6. 教育文化大臣は本好き女官
王城の廊下でぶつかった女官を、王は速攻でスカウトした。
前が見えないほどの本を抱えた女官と、足早に歩いていた王は廊下でぶつかった。
厚みのある重そうな本が、バサバサと床に散らばる。どの本も読むのに時間がかかる厚さの書物。
「も、申し訳ございませんっっ」
分厚い眼鏡をかけた女官は、わたわたと手を動かしながら慌てふためく。
黒い髪を後ろに結え、前髪はぶつかったためか乱れている。
いかにも本好きの文系女子。エリートを気取る傾向にある女官にしては珍しく、自信がなさそうな面持ち。
「これは貴女が全て読む本?」
「はい」
彼女は、おどおどと俯いて頷く。
女官服の紺色のスカートを両手で握りしめ、両肩をしぼませる。小動物のように怯え、縮こまる。
慌ててしゃがみ、落とした本を大事そうに、一冊、一冊拾う。
本のタイトルをざっと読む王。
多岐にわたる分野の名著を網羅しているのが伺える。
教育学、美術史、人類学、民俗学、経済学、法律、領地経営指南書、外交史などなど。
「興味深いね」
(広い視野と知識を持ち、勉強熱心で、かつ好奇心がある。何よりもおごらない謙虚な態度が好ましい)
王は床に屈み膝をつく。
本を丁寧に拾い集める彼女に目線を合わせる。
王の視線を感じ、女官は本を拾う手を止める。
「今の教育制度について、どう思う?」
本好き女官が手を止めて、王の顔を見る。質問の意図が掴めず、困惑した表情である。
「あ、あの、、、」
何かを答えなければと、彼女が口を鯉のようにぱくぱくさせる。
「今は私しかいないから。忌憚のない意見を聞かせてほしい」
得意の笑顔で、女官に話しかける。99.9%はこの笑顔で、老若男女問わず誰でも口を割る。父と母には通じなかったが。
「僭越ながら、、、」
「うん?」
相手を緊張させないように、にこやかに王は耳を傾ける。
「平民と女子の教育の機会を増やすべきです。また、国民の識字率を上げるため、公立学校の建設と義務教育の法の整備を早急に実施。高等学校までを無償化。勉学に意欲のある学生に学ぶ機会を与えるため、無利子の奨学金機構の創設。それから、、、」
いきなり早口で語り出した女官に驚く王。
「待って待って。ありがとう。期待以上の回答だった。採用決定!」
「?」
何にだろうと、本好き女官の顔に、はてなが浮かぶ。
「ああ、ごめんごめん。教育文化大臣に採用。明日から宜しく。王城の図書館の君の上司には言っておくよ」
王は落ちた本をきれいに自ら積み重ねた後、離れて控えていた護衛騎士の一人を呼び、彼女の本を代わりに運ぶように指示した。
本好き女官は、自身に起きた異動について、翌朝まで理解が追いつかなかった。




