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1-19 実家到着

 それからは特に、盗賊に襲われるといったことはなく多少の魔物との戦闘があった程度だ。

 道中は盗賊から奪った金で懐も暖かったために、食事を奮発して飲んだくれたりしてしまった。この辺の計画性の無さは相変わらずだ。

 成人したばかりの少年の豪遊っぷりに、周囲は驚きながらもご相伴に預かろうと寄ってきたが、俺のマントの背中にあるシンボルを見るなりおとなしくなっていった。

 どうやらこの辺りでも、【武骨者たち(バンプキンズ)】の武勇(あくみょう)は届いており、ある程度の認知はあるようだ。変なことには巻き込まれたくないな…、とつい思ってしまった。


 そんなこんなでスチュアート領に入り、いざ実家へと向かって進んだのだが…。如何せんどんどん緊張してしまい、門をくぐれずに近くを行ったりきたりしてしまっている。

 実家(スチュアート家)の屋敷の近くでうだうだしている俺は完璧に不審者だろう。引っ立てられても仕方が無いのかもしれない。


 自分の意思で家を出たこともあり、実家の皆がどう思っているかは良く分からない。成人前の弟のジョージは居るだろうが、レモ姉は何をしているのだろうか? あのクラスの魔法適性があるのだから、きっと軍に入ったり、有名な魔法使いに弟子入りしているかもしれない。


 母のミランダは体調が戻ってきているらしいので、きっと屋敷内で精霊魔法の研究をしているだろう。それにマリアンもきっと自宅に居るはずだ。


 父のモーフィスは王都にいるだろう。国軍の魔法戦士団の副団長を勤めているので、きっと訓練やら何やらの毎日を送っているのだろう。俺も王都の【育成道場】で暮らしていたのだが家を出てから会ったことは無かった。ただ、たまに師匠から父からいい酒を貰ったと喜んでいる場面を見ているので、俺のことを気にかけてくれているとは思っていた。 


 こんな感じで、考え事をしているうちにすぐ近くまで馬車が来ていたことに気がつかなかった。

 

「何者だ? ここで何をしておる??」 

 御者が声をかけてきた。明らかに門の辺りを馬でウロウロしているのを見て、不審に思っている風であった。正常な判断で何よりだ。

 

「ここはスチュアート侯爵様の屋敷である。用が無ければ即刻立ち去れ!」

 

「いえ、あの実はですね~」

 何と言ったものか迷っていると、馬車の中から声がかかり一人の少年が出てきた。


「ゼル、何があったんだ??」

 俺の視界に入ってきたのは、銀髪をなびかせながら美少年が出てきた。そうそれは…


「ジョージか?」

「…兄上??」

 弟だった。兄弟は感動再会を果たしたのだ。








 いや、嘘です。

 全然感動の展開ではありませんでした。


 駆け寄って、抱きつこうとしたら思いっきり魔法を放たれた。目の前を20個はあろうかという数の火の玉だ。光具合に結構魔力も込められている。

 俺は攻撃される前に叫んだ。


「ジョージ! 俺だ。クオンセルだ!! 攻撃なんて止めてくれ!!!」

 でもジョージは止めてくれない。


「うるさい、兄上はおとなしくこれでも食らえ!!!」

 言いながら、火の玉を操作して俺へと放ってくる。


 俺の後ろは屋敷があるので、避けたり外させたり出来ない。俺は慌てて地面に手をやり土の壁を作り出す。魔力領域よりも大きくは作れないので、出来るだけ厚くして魔力を込めまくった。


「なっ? 魔法だって!??」

 俺が魔法を使ったのが意外だったらしく、一瞬戸惑ったがジョージはすぐに火の玉の弾幕を放ってくる。

 物凄い衝撃と爆発音が続くが何とか土の壁は崩れずに保っている。

 衝撃が止んで、何とか凌げたかと思い、土の壁から顔を出すと、何とジョージは直径が1メートルはあろうかという巨大な火の玉を作り上げようとしていた。量で駄目なら質で勝負! っとでも言いたげな好戦的な笑みを浮かべている。


「そりゃ…、洒落になんないよ」

 呟きながらも思考が停止してしまいそうだ。そんな俺の視界に新たな人物が入ってきた。幾分記憶よりも老けたように見えるが、変わらない美貌を持ったマリアンだった。

 彼女はジョージへと走りよって、彼の頭を抱くように抱きしめる。すると抱きしめられたマリアンの腕から、ジョージが崩れ落ちるようにして地面へと倒れる。


 俺は事の成り行きをただ傍線と見ているしかなかったが、マリアンが精神魔法を得意としていることを思い出した。きっと鎮静作用のあるものか、眠りへと誘う魔法を使ったのだろうと推測した。ともかく事態は納まったようなので、土の壁を更地に戻す。地面がこげている部分もあるが、これに関しては直しようが無いので放置だ。

