1-11 武骨者たち
目を覚ますと周りにはエスペランサと棍棒を振るっていたヌリシバと呼ばれていた何かの亜人。それに強面のオヤジと初老の男性がこちらを伺っている。
俺と目が合うとエスペランサが声をかけてきた。
「あー、起きたー? じゃあ続きをやろうかー??」
「いやいや、エスよ。他に言うことがあるだろうが」
「んー? あっ、クオン君だめだよ落とし穴なんてのは! この修行は速く動けるようになるためのモノなんだからー。 あーいったズルは良くないよー」
「…いや、違うだろ。まずは意識がはっきりしてるか? とか怪我は無いか? とかの確認だろうよ…」
「えー。クオン君大丈夫だよねー?」
「あ、はい」
言いながら立ち上がり、身体をまさぐりながら怪我の有無を確認してみた。
「大丈夫みたいです。頭にたんこぶが出来てますが、修行に影響は出ないと思います」
「じゃー続きしよー」
エスペランサは俺の腕を引いてリングへと連れて行こうとする。
だが、そんな彼女を巨体の亜人が止める。
「……たんこぶ痛そう」
「ああ、待て待て! ヌリシバの言うとおりだ。休憩も含めてたんこぶも治しちまえよ。…グインの爺さん」
「良かろう。坊主よ、こちらに頭をだしな」
俺は言われたとおりに、初老の男性へ自分の頭をさし出した。
「ほーぅ、これはこれは…。何ともまぁ~。こっちはどうじゃ…」
とかぶつぶつ言いながら頭をこねくり回され、耳の中に指を入れられ、鼻の穴を覗きこまれ、髪の毛を数本抜かれた。
「っいた」
「おお~、悪かったな。ここまで黒い髪は珍しかったものでな。さ、治療は終わったぞ」
「えっ? 痛くない……」
初老の男性の言うとおり、俺のたんこぶは痛みとともに綺麗に無くなっていた。
「回復魔法……」
「おお、そうだ。このグインの爺さんは回復魔法のスペシャリストだ。ま、普通とは方向性がズレてるみたいであんまり敬われてないけどな」
「ワシは回復魔法の新たな進化を模索しているだけじゃ。お前みたいな斧馬鹿には言われたくないわ」
「そーだよー、グインの魔法は凄いんだよー?」
「そんなんは俺だって知ってるよ! 俺が言っているのは性格の方だ」
「そんなことを言っておるが、お主だって昨夜は冒険者を相手に暴れてたって聞いたぞい??」
ニヤっと不敵な笑みを浮かべながら、グインと呼ばれた男は反撃に出たようだ。
「あー、また何かやったのー? キシリ師匠に言いつけるぞー」
「待てエス。それは勘弁してくれよ」
「……暴力は良くないと思う」
「ヌリシバ、お前までそんなこと言うのかよ」
「まったく、お主のような男がいるからワシ等は武骨者たちなんて呼ばれるんじゃ」
「バンプキンズ? なんですかそれは?」
俺を取り囲むようにして楽しく会話しているのを、ただ茫然と眺めていた俺は聞きなれない単語に思わず反応してしまった。
「ん? なんじゃ坊主は知らんのか??」
「エスよ~。お前は何の説明もしていないのか?」
「えー、そんなことは必要ないんじゃないの? 強くなれればいいんだよー」
「いや、いくらなんでも最低限のことは教えろよ!」
「……僕も教えた方がいいと思う」
「ヌリシバまでそんなことを言うのー? お姉さんが悪いみたいじゃないですかー」
「エスペランサよ。お主が悪いぞ? …さて坊主よバンプキンズとはワシ等のことじゃよ。この【育成道場】で暮らす者たちの総称じゃ」
「あなたたちのこと?」
俺の問いに今度は、俺を気遣ってくれていた斧馬鹿と呼ばれる男が答えた。
「そうさ、キシリの下に集った俺達のことを、畏怖を込めて周りの人間は【武骨者たち】と呼んでいるんだぜ?」
「武骨者というのは、正直言ってワシは遠慮したいがね」
そう言いながらグイン老はうんざりした様子で、呟いている。
「では、皆さんは師匠のお弟子さんなんですか?」
