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2-4 伝わらなかった真実

「オイラは今までに何人もの人間と契約してきたんだ。何千年も前からね。その中には勇者や英雄と呼ばれた人も、後に魔王と呼ばれた人もいたんだ。」

 コーメーは少し目を細めながら、過去を思い出すように話を続けた。



「今から800年くらい前だね。オイラと契約した男は、とてもやさしい男だった。彼は今はもう無くなっちゃったけど、ある国の王子様として産まれたんだ。戦いの才能はあまりなかったみたいでさ。もともと血が苦手だから、護衛の騎士が訓練で切り傷を作っているのを見るだけで気を失ってしまうほどだったよ。でもものすごく頭がよかったんだ。第二王子ながら農業改革や土木工事を指示して、そのことごとくを成功させていったんだよ」



「城からよく抜け出していて、城下町をお忍びで歩くのが好きでさ。オイラの能力を使って誰にもバレずに民からの声を聞いていたよ。そのおかげもあってか民衆の支持も高くて、一部では次期国王に! なんて声も上がっていたくらいだよ」

 コーメーの契約者ってことは転生者だったわけだ。きっと内政チートで色々と頑張ったんだろうな。俺はあんまりやるつもりはないけど…。



「でもそのおかげで、第一王子からは嫌われてしまってね。彼には軍事的な才能はあったけど、内政に関しては疎かったんだ。よくある話だよね。後継ぎとして次期国王の座を巡って対立することになってしまったんだ。と言っても第二王子(ライアン)は王となるのではなく、補佐役として兄の役に立つことを望んでいたんだ。そもそも対立をあおっていたのはライアンを押して利益を得ようとする貴族たちだったんだけどね。本人の意思とは関係なく、お互いに引けなくなってしまったんだ。そんな感じで、水面下で様々な戦いが起きていた。そして数年がたったある日、忌わしい事件が起こったんだよ」

 


「長年に渡って敵対関係を続けた隣国が和平を持ち込んできたんだ。その和平が実現すれば50年に及ぶ長い戦争が終わる、そんな歴史的な出来事だったんだ。ライアンの国は諸手を挙げてそれを受け入れたよ。だって50年もの戦争は国を民を、あらゆるものを疲弊させ続けていたからね。調停式はライアンの国で行われ、多少のごたごたはあったけど無事に終わったんだ。夜はそのまま宴会になってね。あの夜は凄かったよ。みんな酒におぼれて喜んでいた…。敵国だった者同士、兵士は肩を組んで笑いながら腕相撲をして、魔法使い達は互いの火魔法で花火を打ち上げ競っていた。殺し合いをしていた宿敵への恨みなんて、そこには無かったんだよ」



「でもね問題は突如として起きたのさ。調停式に来ていた敵国の王様がライアンの妻を気に入ってしまってね。彼女は身分こそあまり高くない貴族の出身だったんだけど、見目麗しい女性だった。王はその彼女を欲しがった。その恋慕は周りの目を憚らずに求婚をしたほどだったよ。場に不穏な空気が漂ったので、宴会をお開きにしたのさ。でも翌日になっても王の態度は変わらず、ライアンの妻を欲した。それこそ彼女が手に入らなければ再び戦争に突入する勢いだったのさ」



「ライアンの父王は大いに悩んだ。王として息子の妻を渡して戦争を回避するか、父として息子の妻を守りより多くの死者を出すか……。重臣たちは様々な意見を出すが、結局のところ王は王として国を守る決断をした。ライアンはとても悲しんだ。失意のどん底だった。そりゃぁもう見ていられないくらいだったよ。

でも本当の意味で、彼が後悔するのはその後だった」



「自分の妻を敵国に送り出してから一週間後。彼のもとに妻だった女の死が告げられた。自殺だったそうだ。彼女は愛する夫以外から、その身も心も自らの死によって守ろうとしたんだね……。でもね、このことでライアンはどこか壊れてしまったんだ。その悲報を受けて彼はすぐに国を出た。なぜかって? 妻を生き返らせるための方法を探すためだよ。彼はそんな奇跡みたいな話を本気で探したんだよ。」



「オイラは自分の知る限り、死者復活の魔法はないと彼に伝えたけど聞く耳を持ってくれなかった。『こんなゲームみたいな世界なんだから蘇生魔法の一つくらいあるはずだ』かれはいつもそんな事を言っていた。5年、10年と世界のあちこちを旅して、ついに手がかりになる場所を見つけた。それは【死と隣り合ううろ】という迷宮だった。迷宮ってのは、迷宮核が作り出した階層になっている迷路のことだよ。中には魔物やトラップが溢れている。でもその中には貴重な【魔道具(マジックアイテム)】が発見されることがある。それに迷宮に巣くう魔物からは貴重な素材がとれたりする。昔からその存在は謎に包まれているけど、人間は危険と供にその恩恵を受けているところさ」



