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1-14 対ボスザル

 ボスザルは俺が近づくのに気づくと、すぐさま手にしていた子分を俺に向かって投げてきた。

 結構なスピードだったが難なくかわす。


「グゥォォオ!」


 叫びながら、左の掌を広げて俺に上から押しつぶすように叩きつけてきた。

 これを左側に避ける俺に対して、今度は右手で俺を捕らえようと掴みかかってくる。

 それを飛びあがってかわした。


 だが、追撃はこれで終わらなかった。

 空中の俺に向かって、黄ばんだ牙が襲い掛かってきたのだ。


「ぅお、っと」


 これには俺もびっくりしてしまった。

 空中では身動きが取れない。勝利を確信したかのような笑みを浮かべて、ボスザルが噛み付いてきた。


「こいつでも食ってろ」

 俺は昼間に倒したゴブリンの棍棒を、ボスザルの口内に突っ込んでやった。そのまま棍棒を足場にして飛び上がって距離をとることに成功する。


「グ…、ガァ!」

 バリバリと口に挟まっている棍棒を勢いよく噛み砕いたその顔には、怒りが込められており俺を睨む両の目は赤らんでいた。

 俺に向かって突進してくるその瞬間に俺は手斧(トマホーク)をボスザルの胸に向かって放った。

 手斧は真っ直ぐな軌道で胸に当たる。


 しかし、予想と反して手斧はボスザルに刺さる事はなく、滑るようにはじかれてしまった。


「あり~??」

 想像外の出来事に意識をとられてしまい、俺は敵の接近が気づくのが遅れてしまった。


 ボスザルは前蹴りを繰り出してきたので、横に身体を流して捌き、もう一本の手斧で脛辺りに切りつけた。しかし、先ほどと同じように刃は肉に届かずに滑るように流れてしまう。

 刃を滑らせた毛をよく見ると、テカテカと艶があり湿っているようだった。


「…油か?」

 刃が滑る原因を推測していると、またもやボスザルの牙が襲い掛かってきた。


「息が臭ぇんだよっ!」 

 カウンターで手斧を顔面に叩き込もうと振りかぶったが、やつは頭ごと俺の目線よりも下にもぐらせてきた。

 そのまま呆気にとられていると、やつは前転して俺に背中から体をかぶせて来た。体格差から考えて下敷きになった瞬間に身動きが取れなくなると判断した俺は回転する頭のほうへ突っ込んだ。

 回転の中心であろう頭側から危機を脱出した俺は一息ついて、後ろの砂埃を眺めた。


「ガガッ!」

 土煙から2本の腕が地面を這うように伸びてきたが、俺は反応できずに捕まってしまう。

 両手で握られてしまい、満足に動けない。


「グゥオグゥオグゥオ!」

 勝利を雄たけび?を上げながら、俺を掴む力が段々と強くなっていく。

 強力なその握力は、人間をボロ屑のようにズタズタにすることが可能だろう。


「クッ、勝った気でいるのか?」

 俺は身体を締め付ける圧力に抗いながら、笑みを浮かべてボスザルを見る。

 

「……? ガァ、ギャァァァアアア!!!」

 怪訝な顔で俺を見ていたが、不意な激痛に襲われて俺を手放しながら叫び声を上げる。


「何が起きているか分からないか? 俺の魔法だよ……。お前の手に直接魔法を注入して、この中のあらゆる骨を粉々にしたんだ」

 俺は、簡単に魔法の種明かしをしながらボスザルとの距離を詰める。言葉が通じるかは分からないけど…

 ボスザルはめげることなく俺に向かって蹴りを入れてくるが、避けながら掌底をふくらはぎ辺りに叩き込む。毛や表面を覆う油を無視して、俺の手から魔力を流しだす。今度は骨ではなく、筋肉を破壊する。


