4. 財務大臣は街の女将さん
「いらっしゃい。いつもの生姜焼き定食でいいかい?」
恰幅のいい肝っ玉母さんみたいな女将さんが、王に気さくに話しかける。
「2つください」
王も女将さんに笑顔で答える。
悪政で殺伐とした街の中でも、この定食屋だけは明るく温かい雰囲気。
王は市場の行きつけの定食屋に、今日はお忍びで来ている。転生を自覚した後でも、過去の記憶を体が覚えており、街を視察中に無意識にふらりと入ってしまった。
王族お抱えの魔法使いに金髪を茶色に変えてもらったので、誰も王に気が付かない。
(ちょうど良いタイミングで来ることができた。財務大臣候補と話そう)
それほど広くないこぢんまりとした定食屋は、昼どきを過ぎても満席で賑わう。
王は窓際の4人席に、側近のサクラと向かい合って座る。注文からそれほど経たずに、食欲をそそる生姜焼き定食が運ばれてきた。
「おばちゃーん、なんか今日、魚定食、いつもより高くない?」
作業着姿の労働者の声が店内に響く。
「ごめんね。うちは時価だから、定食料金が変動するんだよ」
そうかそうかと納得して、皆、各々の定食を食べる。
「あとね、今年は小麦が不作だから、パスタやパンがこれから値上がりするよ。米は暴落したけど、またきっと秋には戻るね」
(さすが女将さん、市場の動向は何でも把握している)
王は、お上品に生姜焼き定食を食べながら、感心する。
口数の少ない側近のサクラは、さすが元騎士だけあって、食べっぷりがいい。無言でもりもりと、肉と野菜をバランス良く食べ進める。
お代わり自由である二杯目の大盛りご飯を、女将さんがサクラに持ってくる。
王が女将さんへ話しかける。
「女将さん、副業興味ない?」
「副業かい?そろそろこの定食屋も息子夫婦に引き継ぐからねえ」
女将さん、脚をさする。膝が痛いらしい。
「引退後は、何かするの?」
「なーんにも。口と頭だけは元気だから、何かやりたいけれどね」
ちゃめっ気たっぷりに笑う女将さんは、街でも人望が厚く、何より現場を分かっている。
庶民の感覚を持った財務大臣が欲しい。貴族ではなく、平民から採用したい。
「おい兄ちゃん、女将さんは優秀だし人気者だから、雇うなら高いぞお」
「そうだ、そうだ」
職人のおじさん達が、王を揶揄う。
王、考える。どうしたら、女将さんが財務大臣を引き受けてくれるか。
回りくどく言っても仕方がないと思い、食堂の女将さんの目を真っ直ぐ捉えて丁寧に言う。
「女将さん、財務大臣をぜひやって頂けないでしょうか。給料は言い値で」
定食屋が静まり返る。次の瞬間、どっと笑いが起こる。
「兄ちゃん、冗談のスケールが大きすぎるよーー」
「そうだ。そうだ」
「財務大臣になれだなんて、王様以外、言っちゃいけないよーはははは」
(ここに居るんだが。王が)
側近のサクラが、水々しいシャキッとした線切りキャベツを、むしゃむしゃ食べながら、心の中で思う。
食べ続けながら、目だけで王と女将さんを交互に見る。
にこやかだった女将さんだけが、真剣な顔で考えている。
女将さん、お忍びが王だと分かっていたようだ。
「できるか分からないけれど、やってみようかね」
白いエプロンを巻いた腰に手を当てて、胸を張る女将さん。
腐敗した王政の立て直しと、破綻した財政、重税により頂点に達しつつある民の不満への対応が急務である。
さて、次は次期外務大臣のスカウトのため、アフタヌーンティーの茶会を開こう。




