1-12 『2メートル』
これから祖母であるキシリに直接魔法の手ほどきを受けることになる。
正直に言って、楽しみだ。
魔法の修行と言うのをきちんと誰かから学ぶのは初めてなのだ。午前中のエスペランサとの修行も刺激的で為になるものだったが、魔法を使う醍醐味は魔法による遠距離攻撃だろう。
一度は魔法を使うことを諦めていた俺は絶望したものだが、ここにきて無属性の新たな可能性を見出している。前世では味わえない魔法攻撃による爽快感などは、想像するだけでニヤニヤしてしまう。
そんなことを考えながら、歩いていると道場に着いた。
まだキシリは来ていないようだが、早速試してみようと思いリングに上がった。
イメージするのは地面から生える無数の槍。リングの中央から端までを道のように、何百本もの土でできた槍で埋め尽くすのをイメージしながら魔力を地面に通していく。
ここで間違えてはいけないのが、無魔法はあくまで操作・形状変化であることだ。土を生み出すことは出来ないので、発言させる槍の周囲から土を吸い上げていくイメージだ。
よし、イメージは完璧だ。
後は魔力をリングの端まで届かせて……。
魔力をリングの端まで……。
リングの…端まで…
ん~~~~?
魔力が端まで届かないぞ??
【内省の間】では、手元の魔力コントロールに終始した訓練をしていた。今回のような範囲の広い魔法を使おうとするのは初めての経験だった。
このままでは魔法はイメージどおりに完成はしないだろうが、やれるだけ一度やって見よう。そう心に決めて【土槍】と声にして魔法を放った。
――――――
あたしは本格的にクオンを鍛えることが出来ることに一種の期待をしていた。
【内省の間】で考えられた無魔法に関しての全く新しい解釈と、それを実践することで床を形状変化させてしまうようなセンスに驚いたのは昨日のことだ。
無魔法の新しい可能性をアレコレと考えていて、ほとんど寝ていなかったが全く疲れるということは無かった。なぜならば、クオンを通して得られるものは個人レベルではなく世界の魔法の在り方を変えてしまうような出来事であるとさえいえるのだから…。
あたしは、道場へ駆け込みたくなる思いを何とか抑えながらゆっくりと、しかし確実に道場へと足を踏み入れていった。
そしてあたしは良く分からない光景を目にした。
リングの中央にひざを抱えてクオンが座っている。さらにその周りには無数の【土槍】がそびえ立っていた。しばしの間、土槍の出来栄えに少し心を奪われてしまったが、気を取り直して、この現状を生み出したであろうクオンに声を掛けることにした。
「どうした出来損ない? 何があったんだ??」
あたしの声を聞いて、ビクッと身体を震わせて顔を上げた。その顔には涙と鼻水がこびりついており、この世の終わりのような顔をしていた。
「し…、しじょうぅぅぅぉぉぉぉおおおおおーーー!!!!!」
――――――
俺にはやりたいことが上手くいかないような呪いでもかかっているのだろうか?
こんなにも魔法を使いたいのに、中々思うようにいかない。
周りを土槍に囲まれた状態で、俺がヘコんでいるところにキシリがやってきたので、そりゃあもうあらん限りの思いをぶちまけた。
「アンタの言うことは分かった。もう一度あたしの目の前でやってみろ」
そう言われたので、もう一度土槍を放つ。またしても一定距離で、魔法の発動は終わる。
「ふむ。今度は土ではなく魔力を空気に干渉させて見ろ。そんで時計回りにに可能な限りに回転させてみな。広範囲に広がるようにイメージを忘れないようにしな」
「………はい、やったことは無いですが…。やってみます」
俺はキシリが何をしたいのか、分からなかったがとりあえず言われたようにやってみる。
全方位ともなると、ちょっと時間がかかる。イメージはそのまま竜巻だ。俺を中心にこのリング上を覆うように空気を動かしていく。
「……立派な竜巻だ。さ~~てと、………なるほどな。もういいよ!!」
「はい。何か分かりましたか?」
キシリは床の跡を眺めて何か気づいたようだ、そして俺の方を見てはっきりとつげる。
「結論から言おう。アンタには遠距離系の魔法は無理だ。使えない」
「………ッ! 理由を聞いても??」
「理由は分からない。が、おそらくお前の魔力は遠くに飛ばしたり、送ったり出来ないんだろう? 出来るだけ広がるようにイメージしたにも関わらず、竜巻は大きくなることはなかった。つまりはそういうことだろう」
「……はい、感覚的にも魔力が遠くへと離れないように感じました。おそらく2メートル程が限界で、それ以上は魔力が届きません」
「そうか。アンタのように魔力を広範囲に広げられない魔法使いは居る。理由は分からないが、これはもって産まれた性質のようで、訓練では改善しない。まぁ人によっては魔力が身体から出ない者もいるみたいだ。それに比べたらまだマシじゃないか?」
「…私がそれだと?」
「そうだ。無属性に高い属性を持ち、魔力操作に長けているお前だからこそ、この現状はおかしい。その証拠にリングの表面は、お前から2メートル以上離れた部分は無傷だ」
(落ち込むなぁ~。こりゃあ戦闘でも不利になるな~)
「だが、それでも強いやつは居るもんだ。何も魔法使いってのは後方から高威力の魔法を放つだけじゃない。そういう奴に限って、一人じゃ何も出来なくなるんだよ」
「……? ではどうすれば?」
そう言うとキシリは魔力を高めて身体の周囲から水を物凄い勢いで放出し始めた。
「あたしが【暴川】なんて言われているのは、なんでだと思う? 理由は簡単だよ。広範囲の魔力のコントロールが出来ないんだ。あたしが出来るのはせいぜい1メートルだ」
そう言うと直径が1メートルほどの水の膜を生み出した。膜以外の水はリング上を流れてしまっている。
「だからあたしが得意としているのは近接魔法戦闘だ。その余波で水溜りを作ったり、敵軍に対して大量の水に方向性を持たせて放出したことで水攻めをしたりしたからさ。当然コントロールが満足に出来ないから味方に被害が出てしまったりとね」
肩をすくめて、俺の方を見る。
「アンタにはこれから近接魔法戦闘を叩き込んでやるよ。光栄に思いな! アンタは戦い方においてもあたしの孫だよ」