「ん? 表向きはここに住んでいる者は全員が弟子という立場になるが、ワシやそこの斧馬鹿はちょっと違うの~」
「俺はキシリの昔の連れだよ。キシリが弟子をとるなんてらしくねーことをしてるから、手伝ってんだよ」
「でもー、そのせいで誰かさんを真似てー、喧嘩っ早い弟子も増えてきて困るのー」
「ぐっ、それは俺のせいじゃねーだろ」
「いやいや、弟子というのは上の者を真似るのが筋じゃ。ワシもお主のせいじゃと思う」
「……僕もそう思う」
「ヌリシバー、お前までそんなこと言うなよ~」
なんだか、知らないうちにまたコントが始まってしまったようだ。
その後、エスペランサとの鬼ごっこは俺の惨敗で終わった。時間はすぐにお昼となり、そのまま先ほどのメンバーで昼食を共にした。
そこで、自己紹介やここについてのことを簡単に教えてもらった。
ここについて初めて聞くものばかりで、聞いていて驚きの連続だった。
キシリが運営しているこの修練場は【育成道場】と言って、それぞれの方法で武を極めようとする者、魔法の真理を探求する者、知識欲の塊のような者たちなどがつどうスペシャリスト集団だそうだ。
中には、とある国からの亡命者や、変人過ぎて業界から異端呼ばわりされている者などもいるらしい。
また、在籍している者たちは高い戦闘力を有しているものの、貴族の言うことを聞かなかったりするらしい。また冒険者のように依頼を貰っても好きなものしか受けないので【武骨者たち】と呼ばれているそうだ。
純粋なキシリの弟子は10数人のみで、後はキシリの食客としてだったり、軍に居たときの部下だったり、他に居場所の無い変人だったりする。
弟子が少ない理由は単純で、入門試験が難しく突破できてもキシリとの面接で、そのほとんどが落第するからだそうだ。それでも一芸に秀でたりするものは、食客扱いの友人たちに預けることもあるらしい。
俺は、ただキシリが開いた後進育成機関かと思っていたのだが、実際のところは怪しい人物の巣窟だったのだ。
そんな基本的なことを、俺に教える役目だったエスペランサはキシリの4人しかいない高弟の一人だそうだ。
近接での戦闘力に関しては、一般兵士500人分と言われているようだ。【幻影拳】なんていう異名も持っているとのことだ。
ヌリシバは、鼠の亜人で近隣の同種の集落で生まれたが、奴隷として売られていたらしい。原因はその異常な体躯だ。鼠の亜人はそのほとんどが成人しても身長は150センチを超えることは無いそうだ。
周りと違うということで、奴隷になり戦争にかり出された先で、隊が全滅したところをキシリに拾われたそうだ。無口だが、心根が優しく俺を気遣ってくれているのが態度で感じられる。
斧馬鹿と呼ばれていたのは、ウェンキッシュという強面だ。
彼は冒険者だったり、傭兵だったり、用心棒だったり、と色んなことしてきたそうだが、どれも暴力的な匂いがするのは否めない。顔の割には子供に優しいらしく、孤児院へ多額の寄付をしている。そう言えば気絶した俺のことも一番心配してくれていた。
斧が大好きで、得物は斧しか使わないらしい。【斧人】という異名がつくほど斧を愛しているらしい。
俺を治療してくれた初老の爺さんはグイン・ゼーメンといって亡国の貴族だったそうだ。祖国が大量の魔物により滅亡した際に傷ついた多くの民を救うために魔法を酷使した。しかし、その時に回復魔法の新たな一面に気付いてしまい、今もその研究を続けている。
同業者からは、その研究心と自分を省みずに民を救った精神を畏怖して【回復狂】という異名で呼ばれるようになった。
俺は粗方の話を聞き終えて、午後の修行のためにまた道場へと足を向けるのだった。
お読みいただき、ありがとうございます。
登場人物が一気に増えました!異名とか考えるの大変ですけど面白いw
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