 これからどうしよう、とジョージの方へ視線を向けるとマリアンが話しかけてきた。


「クオンセル、帰省したばかりで申し訳ないんだけどジョージを運ぶのを手伝ってくれないかしら? その後、ジョージのことを説明させて…」

 俺の知っているマリアンよりもかなり気迫のない声でお願いされたので、体が痒くなるのを感じるが俺は首を縦に振りジョージを運ぶのだった。





「まずは謝らなくてはいけませんね。クオンセル、ジョージが迷惑をかけました」

「いえ、ジョージは私にとっても弟ですから。それにマリアンさんもお元気そうで何よりです」


「…きちんとした挨拶も出来るのですね。見た目どおり逞しく成長しているようで嬉しいわ。【育成道場】とはそのような教養も教授してくださるんですかね。ミランダもきっと鼻が高いでしょう…」


 【養成学校】では、戦う術しか教わっていない…。真実を告げるつもりは無いので、心の中で突っ込むだけに留めている。

 しかし紅茶を飲みながらこんなことを言い出すマリアンを、俺は訝しげな思いで見てしまう。顔には出さないように注意していたが自信が無い。それほどまでに、自分が幼少の頃の印象と違うのだ。


「それに、ミランダには使いを出してアナタが来たことを伝えに言っているわ。…だから、それまで私の話を聞いて頂戴」


 そして語られるのは俺が家を出て行ってからのことだった。

 俺が出て行ってから、屋敷の中は中々に荒れたそうだ。理由はレモニアの暴走だ。姉弟(きょうだい)に何の相談も無く、家を出て行った俺に対して姉はしばらく怒り狂ったらしい。弟想いと言えなくはないが、おそらく厳しい魔法の訓練が嫌だった彼女は、家を出て行くことが出来た俺のことを羨ましがっていたのだと俺は予想する。穿った見方かな?


 ともかく留守がちな父親はレモニアを厳しく諭すことも出来なかったようだ。そこで姉も王都に居る知人の宮廷魔法士の下で修行に出させることにしたらしい。

 こうして一先ずは屋敷は平穏を取り戻すはずだった。だがしかし、今度は弟のジョージがおかしくなってくる。レモニアが大好きだったシスコンの彼は幼かった事もあり、ある勘違いをした。レモニアは俺を追いかけて家を出て行ったと思ってしまったらしい。拗ねた彼は見事なまでの引きこもりとなり、トイレ以外には部屋から出なくなってしまったとのことだ。


 だが、家族の説得もあり数年で本来の彼に戻って行ったようだ。今では魔法の訓練をはじめ真面目に修行をして来年に成人を迎えてからは、国軍の魔法戦士団への入団試験を受けることになっていたそうだ。


「でもそれだけでは無いでしょう? 何年も前のことを今になって……、あれほどの怒りを向けてくるなんてことは信じられないですよ」

 そこまで嫌われているのだろうか? 結構仲が良かったんだと思っていたんだけどな。


「えぇ、話にはまだ続きがあるの。…レモニアは優秀すぎたのよ。3年前の成人した時から単独で宮廷魔法士としても認められてしまったのよ」

 宮廷魔術士とは魔法国家バスタリアにおいて超のつくエリートだ。それも成人したばかりの少女がなったとすると異例中の異例だろう。どうやらレモニアは天才といわれる類の人間だったんだろう。…いやマジすげーな。


「凄いですね!!! さすがレモ姉さんだ。でも優秀で、しかも国に評価されたのですから素晴らしいことではないですか?」


「勿論その通りよ。スチュアート家総出でお祝いをしたわ。でも半年ほど前から面倒なことになったのよ」

 大きなため息をつきながら、かぶりを振っ苛立たしげに言葉をつぐむ。


「馬鹿王子…。あの色々な意味で有名(・・)な、我が国の第一王子のグレシャス様が第三夫人としてレモニアを迎えたいと求婚してきたのよ」


「……はぁ??」


「だから、あの女好きで嫌われ者のグレシャス殿下にレモニアは見初められたのよ」

 二人とも無言になってしまったので、部屋には嫌な静寂に支配されてしまった。








 話題に挙がった『グラシャス・ディ・バスタリア』とはどのような人物なのかというと……。

 3人居る王子の中で、最も民衆から人気の無い(・・・・)のが彼だ。【育成道場】に篭っていた俺でさえ色々な噂を聞いた。例えば…、権力を傘に着せて侍女を手当たり次第に手篭めにした。例えば…、優秀な魔法使いを傘下に加えるために、無理難題を突きつけて強引に仲間へと引き込んだ。例えば…、気に入らない貴族の嫡子を闇討ちにして再起不能にした。

