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1-13 ウェンキッシュと…


 ……ここは、魔法国家バスタリアの王都から馬車で半日ほどの距離にある森の中。

 小さな池の隅に7匹のゴブリンが水を飲んでいる。その光景を俺はある少年と30メートル程離れた木陰から眺めていた。


「おおーぅ、ちょうどいい獲物が居るじゃねーか。ちょっと行ってこいよ」

「また、俺にだけ働かせるんですか??」


「そんなこと言ったってよ、今回もお前のために、ついて来させられたんだぞ。楽をさせろや」

「……それを言われると何も言い返せないですね」


「だろ? さっさと片付けて来い」

「分かりましたよ…」


 俺が指示を出すと、散歩にでも行くようにゴブリンの方へと歩き出す少年は、気負いや後悔などとは無縁の飄々とした表情だった。

 

「それと今回は、身体強化を含む魔法について一切の使用は禁止な!」

「ええぇーーー? そんな面倒なーーー??」


「うるせぇ。その代わりやり方は全部任せる」

「…なるほど」

 俺の出す条件を聞きながら、少年はニヤッと好戦的な笑みを浮かべながら、足元に合った小石を手に掴む。


「それじゃぁいっちょ、行きますか!」


 そう言うと、小石を大きく山なりに弧を描く軌道で池に向かって投げた。

 その瞬間、腰にくくりつけていた2本の手斧(トマホーク)を両手に持つと大きく振りかぶりながら投擲した。


「ギッ?」

「グゴ…」


 2本の斧は回転しながら、池からもっとも離れていた二匹のゴブリンの胸に命中する。深々と突き刺さった手斧を見ながら、小さなうめき声を上げて倒れるその音に、周りのゴブリンが反応してそちらへと振り向く。

 ゴブリンたちは仲間の死に気づく。そして手斧を投擲した直後から走り出していた敵、自分たちへと向かってきた少年へ視線を向けた。

 彼らは迎撃をしようと、さびた剣や棍棒を手にした。その時――――――




 ドボンッ!!!



 そんな池からの音にゴブリンたちが一斉に池へと視線を向ける。きっとゴブリンたちは池から新手が来たと思ったのだろう。迫り来る敵から視線を反らすなど愚かな行為だが、事実としてゴブリンは愚かな魔物だ。

 音のした方に何も居ないことを確認したゴブリンたちは、もう一度正面へと視線を向けるがそこにはもう少年の姿はなった。

 

 少年は近くに生えていた木を使い、三角跳びの要領でゴブリンの視界から消え去り集団の背後へと飛び降りた。その着地音がほとんどしないことから少年の技量がかなり高いことが窺える。

 その着地と同時に一番近くに居たゴブリンの背後へと回り、その首を勢いよく折る。

 仲間の異変に気づいた近くのゴブリンが勢いよく振り返るが、その瞬間に首だけが少年の方へと向きながら転げ落ちた。振り向きざまに少年の斬撃で首が落ちたのだ。

 少年の手には、首の骨を折ったゴブリンから奪い取った錆びた長剣が納まっていた。


 一瞬にして4匹ものゴブリンを亡き者にした少年に対して、残りの3匹のゴブリンは恐怖を感じたのか、その場を離れようと足を引いて逃走を試みた。

 少年は、一番離れていたゴブリンへ手にした長剣を突き刺すように投げた。逃げようと振り返ったゴブリンの腹からは長剣が刃を半分ほど血に濡れて生えてしまった。

 それを確認もせずに少年は、近くのゴブリンの腹に掌底を入れ、片手を持つと一本背負いの動きでゴブリンを背負うとそのまま最後の一匹へと投げつけた。


 仲間のゴブリンに圧し掛かられ、重なり合ったゴブリン2匹を少年は間髪入れずに首めがけて踵を蹴り落とす。


 ゴキッ! という音を残し、ゴブリンが全滅したことを告げる静寂が産まれた。

 


「魔法無しで随分とあっさりと片付けたな!」

 俺が教えたとはいえ、手斧の投擲は見ていて溜息が出るような流麗さを持っていた。それ以外の少年の一連の動きにも戸惑いはなく、俺に危機感を与えるようなことは一度もなかった。

 全くもって優秀なやつだと思ってしまう。

 


「ウェンキッシュさんだって、このぐらい魔法なしでも出来るでしょ?」

「そりゃ出来るだろうが、俺だと音もうるさくなるし、時間がかかっちまうだろうな」


「またまた、ご謙遜を……」

 そう言いながら、少年はゴブリンの亡骸から手斧を回収している。


「折角倒したんだ。魔石も回収しておけよ?」

「はいはい、って。それぐらいは手伝ってくださいよ…」

 言いながらゴブリンの亡骸の胸を短剣で切り裂き、中から小指の先ほどの少し光沢を持った小石を取り出した。



 これは魔石と言って、魔物の体内(主に心臓付近や脳内部)にある魔力を持った石の事を指す。その大きさや透明度や色合いは魔物によって異なり、冒険者ギルドや魔道具(マジックアイテム)屋に行って鑑定を受けると、その価値に見合った金額で買い取ってくれる。