「ギャアアアアアァァァ………」


 さっきとは違う痛みを感じて、立てなくなったボスザルは尻餅をついて俺を睨んでくる。


「これで逃げる事はおろか、立つ事も出来なくなったな。さて、とどめだ」

 俺は、ゆっくりと近づいて右手を奴の頭の上に置いた。攻撃が来ると分かったのだろう、怯えた表情で俺を見つめてくる 


「…じゃあな」

 そのまま魔力を体内に注入に脳をミキサーのようにかき混ぜるイメージを放つ。

 ボスザルは、そのままゆっくりと倒れた。その目や耳や鼻といった部分から血を流しながら………。


 ボスを倒した事によって、子分ザルたちは逃げ出したのだろう。

 茂みの中からウェンキッシュが声を掛けながら出てきた。


「終わったみたいだな~」


「はい、俺のほうは問題ありません。そちらはいかがでしたか?」


「ん? こっちは半分くらいやったところで、ちりじりに逃げ出して行った」


「そうですか。無駄な体力使わないで済みましたね。ところでこのヘアリーエイプってどれくらいの強さなんですか?」


「ヘアリーエイプ単体のランクはDってところだな。群れをなすと一つあがってCの上位って感じか。そのボスは変異種だろうな。具体的なランクは分からないな」


「結構ランク高いですね。ゴブリンはEでしたっけ??」


「ああ~、あれも単体だとFだよ。あんまりゴブリンが単独行動することもないだろうがな…」



 ここで言うランクとは魔物をF~Sの危険度で表したもので、冒険者ギルドの判断でランク付けは行われている。単体か群れかで危険度は変わるし、戦闘力は低くても状態異常を引き起こすものなどもいるために、ランク付けは色々な要素が含まれている。

 冒険者ギルドとは何でも屋のことで、国の影響を受けない第三者機関として、各国に支部を置いていて世界各地で存在している。冒険者は依頼があれば、どんな事でもするので支部は冒険者を出来る限りサポートしているようだ。

 元冒険者のウェンキッシュに聞いた話だ。ちなみに冒険者にもランクがあってウェンキッシュはAだったそうだ。Aになると依頼の報酬で貴族になったりする人も出てくるらしい。

 旅をしていれば、金も必要になってくるので、そのうち冒険者ギルドへ登録をしに行く予定だ。



「というか、後処理が面倒ですね。とりあえず魔石は回収するとして、このボスザルの毛皮は何かに活用できそうなので剥ぎ取るので手伝ってくれませんか?」


「毛皮は何か特殊なのか?」


「はい、皮が厚いよいうのもありますが、毛に油がたまっていて刃を通さなかったんですよ。俺の手斧でも滑ってしまいました」


「そうか、後でローブかマントでも作ってもらえばどうだ?」


「いいですね~。ちょうど旅用のマントが欲しかったんですよ!」


 そう言いながら、俺は魔法で死体を動かして上半身を起き上がらせて固定した。そして短剣を突き刺して剥ぎ取りを開始した。




 この魔法は、無魔法の応用で死体を動かないように操作している。

 俺が10年の修行で手に入れたもので、先の戦闘でも活用している。


 師匠から習った近接魔法戦闘とは、魔力を拡散できないならば大量の魔力を身体の周囲に満たして、それを操作するというものだった。そのままだが、近距離の魔法を鍛えていくというものだった。


 師匠は、自身の魔力領域ならば、水であらゆる武器をつくり再現していた。また近接戦闘中に水を槍状にして死角から串刺しにする、何てこともしていた。さらに、水をウォーターカッターのように高速で射出して、遠距離にも対応していた。

 俺については、自分の魔力領域内の空気・水・火・土などの無機物であれば操作する事が可能になった。逆に生物への干渉は難しくて植物は操作できないが死体や身体の一部ならば、手から直接魔力を注入することで、ある程度は動かす事が可能だ。


 俺の防御魔法は【好都合領域コンビニエント・エリア】と名付けられた。俺のイメージで魔力領域内の無機物に干渉して攻撃を逸らすことが出来る。よって矢や投擲物は勿論、剣や槍といった近接攻撃も影響を与える事が出来る。ただし限界もあり、質量が大きいものや魔力が通っている武器などは逸らす事が難しく自分から避ける事にしている。相手の魔力が通ったものは非常に干渉しづらいのだ。


 相手が放つ魔法に関しても同様で、あまり効果を期待できない。そういった場合の対処法は直接的に魔力を注入する事だ。俺は掌から魔力を放出する事が得意なので、対象の魔法に手をかざす事で魔法を逸らす事がなんとか可能にはなった。


 この手法を攻撃に転じたものが、敵を内部から破壊する魔法だ。生前に読んだ漫画の発頸(はっけい)にヒントを得たこれは、身体の内部に魔力を通す事で防具や体皮などを無視して、内部損傷を起こす魔法だ。前世では眉唾ものだったが、魔法が使えるこの世界では再現が可能だった。そもそも魔法が神秘だけど…。

 【魔力掌(まりょくしょう)】と、師匠に名付けられた。俺の魔法は大体が師匠に命名されたものだ。


 また遠距離攻撃に関して武器を使う事で補うようにしている。手斧がその一つだ。他にも鍛冶師のブンセンスにお願いして、持ち歩きしやすいようにいくつか作ってもらった。武器の扱いに関しても、武骨者たち(バンプキンズ)のメンバーに基礎を教わったので、あくまでそれなりに扱える。基本的には近接での体術が俺の戦闘スタイルだ。

 細かいものを言えばまだまだあるが、これが現在の俺の『力』だ。



 さぁ、早く戻って旅の準備を終わらせなくちゃな!


お読みいただきありがとうございます。


お手数でなければ、感想などいただけると幸いです。

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