「話は戻るけど、ライアンは【死と隣り合ううろ】で発見された死者を召喚する魔道具(マジックアイテム)が発見されたという噂を聞きつけた。彼はその迷宮にたどりつくと、7年という年月をかけて探索を続けた。そこでは冒険者と仲間になったりもした。それにそこにいるハクとクロというに二匹のガルムを使い魔にした。ガルムっていうのは死者の世界との行き来を見張る存在のことで、精霊に近くて妖精の一種だよ。ここでは守神様って呼ばれているけど、厳密には一般的な魔物とは別の存在さ」

 そう言いながらハクの頭をコーメーは撫でている。ハクは嬉しそうにしているが、尻尾の動きはどこか寂し気だった。



「それでも努力の成果か、執念のなせる業か、ある魔道具が手に入ったんだ。それがくだんの魔剣さ。ライアンはそれを手に入れてから、さらにおかしくなってきたんだ。きっと死者を蘇生させる方法なんて、無いんだって薄々気付いていたのかもしれない。だからなのか、妻への想いは段々と変化していったのさ。それは死なせた者たちの復讐心となって爆発しそうだった。オイラや仲間たちはライアンの復讐を思い止まらせようと説得したんだ。でもね。魔剣の副作用なのか、性格はどんどん変わっていって、説得に聞く耳を持ってくれなかったんだ」



「復讐を決心してからの行動は早かった。ライアンは単独で敵国だった王をはじめ、彼の国の王族を皆殺しにした。ライアンは元々戦闘の才能は無かったから、嘘のように思えるけど。実は長年の旅や迷宮の探索での経験、発見した魔道具によって高い戦闘力を持つようになっていたんだ。あっさりと目的を果たしてしまったライアンは喜んでいた。でも満足は出来なかったみたいなんだ。晴らせなかった恨みはどうしたかって? それは自分の妻を売った父親たち親族へ向かったんだよ」



「今回もそれ程難しくなく、復讐を行えるはずだったんだ。自分の家族を手にかけることに、かなり抵抗感はあったみたいなんだ。でも憎しみがそれを上回ったんだろうね。ライアンは国境を越えて、とある平原で足を止めることになったんだ。なぜなら1万もの軍勢が彼を待ち構えていたんだからね。その軍勢を率いていたのが彼の実兄であり、年老いた父王に代わり新たな王になった男だった」



「第一王子が監視をを付けていたのは、勿論オイラもライアンも知っていたさ。でもさ、国境を越えてすぐの所に1万もの軍勢がいるとは誰も予想をしていなかったんだ。常識的に考えれば、父が退位して兄が即位していたのも知っていたからね。軍を率いてこんなところに居るはずがないんだけどね。どうやら新王はライアンのこと非常に恐れていたんだろうね。有無を言わさずに矢で攻撃をしてきたんだよ。ライアンは運良く怪我を負うこともなく、避けることができた。でもそのまま逃げようか、兄だけでも討つか、迷っていたんだ。目標はあくまで王族だったからね。無理をして1万もの兵を戦う必要は無かったし、彼は兵士を含めて母国の民を愛していたんだよ。ただその時の実力ならば1万もの大軍とも戦うことができたのも事実なんだ。なにせ【魔剣:感染する悪意マリファス・トゥ・インフェクト】をはじめとする多くの魔道具に、オイラやハクとクロも居たからね」

 このハクやクロがどれほどの戦力なのかは分らないが、妖精なんだから弱いということはないだろう。見たまんまは賢い大型犬でしかないけど…。

 それに俺とは違って、コーメーの能力に制限が生じては居ないのだろうから、1万を相手にできるというのも嘘ではないのかもな。魔剣の能力もやばいしな…。



「相棒。なんか変なこと考えてないかい? ………まぁいいや。

結論から言えばその場は逃げることになったんだよ。だから近くの森へと逃げて行ったんだ。森に入ってしばらくして、歩兵の1個小隊に襲われてね。どうやらかなりの数の伏兵が森に潜んでいたらしい。返り討ちして尋問しようとしたんだけど、とっさに反撃をしてしまったから加減が出来ていなくてね。一人を残して全員が死んでいたんだ。それにあまり訓練を積んでなかった兵士みたいだったし。それで残った一人にさ、尋問しようとして近づいて顔を見たらさ、ライアンが好きだった串焼き屋の主人だったんだ。そいつはさ、ライアンのことを見ると、すごく驚いていたんだよ。『なぜあなた様が…』って言いながら結局はすぐに死んじゃったんだよね。ライアンは慌てて他の死体を確認してたよ。安くて量が多いけど味がいまいちな定食屋の主人、王城からの脱走を見逃してくれた兵士、丁寧な作りが評判の仕立て屋の息子、口数が少ない馬の調教師、見知った顔がほとんどだった」



「兄王が意図的にライアンの知人を集めたわけじゃないんだろうけど、彼らは敵がライアンだと知らされずに来たんだろうね。強制徴兵でもしたんだろうね、兵士の熟練度が低いわけだよ。おそらくまともな兵士は半分もいなかったんじゃないかな? それでさ、とうとうライアンは耐えられなくなったんだろうね…。しばらく俯いて動かなくなってしまってさ。しばらくは数人の敵兵に見つかっちゃったんだけど、オイラたちでなんとか気絶させてさ。でも結局は兄王まで来ちゃったんだよね。いくらかの押し問答があって、最終的には罵倒しあってた。最後にオイラとハクとクロの力を使って、そこに大きな結界をはったんだ。周りの兄王や兵たちは、その時に吹っ飛ばしてやったけどさ! そしてライアンはオイラたちに遺言を残して自殺しちゃったのさ……」

