして直接体当たりするのを諦めて、近くを通り過ぎたりして距離をとった動きを見せる。


 あの巨体が俊敏に動き回るのも驚きだが、着地した地面が抉れていないのが気になる。あの巨体を動かすのに慣性の法則はどうなっているのだろうか? それとも勢いを完全に殺して移動しているのだろうか?


 深く考えるのは止めよう。きっとファンタジーな要素が働いているんだろう。


 さて、それよりも作戦通りに動けるように隙を伺わなくちゃいけない。

 俺がたてた作戦は簡単なものだ。


 ハクにクロと取っ組み合いをらしてもらう。獣本来の戦いとしては、急所に一撃を入れるように爪やら牙を突き立てるように動くものだ。だが、ハクには今回はいつもと違う狙いをお願いした。


 ズバリ、四肢の破壊だ。


 四肢を破壊して機動力と攻撃力を低下させる。

 そして俺が十分に近づける程度になったところで、ハクには高く飛び上がって意識を上へと向けてもらう。

 そこで満を持して、俺が懐へと飛び込んでありったけの魔力で【魔力掌(まりょくしょう)】を叩きこむ。それでthe endだ。


 だが理想と現実はいつも裏切られてしまうものだ。さっきから見ているが何なんだアレは?

 大きさこそ以前仕留めたヘアリーエイプのボス猿くらいのものだが、動きが違いすぎる。まるで嵐だ。さっき駆ける際の地面に触れたが、今は所々がシャベルカーで抉られたようになっている。

 カウンターを狙っていたクロだが、突破口が見当たらなかったからか、今は互いに激しく動き回っている。

 

 白色の塊が地面を這うように動くと、それを追うように黒色の塊が蠢く。急な方向転換に地面は耕されて爪によってひっくり返される。白色の塊が宙を舞うと、あわせるようにははじけたは黒色の疾風は周りの建物を破壊しながら方向転換をする。壁には穴が開き、天井はかなりの高さにあったが空をのぞかせている。

 しばらくする内に、この建物は崩壊するんじゃないか、俺は生き埋めの心配をしてしまう。

 

 だが、攻防は一進一退だ。

 俺は痺れを切らせて援護をすることにした。

 俺への警戒度は高くなってしまうが、それよりも早く事態を収拾すればいい。

 二体は互角に見えるが、あきらかにはハクの方が消耗してきている。それがあの魔剣のせいなのか、それとも不死属性が付与されているのか、クロの動きに変化は無い。ハクだけに疲れが見え始めたのだ。


 俺は勝負を決めるつもりで、亜空間から取り出した【三日月の斧(クレセント・アックス)】を握りしめる。


 幸いなことにクロはハクを追いかけるので、頭がいっぱいのようだ。武器を構えたこちらに意識を向けずに追いかけっこに夢中だ。


 俺は身動きの取れない空中に身を置く瞬間を狙った。俺の放った手斧は一直線にクロへと向かう。そのまま着弾すれば、腹を抉る事が出来たであろうそれは、あいにくとクロの肉体に届くことはなかった。

 頭の魔剣で弾かれた。


 自分の中で小さく無い衝撃が走ったのを感じる。あの【三日月の斧(クレセント・アックス)】が十分に魔力を通した状態で投げたにも関わらず、弾かれた(・・・・)のだ。


 俺の中では、放てばその軌道上のものを容赦なく切断してきた最強の武器だったのだ。だから呆気なく弾かれたことの驚きはあまり小さくは無い。どうやらあの魔剣は、切れ味の面でもかなり優秀みたいだ。


 だか、そんな俺の心情とは別に局面は動き出した。


 手斧を弾いたクロの隙をハクが見逃さずに襲いかかったのだ。


 空中で体当たりをかまして、もつれるように地面へと激突した。大量の砂煙があがり、中からハクが飛び出てきた。俺とは反対側で前傾姿勢で臨戦態勢を崩さずにハクは煙を睨んでいる。