 大きさは魔物によってまちまちで、基本的には大きな方が価値がある。それに魔石の透明度は高い方が魔力を保有する量が多いとされている。

 これらの魔石は、魔道具のエネルギー電池として活用されたり、高価なものは王侯貴族など有力者の趣向品となったりする。


「雑魚のゴブリンとはいえ、酒代くらいにはなるか」

「いや、今回のは俺が全部倒したんだから俺のですよ」


「いいじゃねーか少しくらい」

「駄目です」

 

 少年は優しく断るとテキパキと魔石を回収して、ゴブリンの遺体をひとまとめにして、火を放ち遺体を燃やす。

 その煙は森の木々を越えて、青い空へと消えていくのだった。

 俺はそんな空を見ながら、そろそろこのクオンセルという少年との別れが近づいていることを思い出し、どこかむなしい気持ちになるのだった。

 

 







     ――――――









 俺は今、ウェンキッシュと二人で森の中だ。

 今回のこれは修行の中の一つで、時々森や平原へ狩りに行くものだ。今回は特に目的の魔物がいるわけでもなく、一週間を森で過ごすのが修行の内容だ。


 このような遠征では俺が一人でも旅が出来るようにという配慮もより、冒険者だったウェンキッシュから学ぶことと路銀稼ぎが主な目的だ。

 俺はこうして野営をしながら、旅の心得とは何ぞや? とかウェンキッシュの恥ずかしい失敗談などを聞かされていた。

 

 今回の遠征も明日で最後となり、俺は育成道場に戻り準備を済ませた後に念願の旅に出る。

 路銀も十分に集まり、この10年でそれなりに強くなったと思う。振り返ると色々なことがあった。

 

 相変わらず、近接戦闘ではエスペランサには勝てない。いいところまではいくのだが、いざと言うときにリキんでしまったり、積極的に手が出せなくなったりと詰めが甘くなってしまう。ウェンキッシュに相談したところ彼女は精神魔法が使えて、戦闘中に様々な精神攻撃を行い戦闘を有利に進めているらしい…。

 チャンスに弱いのはその辺が影響しているかもしれない。いや、ただの力量不足だろう……


 キシリとの修行内容は多岐に渡り、ある時は平原まで連れて行かれ、正面からその暴川(バイオレント・リバー)と呼ばれる由縁になった広域魔法を受けさせられた。またある時は10人の弟子の魔法使いから同時に魔法で攻撃されたりと、キシリとの修行はリアルに殺されかけたことが何度もあった。


 グインには怪我をするたびにお世話になった。彼は回復魔法に関するものは勿論のこと、ポーショなども数多く収集していた。今回の遠征にもいくつか持たされているが、かなり質が良いらしい。このポーションには何度救われた事か……。


 他には、キシリの食客の一人にブンセンスという鍛冶師が居る。どこぞの王様の不興を買ってしまい祖国を追われた過去があるらしい。そんな彼とは武器談義で話が合って、色々な武器や防具のアイディアを提供させてもらった。まぁ前世の知識だが……。

 俺がゴブリンを殺すために使った手斧はブンセンスに作ってもらったものだ。今回は持ってきていないが面白い武器もいくつか作成してくれた。それに武具の簡単な補修や調整が自分でも出来るように教えてもらった。


 このように、武骨者たち(バンプキンズ)のメンバーは俺に様々な知識や技術を授けてくれた。感謝してもしきれないくらいだ。旅が終わったら、お土産なんかを持参して改めてお礼をしに行こうと思っているほどだ。




 そんなことを思いながら、湖の近く星空を見上げる。そんな野営の火の番をしていた時に、それは聞こえてきた。




――――――グゥオオ、グゥオオ、グゥオオ、グゥオオ!!!



 どこか雄たけびを連想させる泣き声が聞こえてくる。それに返答するように数多くの雄たけびが上がる。


「こりゃあ襲撃の合図かな?」

 

 そんなことを呟きながら、ウェンキッシュを起こそうとするが彼は既に戦闘の準備を始めていた。


「さっきのはサル系の魔物の咆哮だと思うぜ」

「そうなんですか。狙いは俺たちですかね??」


「その可能性は高いな」

「じゃあ返り討ちですね!」


「無論そのつもりだが、気になるのは相手の数だな」

「無駄に多いだけでは、恐れるには足らないのでは??」


「サル系統の魔物は総じて賢いやつが多くてな。結構な規模の集団で移動している。囲まれたりしたら厄介なんだよ」

 

 この世界でも、サルは頭がいいのだろうか? いや数も多いのが影響しているのか??


