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転職したーいって叫んだら、異世界の傾国の王になった件  作者: MOKO773
第一章 王の国へ

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9. 王、逃げる

「私は、次期王妃候補を探す旅に出る」


新体制発足後、国庫が潤い民衆の不満が落ち着いた頃、王は次の課題に取り組む。


世継ぎ問題。


政務を新しい大臣達と側近に任せて、王は「旅に出る」と宣言する。


王は白いシャツに簡素なスラックスの姿で、家臣の待つ謁見の間に現れた。


(白シャツに白い肌、金髪。謁見の間の上から注ぐ日の光で、キラキラ度が増し増し。眼福)

王付き女官セラフィーナが、柱の陰で拝む。


減築の済んだこぢんまりとした王城の謁見の間に、側近や各大臣が集まっている。

転生自覚初日の謁見の間のようなきらびやかさはなく、最低限のしつらえ。

家臣たちの目には、国を良くしようという意気込みが宿り、王に期待を寄せる。

空間は質素だが、謁見の間の空気は清々しく心地いい。


「お任せください。陛下」

すっかり側近が板についたサクラが、敬礼しながら王に言う。なかなか前職での騎士の癖が抜けない。


「おーほほほほ、お任せなさい!」

外務大臣である紅いビロードワンピース姿の悪役令嬢風少女が、バサっと馬鹿でかい黒扇子を開く。


おどおどした文系女子の教育文化大臣が、首がもげそうな勢いで、こくこくと首を縦にふる。

彼女は、控えめな元女官とは思えないブルドーザー的勢いで教育改革を実行中である。


財務大臣である定食屋の元女将さんが、王に近づく。

「こっちのことは安心して、奥さんを見つけておいで!」

ぽんっと王の肩をたたく。


実は、王は王妃候補を見つけるつもりはない。優秀な人材を王か女王にすればいいと考えている。世襲制は辞めるつもりだ。

王妃候補探しは表向きで、真の目的は次期王または次期女王候補探しである。

毎日届く釣書と不本意な噂から逃げるため、王城から今すぐにでも離れたい。


(なんなら、王政もやめてもいい)


転生前が女性なので、男性である今、女性と結婚する気になれない。女性を恋愛対象として、いまはまだ見れない。


(そのうち、自分に好きな人は現れるのだろうか)


いつか結婚して子供ができても、後継にするつもりはない。自分の子供には選択肢のある人生を送って欲しい。


(確かに、転職したーい、と真っ暗なひとりぼっちの会社で叫んだ。叫んだが、次の職が〈国が傾きかけた王〉だとは・・・・・・なんとか生きのびることができて良かった)


さて、どこに行こうか。

自国内の旅もいいが、隣国にも行きたい。せっかく転生して違う人生を歩んでいるのだから、色々な体験をしたい。


 * * *


旅宣言の直後、王は逃げるように王城を出立した。

活気のある城下町をくだり、街を散策しながら今日の宿を探す。

王城と城下町を囲う要塞内で数日過ごす予定である。


(本屋で情報収集したいなーー。さっきから気になる視線が・・・そろそろいいかな)


王城を出た時から、尾行されている。とても下手な尾行だ。

振り返ると、さっと建物の柱に隠れる。濃紺のスカートが柱の両脇からはみ出ている。


王は柱に近づく。柱をひょいと覗く。


「何か用か?セラフィーナ女官」


王付き女官のセラフィーナがもの凄く驚き、固まっている。王が気配を消して近づいたので、すぐ目の前にいるとは思わなかったらしい。


「お共させて下さい!!」


スカートを握りしめて、目をぎゅっと閉じて嘆願する。


「駄目だ」


王は気軽な一人旅をしたい。


「私、強いんです。家事もできます。野営も大丈夫です」


野営なんて考えていない。ふかふかの布団で寝たい。


「女性を伴う旅は危険だ」


それっぽい理由で断る。単に面倒なだけなので、理由は何でもいい。


「私、魔法を使えます」


ぎゅっと閉じていた目を開けて、小さい声でセラフィーナが恐る恐る言う。


「王様を護ることができます。旅をしやすいように認識阻害の魔法の維持や掛け直しができます」


王はいま認識阻害の魔法を、王族お抱えの魔法使いにかけてもらっている。

なぜセラフィーナが王に気がついたのか、気になっていた。


(恐らく彼女は、王族お抱えの魔法使いを超える実力を持つ魔法使いだ)


魔法は、その魔法をかけた者より上位の魔法使い相手には効かない。


「君には私が元の姿のまま見えているのだね」

「・・・・・・はい。とてもお美しいです」


「他には?」

「転移魔法、攻撃魔法、精霊語の習得、あとは、、、なんだっけ?」

「すごいね」

「王様のお好みのお茶を淹れることができます!何から何まで、つま先から頭のてっぺんまで隅々お世話できます!!」


(あ、話がずれてきた。ちょっと怖い)


女官セラフィーナが、祈るように手を胸の前に掲げる。


(今のところ実害なし。相当の魔法の使い手ーーー)


王、考える。セラフィーナ、祈る。


「採用!」


傾国の王は魔法使いセラフィーナを旅に伴うことにした。


(さあ、旅に出よう。私は自由だ!)


西には精霊の国〈永世中立国マリン〉、南には聖女の国〈帝国〉がある。

国外に行く前に、辺境の地や小さな村などの国内を巡るのもいいが、ここは自国と異なる国を観て色々と学びたい。

東西南北、旅の行き先は選り取りみどりだ。


「逃げるが勝ち」


王は、セラフィーナに聞こえない声で呟き、今夜の宿を探すべく歩みを早めた。

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