1-17 盗賊との遭遇
俺は、キシリの【育成道場】から出るとそのまま王都の外壁沿いに馬に跨り進んでいた。
改めて旅という自由を得た俺だったが、まずはこの国を離れる上で実家に顔を出そうと思っていた。ミランダに会って成長した姿を見せたいというのが強いが、目的地へついての情報も欲しかったのだ。
厳密に言うと、旅の目的地はまだ決まっていない。自分を鍛えるのと、気の合う仲間を探すのが当面の目標なので、それが叶いそうな国や都市に行こうと思っている。要は情報収集だ。【育成道場】にいる時にいくつか見繕ってはいるが他の意見も聞きたいと思っていた。
あれこれ、考えていると王都の門の前まで着いてしまった。
別に王都に入ろうとしているわけではなかった。だが、なぜか王都から出て行くための道が混んでいたので馬が進んでくれない。
不思議に思って立ち往生している御者に尋ねてみる。
「何かあったんですか? 皆立ち往生しているみたいですが…」
「あ~、あんちゃん聞いてくれよ。この街道の先で王族の馬車と冒険者が揉めているみたいなんだよ」
「うわぁー、結構前からですか?」
「結構時間はたってる。俺も他の通行人に聞いただけだが、護衛の騎士と冒険者が決闘騒ぎを起こしているらしい」
「そりゃまた…、大きな声では言えないですが迷惑な話ですね」
「いや全く。本当に困ったものだよ」
「ハハハ、では。教えていただきありがとうございます」
「いいってことよ」
礼を言って別れると、これからのことを考える。
(この街道で待っていても、動き出したら揉め事を起こした王族の馬車の近くを通るんだよな~。関わりたくないから、迂回するか? 多少危険だけど面倒ごとに巻き込まれるよりはマシか…)
俺は考えをまとめると、街道を離れて平野を馬で駆けていくことにする。
幸いなことに魔物に襲われることも無く順調に進むことが出来た。そのまま日が落ちてきたので野営の準備をする。幸運なことに大きな岩が突き出ている場所を発見したので、壁際に薪を組んで火打ち石で火をつける。火魔法が使えれば一瞬なんだけどね。そして、馬に水と塩を舐めさせて労ってやる。ブラッシングするのも忘れない。
我ながら、野営には慣れたもんだな、と干し肉を齧りながら炎を眺める。
明日には少しペースを上げて移動して、街道に戻ろう。水や食料の補給があるからあまり離れると村を見失う可能性があるしな。
さすがに、王族の馬車は追い抜いているだろう。
しかし、街道のど真ん中で決闘を始める王族って誰なんだろう? ハッキリ言ってかなりの馬鹿じゃないか??
身分的にも冒険者から王族側に決闘を挑むのはナンセンスだ。冒険者として、王族を敵に回すことが出来るのは超一流クラスだろう。
だからきっと今回の騒ぎは王族側が何か仕掛けているんだろうなと思う。王都の出入り口付近で決闘騒ぎを起こすとか、よほど頭の回らない王族なのだろう。
そんなことを考えていると、岩場の後ろの方から足音が聞こえてきた、
(ん? 街道から外れたこんなところに人がいるのか?)
そう思いながら、足音のほうへ視線を向けると少し汚らしい格好の男女の4人組が、厭らしさを感じる笑顔で歩いてくる。
「すいません。私たちも火にあたらせて貰えませんか?」
「ええ、どうぞ。好きなだけあたってください」
身なりはそれほど悪くない。だが、話しかけてきた男以外の人相がよろしくない。とてもじゃないが、堅気には見えない。
背中からは視線と共にうっすらと殺気を感じる。弓兵でも隠してるのか?