 煙が晴れて、姿を現したクロの両の前足はあらぬ方向に折れ曲がっていた。俺は狙い通りに仕事をしたハクに心の中で賞賛を送りながら、予定とは違う指示を出す。


「ハク! クロにのしかかって動きを封じろ!!!」


 指示と同時に俺は走り出した。ハクは俺の予定外の命令に冷静に従ってくれた。俺よりも早くクロへと近づくと、覆い被さるようにしてクロを拘束する。


「ガァァアアア!!」


 クロは腹の底が縮み上がるような、雄叫びをあげるが全力で無視して接近する。

 俺の狙いは魔剣だ。


 一目見たときから俺の勘がヤバイとは叫んでいる。あれをどうにかしないといけない。俺は操作できる限界の魔力量を両の手に集める。


 まずは、左手をクロの顎にそっと当てる。魔力を浸透させて頭部へと自らの魔力を流し込む。

 かなりの抵抗にあうが気にしない。

 俺は魔力を流しながら魔剣の状態を確認する。

 方法は分からないが、魔剣は脳に突き刺さっているわけではなく、生えていた。

 魔剣に柄はなく、頭身のみが前頭葉の部分に繋がっていた。


 これでは脳にダメージを与えずに、魔剣を取り除けない。万に一つの可能性だが、魔剣を抜けばクロが元に戻る思っていたけど甘い考えだったみたいだ。


 こんな戦闘中に脳から生える剣を綺麗に抜くなど、そんな天才的な外科手術は俺にはできない。白髪の金にがめついモグリのお医者様でも呼んできてくれ!


 俺は一瞬で、脱線した思考を巴投げして決断をする。


 顎に添えた左手の上に、右手で作った圧拳を叩き込む。

 イミージは手の平に込めた魔力を頭部へと塊のまま突っ込む形だ。右手からでた魔力の塊は頭の中を通って、魔剣が生える脳の部分へと向かい一方向へ弾けた。


 俺は魔力を魔剣の生え際に送り、魔剣をぬくことには成功した。飛び出た魔剣は10メートル後方の地面へとつきささった。



 狙い通りの展開になった。だか惜しむらくはクロの脳にダメージが入ってしまったことだ。脳の障害など詳しくは無いが、楽観できるものでは無いだろう。

 だが、一息つけるだろう。これで終わった(・・・・)のだから。



 気付けば、ハクが俺の隣へと寄り添うようにやってきた。よく見ると身体中傷だらけだ。その白い毛並みを赤色が覆っている。どうやらハクもギリギリの状態だったはようだ。


 俺はハクを撫でながらクロへと再び視線を向ける。


 まだ息はあるようだ。だが虫の息だ。

 おそらく長くは持たないだろう。

 こちらを捉えたクロの瞳は、いくらか理性が戻ったような気がする。いや、気のせいだろう。


「ごめんなクロ。こうするしか無かったんだ」

 俺は気休め程度の言葉を投げかける。それを聞いたクロは微笑んだような気がしたのは…、俺の願望だろうか?


 俺はクロを正視することが出来なくなったので逃げるようにして、抜け飛んだ魔剣へと振り返った。


「ハク!」

 だが、俺は目の前の光景に目を疑った。

 地面には、突き刺さったはずの魔剣が無かった(・・・・)

 反応の無いハクを確認するために、再び振り返るとハクが無反応だったことに納得した。


 視線の先には、今にも死にそうなクロの傍に立つ男がいた。

 服装はかなり古ぼけたもので、ところどころが裂けて血が付いている。そして裂け目からは薄黒い肌が露出している。その顔に生気は無く、ミイラのように水分が抜けていた。正確な年齢は分からないが、老人と呼ばれる領域に足を踏み入れているのが分かる。

 そんな男が纏う空気は、吸血鬼など比較にならないほどの死を連想させる。触れた瞬間に、命を吸い取られてしまうような錯覚がする。絶対に関わりたく無い存在だ。

 男には表情は無かった。だがクロを見る目だけはどこか感情を感じさせるものがあった。


 だが俺はそんなことよりも気になる事実を確認する事が重要だった。いや、確認も何も無いだろう。それは見てわかるものだから。ハクの反応を見るだけでも確信が持てる。この男の黒髪・・を見ながら俺は疑問を言葉にした。


「……あんたは、ライアンなのか??」

 

 俺の問いに顔だけをこちらへと向けてくる。その瞳には既に輝きは無く、真っ暗な闇だけがそこにあった。


 男は一通りこちらを確認すると小さく頷いた。


 どうやらまだまだ終われないようだ。



買ったばかりのiPhone6spで修正していたら寝落ちしてしまいました。予告よりも投稿が遅くなってしまい申し訳ありません。


今後ともUnThikableを、よろしくお願いします。

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