2-3 ミスカの実
「やぁ、はじめましてお嬢さん。怪我は無いかい??」
30センチくらいの身長の男の子が、そんな感じで声をかけてくる。
あたしは状況に整理がつかなくて声が出なかった。きっと目も点になっていたと思う。
「え、あの…。あなたは??」
「これは失礼。自己紹介がまだだったね。オイラはコーメーってんだ。精霊だよ。そこの緑マントはクオンセルさ。クオンって呼んであげてよ」
「あ、はい。あたしはミミ」
「ミミだね。…それで怪我は無いかい??」
「うん。大丈夫。…それよりもあなたたちは何者?」
「よかった。……その質問に答えるのはちょっと待っておくれよ。急いでやらなくちゃいけないことがあるんだ」
コーメーと名乗った小さい少年は、あたしの状態を確認すると守神様の方へと歩いていった。
「守神様にヒドイことをしないで!!」
あたしは傷ついた守神様が心配で、コーメーとの間に割って入った。あたしの為に傷ついた守神様を、もうこれ以上ひどい目にあって欲しくなかったからだ。
「大丈夫だよ。助けたいだけさ。…それにこいつとは友達なんだ」
「友達?」
あたしはきっと変な顔をしていただろう。守神様に友達? 聞いたことも無い。この子は何を言っているんだろう、と首をかしげるあたしを余所に、コーメーは倒れている守神様の前にしゃがみこんだ。
「…やぁ、久しぶりだねハク。随分と大変なことになっているみたいだけど、まずは傷を治さないとね」
そう言って振り返ると、マントの少年へと声を掛ける。
「相棒! 悪いんだけどポーションを使わせてくれないかい? 思った以上に傷が深い」
「そりゃ構わないが、状況説明を急いでくれ」
マントの彼は返事をしながら、近寄ってきた不死者にその斧を振るう。わずかに煌きながら振るわれるそれは、既に数体の不死者を行動不能にしている。
そんな彼と、ふと目が合ってしまいあたしは慌てて守神様たちの方を向く。変に思われてしまったかもしれないな…。
あたしは少し後悔しながらコーメーを見ている。彼はどこから取り出したのか、その手にポーションを持っていた。そして半分ほどを守神様の胸の傷にかけて、残りを飲ませようとしている。
「さぁ、ハク飲むんだ。…そんな顔をしてもだめだ。嫌いなのは知っている。でも飲むんだ。死んでしまう…」
守神様に言い聞かせながら、飲ませる姿はどこか微笑ましく思えてしまう。本当に彼等は友人みたいだ。
ポーションを飲んだ守神様の身体は、うっすらと光ったかと思うとみるみるうちに傷口がふさがっていく。
「ほえ~。随分と高品質のポーションだね。―――っと、ハクはあんまり動いちゃダメだよ。無理をすると治りかけの体内や、神経なんかの感覚がずれて痛くなっちゃよ」
「わん」
守神様は嬉しそうにコーメーに飛びついて、ぺろぺろと顔を舐め回している。尻尾も勢いよく振られている。可愛い…
「コラコラ。あんまり動くなって! …よし。そんじゃあ何があったか話しておくれよ」
「わんわん、がぅ。く~~ん。……がぅがう」
「ふむふむ」
「がうがががぅ」
「ほーう」
………。
あれで通じているんだろうか? 守神様が一生懸命に話し?ているようだけど、何を言っているか分からない。仕草は可愛いけど……。
「何言ってるか分からないな。通じてんのかな??」
「ふぇっ??」
「ん? わんとかがうしか言ってないじゃないか。だから通じてんのかな、って言ったんだけど……」
「あ、はい。そうですね。あたしも思いました」
彼に話しかけられただけで、鼓動が速くなった気がする。こっちを見てくるその黒い瞳に吸い込まれそうになってしまう。
「さっき、コーメーから聞いたと思うけど、俺はクオンセル。クオンって呼んでくれ」
「あ、あたしはミミでしゅ」
か、噛んでしまった…。ああ~~~~~~~……。あたしのばか! クオンさんの目尻が上がった気がする。
恥ずかしくて俯いてしまったあたしは彼の顔をまともに見れない。
「…。うん。じゃあミミ、俺にも今起きてることを教えて貰えないかな??」
「……はい。あのですねーー」
あたしは無意識に早口になるのに気付かないまま、これまでのことを洗いざらい話した。
――――――
ハクから聞いた話――コーメーが訳したもの――とミミから聞いたものを統合して、俺たちは現状把握をすませた。ハクと呼ばれた大型犬は俺たちの会話に時々わん、と吠えて答えたりするので間違えてはいないだろう。
「……ミミ。済まない。君のお母さんを…」
俺は先ほど、行動不能にした不死者を見ながら出会ったばかりの犬の獣人の少女に謝った。別に直接殺してしまったわけではないので、謝罪するのは変な気もしたが…、目の前で母親の死体を切り裂かれるというのはいい気持ちはしないと思ったからだ。
俺の言葉に一瞬肩を竦めて、垂れていた耳をピンと立てて俺を見る彼女は表情を固くしながら返事をしてくれた。
「いえ…。ああなってしまってはどうしようもありません。墓守の一族としても、助けていただいた身としてもお礼を言う以外に言葉はありません。ありがとうございます」
