1-18 疾風の狼
『盗賊』
彼らは強盗・誘拐・強姦・殺人など、そりゃあもう分かりやすいくらいの犯罪者集団だ。
現代日本にいた俺にとっては、こいつらの存在は全く持って理解できない。この世界自体の法律は国それぞれではあるが、さっき挙げた行為はすべて犯罪だ。それぞれの犯罪内容によって罪は違うが、貴族相手にことを起こせばその場で殺されるの普通だ。平民相手でも死刑を免れないものも多い。
【育成道場】の皆に犯罪者にも人権があるのでは? という考えはないのかと尋ねると。何を言っているんだと笑われた。そもそも人権という概念を理解してもらえなかった。感覚が違いすぎて意味が分からないそうだ。小さい頃に犯罪人の対処を聞いた時は、そのあまりの扱いに絶対に犯罪は犯さないと心に誓ったものだ。
そもそもこの世界の法律を使って民を裁くのは、為政者だ。彼らが黒といえば黒くなる。街中での犯罪者はそうやって裁かれているので、権力が集中するのは仕方が無い。それでも街中ではルールがあって、取り締まる側が居るからどんな悪党だって、いきなり殺し殺されってのはほとんど無い。
ただし、それは街中の話で今はその外の話だ。壁に囲われた町を出れば魔物が居るので、人の生き死になんて日常茶飯事だし、人が殺人をしても目撃されなければ証拠も少なく、自供以外でその犯罪を立証することはほとんど出来ない。
あまりにも無秩序かもしれないが、それが現実だ。王都から馬で一日の距離ですら盗賊に出会うんだ。自分の身は自分で守るしかないんだ。
ちなみに盗賊と判断された場合は、殺すか身柄を拘束して犯罪奴隷として過酷な労働に従事させて使い捨てるものだ。奴隷となった場合は【限られた自由】という首輪をつけられる。借金奴隷や戦争奴隷や孤児奴隷なども例外なくこの首輪をつけられる。
この首輪は契約魔法という特殊な魔法を活用していて、奴隷に様々な強制力を働かせるものらしい。奴隷契約は教会で行われる契約魔法が基になり生み出されたものだ。本来ならば、互いの約束を違わないようにするためのもの。商売の契約や決闘の勝敗条件や勝者の権利などを保証するためのものだった。
彼ら神官や司祭たちが錬金術師と協力して作り出したものが【限られた自由】であり、奴隷は神に認められているということだ。奴隷に種族は関係がない。絶対になりたくないし、させたくも無いものだ。
一人旅を始めると決めてから、盗賊に襲われることは覚悟していた。が、それが初日とは…。運が良いとは言えないだろうが、おあつらえ向きではある。だからこそ5人の盗賊を生け捕りにしたんだ。
俺は無魔法を使って、5人の盗賊を頭だけ出した状態で埋めた。魔法が使えるので楽なもんだ。何でこんなことをするかと言えば、尋問するためだ。盗賊という人種を理解するためだ。
おそらく世界に数千、もしくは数万といるであろう彼らの同業に比べれば5人というのは、サンプルとしては少ないだろう。しかも同じ盗賊団の仲間だ。偏った意見が出るかもしれない。でも俺はこいつらを知らなくちゃいけない。そして今後は出会い頭に、殺すかどうかを判断しなくちゃいけないんだ。
色々言ってみたが、要は人を殺すのに理由を作りたいのかもしれない。殺人というものに覚悟を決めたいんだ。
「これから、お前らに質問をする。正直に答えてくれよ。嘘だと俺が感じたら罰を与える。骨を折ったり、皮をはいだりかな?」
そう言いながら、なるべく危ない笑顔になるように勤めながら5人を視線で殺せるくらいの目つきを意識する。
何人かは先ほどの戦闘で結構ダメージを追っているので、辛そうな表情の者もいる。
「何だ? 何をしゃべればいいんだ?」
おそらくリーダー格である、さっきまで俺と会話していた男が代表して話してくる。
「そうだな。まずは今まで殺した人数と、どんな人間をどうやって殺したのかを言ってくれ」
「……は? アンタは何を言っているんだ? そんなことを聞いてアンタに何の意味がある??」
そう思うだろうな。そんなこと聞く奴は盗賊からしても異常者だろう…。おまえどんな風に殺したんだよ? 教えろよー。と言っているようなものだ。自己嫌悪に泣きたくなってくる。
でも負けないもん!