決定だな。魔力を放出しながら【好都合領域】を展開する。
こいつらは――――――盗賊だ。
「へぇ、それじゃあクオンセルさんもあの街道の騒ぎで、こんなところを進んでいたわけですか?」
「そうなんですよ。待っていても良かったんですが、何か面倒ごとに巻き込まれるのが嫌だったもので…」
旅人に扮した盗賊と世間話をしながら、俺は常に意識を周りに向けておく。
台詞ではこんなことを言っているが、既に目の前の盗賊という面倒に遭遇しているので、笑えない…。初めて盗賊という人種? 職種?? にあったが嫌な感じをプンプン感じる。
「そのお気持ちは分かります。実は私たちは王都へ荷を運びに来たところだったんですが、途中盗賊に襲われてしまいまして…。馬車ごと置き去りにして、命からがら逃げてきたんですよ」
「そんなことがあったんですか? 命があったのは何よりですね。でもこんなに王都の近くでも盗賊は出るんですね」
「えぇ、王都近くで襲ってくるだけあって結構強いらしいですよ? それになかなか頭が良くて捕まえられないみたいですね」
「随分と自信を持った盗賊みたいですね。きっと逃げ足が速いんですよ。なんて名前の盗賊団なんです??」
俺の発言に、下っ端であろう男が睨んでくる。
ちゃんと商人を演じろよ。こんなんで殺気だって…。そろそろ来るのか?
「なんでも『疾風の狼』といって、その素早い動きと先を読んだ行動で有名みたいですよ」
「疾風ですか、やはり逃げ足が速いんでしょうね。まぁ、頭が良いとい言っても小賢しいレベルでしょうが…」
「おい、ガキ! さっきから……」
「やめろ、マヌケ」
俺の安い挑発に殺気を放っていた男が噛み付いた。しかし、俺と会話している男に諌められてしまう。
ただもう隠す気は無いようで、獰猛な笑みを浮かべて俺の方を見る。
「いやぁ、すいませんクオンセルさん。話は変わりますが、有り金やら装備品など金目のものを渡してください」
「はて、何を言っているんですか? 盗賊じゃーあるまいし」
「……お気づきでしょう? あっしらがさっき話した『疾風の狼』ですよ」
「噂の逃げてばっかりの、自分たちを賢いと思っている勘違い集団でしたっけ?? まぁそんな盗賊風情に差し上げるものなんて無いですけどね」
俺の言葉を聞いて全員が立ち上がり獲物を抜いて、俺に詰め寄ってくる。
「死ね!!!」
最初の攻撃はやはり隠れていた弓兵の一矢。
展開してした好都合領域に矢を感じて逸らす。
「ちっ、外れたか」
「構わねえ、やれ!」
そのまま長剣を袈裟がけに振るう男の一撃を、手甲でいなしてバランスを崩したところへカウンターで顎に拳を叩き込む。男はそのまま崩れるように沈み込む。
次いで長剣を突き出してきた男を半身になってかわすと同時に、伸びきった男の腕をつかみ関節とは逆の方向に、俺の背中を支点にした状態で振りぬき投げる。相手を裏返した一本背負いの形だったため、掴まれた腕は完全に折れており、男は声にならない叫びをあげて一回転して地面にキスをすることになる。
仲間二人が瞬時にやられたのを見たからか、女盗賊はその場から動かずにナイフを投擲してくる。
が、これも外れる。そして投げて、また外れる。後ろから矢も放たれてきたが、これも外れる。
「なんで当たらないのよ??」
さすがに異常に思ったようで、女は叫びながら残った男を見る。その瞬間に、俺はマントの裏に忍ばせてあった棒手裏剣を抜き男女の太ももに向けて投げる。
「ガっ!」 「キャッ!?」
命中したのを確認して、30メートルほど離れた弓兵に向かって疾走する。身体強化で脚力が跳ね上がっている俺は、苦もなくその相手に近づいて腹部に拳を打ち込み気絶させる。
「ふーっ、制圧完了。 さて、どうしたものか……」
誰に言うわけでもなく、呟きながら俺は弓兵を引きずりながら焚き火の方へと歩いて行く。
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