「そうか。……いやいいんだ」
俺は気丈に振る舞う少女に伝える言葉が浮かばないので、彼女の母親へと視線を送るようにして顔をそむけた。
「なぁコーメー。この人たちを埋葬してあげたいんだが、とどめを刺す方法を知らないか? 皆動いてるんだよ」
まだ動いている彼らの不死性に驚きながらも、目の前の惨状を生み出した張本人なのに、そんなことを言ってしまう。
15体前後の死体を眺めながら、このまま埋めても這い出てきそうなくらい元気な奴ばかりだ。困った時のコーメー先生に聞いてみた。
「うーん。彼らは不死者となった際に、心臓付近に魔石のようなモノが出来てるんだ。それを破壊すると灰になってしまうはずだよ」
「詳しいんだな。それじゃ……。待てよコーメー? 灰になるのか?? 俺も何体かアンデット系の魔物を倒したことがあるが、灰になってしまうなんて聞いたことがないぞ??」
「そりゃあ、彼らはただアンデット化した訳じゃないからさ。彼らは普通のアンデットじゃないからさ。さ、とりあえず灰にしてしまおう」
コーメーは俺の答えに言葉を濁しながら、顔をそむけてしまう。
「…他にも話すことがあるから。ここを離れてどこかで落ち着いて話そう」
俺はコーメーがらしくない表情をするので、追求せずに作業に移った。不死者は心臓部を破壊すると、すぐに動かなくなり一瞬で灰となった。ミミは母の灰の一部を布に包んでポケットに入れていた。
俺たちはハクの案内で少し離れたところにある、モジュの木という巨木を俺たちを案内した。ミミ曰く、ここは村人が狩りをするときの休憩所になっているらしく。中には簡単な家具が揃っていた。
「さぁ、早速話を聞かせて貰いたいところだが。太陽を見る限り、お昼を回っているようなので」昼食にしよう。
俺は【亜空間】から大なべに入ったスープを取り出した。中身はドルンリザートとかいうトカゲの魔物の肉と根菜などで、とろみのあるさっぱりとした味だ。ここに来る前の比較的大きな町でまとめ買いしたものだ。他には焼きたての黒パンと葉物の野菜をちぎってサラダにする。
「どれも大量にあるからな。お代わりもしてくれ」
休憩所の棚から適当な器を取り繕って、盛りつけながら配って渡した。他にも【溢れる水筒】で冷たい水を生み出してそれぞれのコップに入れた。この【魔道具】にも慣れてきたみたいで、今ではある程度の温度調整が出来るようになった。
「すごい。何も無いところからこんなに料理が…。それに、スープは温かい。クオンさんは空間魔法が使えるんですか??」
「いや、俺の魔法じゃなくてコーメーのおかげだよ。こいつは空間の聖霊なんだ。そんで契約した俺もその力の一部を使うことが出来るんだよ。スープが温かいのは亜空間に保存しておくと時間がたたないから、調理したそのままの状態で取り出せるんだよ」
「へぇ~、コーメー君はすごいんだね!」
ミミはそう言ってコーメーの頭を撫でる。何というか弟が姉に褒められているようにしか見えない。
「オイラを子供扱いしないでおくれよ。これでもかなり年上なんだよ?」
恥ずかしげに顔をそむけるけど、手を振り払おうとはしないコーメーに、どこか生温かい目を向けてしまう俺であった。
ニヤニヤしながらデザートとして、ミスカの実という真っ赤な皮と果肉なのにキュウイみたいな味の果物だ。
「あ、ミスカの実だ」
「ん? 知ってるのか??」
「うん。あたしこれ大好きなんだ。ありがとう」
「わんわん!」
ミミだけじゃなくて、ハクも好きなのか? これでもかというくらい尻尾を振っている。なんというか普通に犬だな。
ミミはミスカの実をじっと見つめていた。何か思い入れがあるのかもしれないな……。
「ミミ、どうかしたのかい?」
「いえ何でもないです。さぁ食べましょう!!」
ガヤガヤと俺たちは比較的に楽しい食事の時間を過ごすことが出来た。ミミはかなりの量を食べていた。俺の倍は食べていた。ハクは普通に俺たちと同じものを食べていたけど、大丈夫なのだろうか? 確か犬って人間と味覚が違ったり食べれないものとかあったハズだけど…。魔物だから問題ないのか??
ツッコミたい部分もあったが、今はコーメーだ。
「よし、コーメー。そろそろ話してくれ。そもそも俺はお前が知り合いの墓参りをしたいって言うから、ここに来たんだ。目的へのコースからそんなに離れてないからついてきたけどさ。その辺から教えてくれ。まぁ、ミミ達から話を聞いたから代替の予想はつくんだが…」
「そうだね。まずはオイラがここに来た目的は言った通り、墓参りなんだ。ミミ達の一族が守ってきた墓の主、【ライアン・スル・レトプリト】という名の、かつては魔王と呼ばれて恐れられた男だった、オイラの昔の契約者に挨拶がしたかったんだ…」
コーメーは少し緊張した表情で言葉を続ける。それは歴史に埋もれた魔王と呼ばれた男の物語だった。
おかげさまで、総合ptが100を越えました。
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