「いいから聞かれたことに答えろ。『ビュッ』土の中から生きて出れるかどうかはお前ら次第だぞ??」
いいながら男の耳を手斧で切り落とす。5人は表情を固くして、語りだした。
内容はこんな感じだ。殺した人数はほとんどの者が数えてないので分からない、だった。ただ話を細かく聞くとそれぞれ10人以上は殺している。
方法は様々で、略奪の際に武器であっさり殺したり、さらって拷問したり、犯したり、弓の的にしたり……。殺さないまでも、高く売れそうな者は裏ルートで奴隷にするのだそうだ。その後はどうなったか分からないが、碌な人生を送ってないだろう…。
俺はただ無表情で聞いていた。表情に出すと、感情がとめどなく流れ出てしまいそうだった。
そんな俺を見て、盗賊たちは何を勘違いしたのか詳細に語りだした。当時のことを思い出したのか、興奮しながらさらに喋る。妻を夫の前で犯して殺しただの、魔物に生きたまま食い殺させただの嬉々として語っていた。
あぁ、やっぱりそうか…。俺は何を甘いことを考えていたのだろうか? こいつ等とは相容れない。その辺の魔物と同じだ。俺にとって害悪でしかない。
俺は一番大きな声で、興奮しながら話していた男の首を手斧で切断した。切断面から、血が噴出していただが特に何とも思わなかった。
「よし、お前は出してやる」
そして、リーダー格の男を土から出す。他の盗賊たちは、あっさりと殺されて地面に転がる仲間の首をマジマジと見て、小さく震えている。
「他のものはそのままだ。餓死するか、魔物に殺されるか、分からないがそれまで仲良く首だけ土の上に出して並んでいろ」
ぎゃあぎゃあ騒ぎながら、俺に助命を訴えているようだが俺には何と言っているのか分からないので無視する。
そして土から出した男の耳にこう囁く。
「お前等の住処に案内しろ。殺すか殺さないかはその時に考えてやる」
それから俺は、馬と盗賊を引きながら歩き出す。
しばらくすると小山が見えてきた。俺が休んでいたところから、30分程しか歩いていないので結構近くにあったようだ。
隣で耳から血を流し、絶望したような顔で並んで歩く男に質問をする。
「あそこの洞窟には、何人くらいいるんだ?」
「………教えたら、殺さないでくれるか?」
「質問をしているのは俺だ。ここで死にたいのか?」
「言う! 言うよ!! あそこには18人居る。今日は特に用事も無いから全員居るはずだ」
「トラップや捕虜とかは居るのか?」
「メンバーが居るときはトラップを解除している。捕虜とか人質になる人間は居ない」
「そうか、ではここから去れ。お前は自由だ。好きに生きればいい」
俺はそう伝えて、男の両腕に触れて魔力掌を使いへし折った。
何か騒いでいるが、放置だな。うん。
近くの茂みに馬をくくりつけて置く。
洞窟の近くに来ると、見張りが三人いて焚き火を囲んで談笑をしている。
見張りに応援を呼ばれると面倒だが、時間を掛けてもしょうがないので正面突破だ。
俺は手には何も持たずに、害意のない様子を装って彼等に近づいていく。
「止まれ。 何だお前は?」
20メートル程の距離を残して俺に気づいた見張りが声を掛けてくる。
「旅のものです。火が見えたので寄ってみたんです。良かったらお水を少し分けてくれませんか??」
白旗アピールで両手を上に挙げて語りかける。
「うるっさい。お前に分けるものなんて一つも無い。さっさと行け」
「…そうですか。では、死んでください!」
俺は手を下ろすと同時に、手斧を両手に持ち投げた。手斧によって、声も出せずに二人の見張りが倒れる。
「なっ…??」
残った一人は、何が起きたか理解できていないようだったので、そのまま身体強化を使い距離を詰めて胸に魔力掌を打ち心臓を破裂させる。
俺は死体には目もくれずに、洞窟の中を目指す。
ただ一言、誓うように言葉を口にする。
「全員、皆殺しだ」
数十分後、洞窟から断末魔の声は聞こえなくなっていた。