「じゃあここから離れますか?」

「いや、もう遅いだろう。この状況ならば下手に森の中へ逃げると俺の獲物が振り回せない」


「手伝ってくれるんですか??」

「今回は一人じゃ対応仕切れないだろうからな…。ほら来たぞ」


 そう言うと、茂みの中から3匹の毛むくじゃらで胴体の広いずんぐりとしたサルが現れた。体長は1.5メートルほどで、武器は持っていない。


「あちゃぁ、ヘアリーエイプかぁ。この辺の森じゃあんまし見かけないんだけどな」

 そういうと、巨大な両手斧を持ち3匹に肉薄する。


「こいつらは陽動だ。クオンは後方を警戒してくれ。そっちが本命だ」

 俺に指示を出しながら、ウェンキッシュは早速一匹に両手斧を叩き込む。


「「キキッ!?」」

 そのまま脳天から真っ二つになった仲間には目もくれずに、残りの2匹は距離をとって離れていく。


 やはり賢いのだろう。戦力の無駄な消耗を避けるために陽動役らしく積極的に攻撃はしてこない。


「ちっ。クオン全力でやれ! ハンデは無しだ」


 俺はその指示を聞き、すぐにある魔法を展開した。

 そして後方を睨みつけている。


 すると、大量の石の弾幕が俺めがけて飛んできた。

 同時に茂みの中から4匹のヘアリーエイプが飛び出してきた。2組に別れ俺に迫って来る。


「連携をちゃんととっているんだな…。面倒だな」


 俺は迫りくる石の弾幕を無視して、手斧を迫ってくる片方の2匹のエイプに向かって投擲して倒す。

 

 そして、俺のところへ石が雨のように降ってくる。

 だが大量の石は俺に近づくと、まるで意思を持ったように左右に割れるようにして避けていく。

 

「キキキッ??」

 その現実離れした光景に気をとられて、俺に迫ってきたもう一組のヘアリーエイプは怪訝そうな表情を作っていた。


「そんなに驚くなよ」

 そんなヘアリーエイプたちに気づかれることもなく、身体強化を活用した移動で背後に回りこんだ俺は2匹の頭を小突く。

 頭の感触に驚いたのだろう。「キッ!?」と鳴き、こちらに振り返ることなく倒れた。二匹の目や耳からは血が流れ出している。

 再度、俺に向かって大量の石が降ってくるがまたしても俺に当たる石は一つもない。


 茂みの中に隠れているヘアリーエイプは俺の理解不明な防御や攻撃にビビッているのか、追撃は無かく騒がしく鳴いている。



「相変わらず、面白い魔法だよな」 

 そう言って後ろからウェンキッシュが現れた。陽動役の3匹を始末したのだろう、返り血を浴びてニヤニヤしている。かなりの強面で斧を持ったその姿は、仕事を終えた処刑人にしかに見えない。


「師匠の教えを自分なりにアレンジしただけですよ」

「ハハハハッ! アイツの魔法をさらに進化させるなんてのは、お前くらいだろう…。孫に超えてもらうならキシリも本望だろうよ」


「いやいや、本家を超えてなんていませんよ。まぁ万能性は俺のがありますが……。というか追撃が来ませんね?」

「お前にビビッて逃げたんじゃないか??」


 そんな雑談をしていても、ヘアリーエイプは次の手を打ってこない。変に賢いから未知の魔法を使う俺を恐れているのか?



「グゥガァガァガ!」

「キ、キキ、キーー……」


「ガァーーーーー!!」


「何か揉めてるんですかね?」

「声質が違うな? 上位種か変異種でもいるのか??」

 ウェンキッシュさんがそんな事を言うからなのか、ヘアリーエイプを片手に掴み上げている5メートルは越えていそうな巨大なゴリラが出てきた。



「ぅお!? 大物だな~。この群れのボスか? 随分とでかいな」

 嬉しそうに俺のほうを見て意味ありげな笑みを向けてくる。



「……はいはい。俺がやればいいんでしょ?」

「だな。俺は後ろに潜んでる子分どもを片付けてやるよ」


 そう言いながら、彼は夜の闇に浮かぶ数多の瞳を睨みつける。


「大丈夫ですか? 随分な数のサルが居そうですが…」

「問題ないだろうよ。心配ならでかいのをさっさと片付けて、手伝ってくれよ」


「ご冗談を!」


 俺は言葉を切り上げて、ボスザルへと走り出した。

お読みいただきありがとうございます。

やっと話が進んでいきます。戦闘シーンは妄想しながら書くので楽しいです。

表現力がないのが、悲しいところですが……


お手数でなければ、ご感想などいただけると幸いです。

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