 それでコーメーもハクもその時のことを思い出したのか、表面には感情を出さないようにしていた。きっと、怒りや悲しみといった様々な感情が渦巻いてんだろうな。




「その後はオイラたちは遺言通りにした。ハクとクロは結界維持のために、その地に残った。この結界はライアンが持っていた魔剣をはじめとする強力な魔道具が世に出ない為のものだったのさ。兄王は魔剣を狙っているってライアンは言っていたしね。新たな争いの火種(ひだね)にしたく無かったんだよ。本当に優しい奴だったよ」



「さてこれで、相棒の質問に答えられるな! なぜわざわざ墓参りに来たのか。それはライアンからの遺言を守るためさ。ライアンはオイラに言った。『魔道具を私利私欲で使わないと思える人間と契約した時に、墓の封印を解いてその人の力にして欲しい』ってさ。だからオイラは相棒を連れて来たかったんだ」


「……そうか、確かに俺は他人のために立派な人間になることを目標にしている。でもさ、俺は場合によっては積極的に戦闘をするぞ。きっと相手を殺すことも何度だってある。ライアンの意思とはズレてしまうんじゃないか?」

 争いを好まなかったライアンは、きっと俺とは相容れない価値観を持っていたハズだ。


「そんなに難しく考えないでおくれよ。別にライアンにも特別高尚な考えがあったわけじゃないんだ。ここに相棒を連れて来たのは、オイラのフィーリングさ。相棒にライアンの魔道具を使って欲しかっただけさ」

 コーメーは場を明るくするためか、ウィンクなんてしている。生憎だが、小人の見た目な精霊にされても嬉しくはない。


「でも! 私のせいで結界は破られてしまいました。おそらく魔道具は……」


「魔道具は残ってないだろうね。でもミミが気を落とす必要は無いよ? 悪いのはその神官たちさ。そいつらをオイラは許さないよ」

 強い意思を込めてコーメーは俺の方を見る。

「なぁ相棒。オイラの我が儘なんだけど、ヤツらを探すのを手伝ってくれないかい?」

 コーメーが俺にお願いするなんて、初めてじゃないかな? それだけ怒っているってことなんだろうけど。


「別に構わないさ。話を聞く限りじゃその神官たちはムカつくしな。ま、大方あの教会(・・・・)の神官たちだろうな。居場所は分からないから、俺の目的を優先させてもらうな。それでも変な縁があるからな、その内尻尾を掴めるだろうさ。そんな感じていいか?」


「勿論だよ、相棒は話がわかるね」

 そう言って互いの拳を数度軽くぶつける。最近コーメーがハマっている二人のアクションだ。いつか見た映画のシーンを再現しただけだが、いたく気に入られてしまったらしい。


「じゃあ後は、これからどうするかだな。取り敢えず、あの不死者たちを倒して埋葬するのが先だな」

 ミミは俺の言葉を聞いて、嬉しそうだ。垂れた犬耳が片方だけ動いている。ミスカの実を食べている時も同じ動きだったので、喜んでいる時の癖なんだろう。


「オイラもそれでいいと思う。ただ気になることがあってさ」


「おいおい、まだ何かあるのかよ?」


「まぁね。でもこれが最後だよ。ミミに聞きたいんだけど、墓守の村には何人くらいの人が暮らしていたんだい?」


「確か、二百人はいたと思うよ」


「そうか、それは困ったことになるかもしれない」


「そんなに深刻な問題か? 確かに多い数だが、さっき戦った感触だと比較的楽に終わると思うぞ?」


「…実は封印されていた魔剣の能力は『殺した者を不死者にして従える』で間違い無いんだ。でもその成功確率っていうのは数パーセントなんだ」


「はぁー?? じゃあさっき倒したのは失敗だってのかよ。不死者の特徴はあったし、それなりに強いし厄介だぞ?」


「それもあの魔剣の恐ろしいところだね。でもアレは、不死者は不死者だけどあんなゾンビ紛いのものを生み出す道具じゃない」

 コーメーの真剣な雰囲気におされたのか、ミミは喉を鳴らしながら話を聞いている。


「あの魔剣はさ、不死者を、それも上位の存在である【吸血鬼】を生み出し従わせる為のものなんだ」


 吸血鬼って…。一筋縄では行かなそうだな。

ん? 待てよ。成功率が数パーセントで、村人は200人居るってことは……。


「そうか、敵に吸血鬼が数体いる可能性が高いってことか…」


 急激に難易度が上がったのを自覚して俺は作戦を考える。

 ニンニクや十字架は効果が有るのだろうか? 現実逃避のために、思わずそんなことを考えてしまう俺だった。



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