 等々。嘘か真か分からないが素行の悪さで有名だ。


 彼自身の能力としては、魔法使いとしては平均程度だ。他国であれば長男として国を統べる第一候補だが、ここは実力主義のバスタリアだ。三人の国王候補は平等に扱われていて、件の王子は個人の魔法技量では王に選ばれることはまず無い。

 しかし魔法の才能があまりは無かった彼は、決して無能では無かった。

 優秀な魔法使いをその傘下に加えているのだ。それこそ名のあるフリーの魔法使いの半分以上が彼の私設近衛団に在籍している。その不自然さに様々な噂が流れるのだが、真相は当事者以外には分からない。


 そんないわくつきの王子がレモニアに惚れて求婚しているわけが無い。

 

 正直に言えば個人的には絶対に関わりたくない人物だ。それが姉に求婚しているとは…。マリアンが頭を抱えるのが良く分かる。

 ジョージにしてみれば、大好きなレモニアが、グラシャスの目にとまる原因を作った俺は憎悪の対象になるんだろうな。馬鹿王子め! 面倒なことをしやがって…。

 そもそも俺だって、レモニアを姉として慕っているのだ。そんな黒い噂だらけの男に嫁がせるなんてことは認められない。断固拒否だ!!


 馬鹿王子を呪ってやろうか。と考えていた俺にマリアンが爆弾を放り投げてきた。


「……それにね。レモニアの帰省に合わせてグラシャス殿下も付いて来るのよ」


「えっ……と、それは何かの冗談ですか?」

 普通に考えれば求婚しているとはいえ、王子自らその相手の帰省に着いていくというのは裏があるだろう。何が狙いかわからないが、禄でもないことが起きるのは目に見えている。

 もしかしたら、行動を共にすることで外堀から埋めていこうとしているのだろうか? 


「冗談ではないわ。キシリさんからアナタが帰省することを聞いて、休みを取ったみたい。先ほど手紙が届いたんですよ」

「……それは有り難い話ですがー。ではもうこちらに向かっているのですか??」


「予定では三日後に殿下とお越しになるわ」


 そりゃぁまた突然な…。でも俺目的で帰省するってことはグラシャスと会える可能性はかなり高いな。

 何でそんなことを気にするかって? その馬鹿王子を見定めるためだよ。

 俺は俺に関わる人たちを幸せにしたいんだ。望まぬ結婚であるならば全力で阻止だ! ジョージにも手伝ってもらおう。王子を敵に回すのは危険かもしれないが、民衆の支持を受けていないし他に優秀な後継者が居るんだ。

 味方になってくれる勢力は多いだろう。いざとなればキシリも居るんだから、王家とも交渉できるんではないだろうか?


 穴だらけの推測だが、我が家に害をなすのならば対処する。これは俺の生きる矜持になんだから。



「そうですか…。ではいろい―――」

「―――クオン! 会いたかったわ~~」

 

 自分の意思を固めたので、マリアンとの話を詰めようと思っていたら乱入者に遮られてしまった。


 部屋の扉が音も無く開いたと思えば、母親であるミランダが飛び込んできた。


「母上、お久しぶりです。お元気そうで何よ―――」

「―――クオンは良い匂いがするわ~。それに背もこんなに大きくなって! あらやだ結構筋肉もついているじゃない。お母様ったらクオンに会わせてくれないから、私はもう心配で心配で何度乗り込んでやろうかと計画を練ったかしら。まぁ周りに反対されて実行できなかったけど。でもそれだけクオンに会いたかったのよ? それなのに私より先にマリアンと楽しそうにお話してるなんてずるいわ。ズルイズルイズルイ。私は傷ついたわ、許さないんだから! もう離さないわ。絶対に離さないわ」


 マリアンだけでなく、ミランダも記憶と随分ちがうことになっていた。確かに少し天然が入っている雰囲気はあったが、ここまで暴走する姿は見たこと無かった。…いや待てよ。ミランダは俺を産んだことがキッカケで体調を崩していたはずだ。無事に回復したと考えれば、これが本来の彼女であるはずだ。それに10年振りに我が子に会うのだから多少の暴走は、許容範囲であることだろう。うん。そういうことにしておこう。


「は、ははうえ。さすがそんなに沢山のことを仰られては説明の仕様がありません」


「まぁそうね。ここでは落ち着いて話せないものね! では私の部屋に行きましょう! ちょうど渡したいものもあったのよ」

 言いながら、俺を拉致して扉から出て行こうとする。


「マリアンさん。先ほどの話は後ほどジョージも含めて話しましょう!」

 返事を聞くことも出来ずに、俺は部屋を出てミランダに連行されていく。


 折角なので、母との時間を大事にしよう。 


 

ミランダは元気になったので、かなりキャラが強くみえますね。

もともとこんな感じだったんですよ。


我が道を行く可愛い母親です!

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