俺は、盗賊のお宝を漁っていた。ウェンキッシュからも盗賊が出くわしたら、拠点を見つけて宝を奪えと言われていたからだ。盗賊の宝は発見者の取り分になるので、気兼ねなくいただける。冒険者にとってもある程度の実力があれば小遣い稼ぎのようなものらしい。
盗賊はその規模にもよるが、あまり強い者はいないらしい。この世界では腕があればそれなりに暮らせるので、冒険者や傭兵でもやっていけなかった者、食うに困った農民など、ドロップアウトしたもの達が集まって盗賊行為をするものだ。だから強敵と出会う事も少ない。現に俺1人でアジトは占拠出来た。
しかし目ぼしい物はあまりなく、現金と武器が残っている程度だ。
殺す前に頭目と呼ばれていた者を尋問したが、どうやらこいつ等は出張組でここは仮住まいらしい。普段からこの辺りを縄張りにしているのでは無く、時々やってくるそうだ。さすがに王都の近くで盗賊家業を続けていれば、軍を派兵させられるだろうしな。
稼ぐのはこれからだったので、大したお宝は無いのだろう。
残念に思いながら、部屋を眺めているとふと転がっている出納に目がいった。何気なく手にとると若干ながら魔力を感じる。中には何の変哲も無い水が入っていた。
もしかしたら【魔道具】かと思ったので、振ってみたり、覗いてみたりとしてみたが特に変化は無かった。最後のあがきに魔力を込めてみると、水筒の中から水が溢れ出してきた。
後で知るのだが、これは【溢れる水筒】という魔道具で、冒険者にかなり人気のあるものらしかった。魔力を込めるだけで、水が出てくるのだ。旅に水は必需品だ。特にパーティーに水魔法の適正が無い場合は、遠出をする際は水を確保するために川沿いを進んだり、馬車などで水を運んだりするのだそうだ。
俺にとしてはこの水の問題が解決するのは非常に有り難い。
盗賊団をつぶした甲斐があったものだ。後は【魔法鞄】があれば言うことは無いんだが…。これは、空間魔法を使える錬金術師が作っているものらしい。質に差はあれど鞄の中に大量に物を入れておくことが出来るようになるらしい。食料や武具をはじめ、魔物を狩って手に入れた素材などをコンパクトに持ち運びできるわけだ。王侯貴族や商人、稼ぎの良い冒険者などが持っているらしいが、値段がべらぼうに高いらしい。金貨数枚が消えるのは覚悟するべきだとウェンキッシュにも言われた。
今更だが、この世界では金は硬貨でやり取りされている。
白金貨
100,000,000ゴル
大金貨
10,000,000ゴル
金貨
1,000,000ゴル
大銀貨
100,000ゴル
銀貨
10,000ゴル
大銅貨
1,000ゴル
銅貨
100ゴル
銭貨
10ゴル
半銭貨
1ゴル
硬貨の価値はこんな感じだ。大銅貨が1枚あれば結構豪華な食事が出来るし、銀貨1枚で普通の宿屋を二日は泊まることが出来る。
白金貨や大金貨なんてものは、一般人には一生かかっても目にすることが出来ない者が大半らしい。俺もまだ見たこと無いが…。
ちなみに、この盗賊団から徴収したのは6,083,945ゴルと結構な金額になった。
初めての盗賊退治にしてはきっちりと稼げたように思う。そして殺人を犯したにも関わらず、冷静に金勘定が出来る自分はきっちりとこの世界の住人になっているんだと今更ながら考えてしまう。
後始末として、洞窟の入り口を塞いだ。再度別の盗賊に拠点として使われないようにするためだ。
そして、洞窟から少し離れた大木まで馬と共に移動して寝る事にした。返り血やらなんやらは、さっそく【溢れる水筒】を使って洗い流した。うん、いいものを手に入れた。
襲われては堪らないので、【好都合領域】を発動させたまま眠りにつく。
そこまで遅い時間では無い様に思ったが、気づいたら意識をなくして深い眠りについていた。
主人公、初めての殺人です。あっさり片付けてしまいました。
15年も異世界にいますから、むしろ遅いかもしれないです。
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