8. 王、後宮を閉鎖する
「母上、申し訳ないが、ここからご退去いただきたい」
言い終わる前に、きめ細かい装飾が施されたガラスの花瓶が、王に向けてぶっ飛んできた。
女官セラフィーナが、「ひっ」と声を漏らす。
無色透明のガラスの花瓶は、なかなかの厚みがありそうだ。
(これは当たったら痛そうだな)
どんどん近づくガラスの塊を、王がぼんやりと眺めていると、白い手袋をした手が目の前にすっと現れた。
身体能力抜群の元騎士で側近サクラが、軽々と片手で花瓶をキャッチする。
(ナイス!それ高価だから、割れなくて良かった)
王、安堵する。
先日の王城の減築時に、オークションにかける後宮の美術品はすでに差押え済みである。国庫の黒字化に、今ある財産を活かす。
「何を言っているの!?王であるあなたの母親は私よ!」
「その通りです。母上」
「だから、、、私は王太后で・・・・・・」
「母上、このまま贅沢が続き、重税が続くと国は破綻します。破綻だけならまだしも、王政撲滅の改革が起きて私が失脚すれば、母上と私は絞首台行きです」
母、黙る。
「生きたいでしょう?母上」
母、頷く。
「私も生きたいです」
と、王。すごく悲しそうな顔を作る。
王は母の前に跪き、彼女の両手を彼の手で優しく包む。涙ぐむ母の目を正面から見つめる。
母には効かないのは分かっているが、うるうるとした顔で、後宮退去を訴える。
傍に控えていた女官セラフィーナが、王の色気にあてられてふらつく。側近サクラが、がしっとセラフィーナを抱える。
「母上の好きな薔薇が咲き乱れた離宮に、今から移って頂けますか?」
こくんと力なく母は了承する。
すっと立ち上がり、王は宣言する。
「王太后が後宮退去をご了承された。後宮を閉鎖する。各国からの姫君たちを国に丁重にお送りするように。王室から贈った装飾品を全て置いていくように申し伝えよ」
(ケチだが仕方がない)
それくらい、この国は困窮している。
王は体裁よりも実益をとる決断をする。
この後も早めに打った方がいい手は打ち、王政の立て直しを実現するために、王は奔走した。
前世での激務に耐えた忍耐力を活かし、自らの寿命を伸ばすため、王国の再建を図る。
こうして、前世が女性管理職だった傾国の王は、『悪政で国を滅ぼす傾国の王』から、『美しすぎて国が滅びそうな傾国の王』として、徐々に認知されるようになる。
気がついたら側近を始め、新任の大臣達は全員女性となり、遠目では王の周りが華やかな雰囲気に見える。
前世が女性だったので王自身は気にしていなかったが、「今の側近や大臣は王の愛人なのではないか」などと噂が立つ。
そこで王は、最後まで避けていた課題に着手することにする。
世継ぎ問題。
平和になると王に毎日のように国内外から釣書が届き、周囲からの結婚の圧力が高まる。
王はこの課題と不本意な噂から逃げるため、ある宣言をすることにした。




