3 .王、側近をスカウトする
本日付けで引退する女性騎士サクラは、前回の遠征時の怪我が治らず、左足を引きずっている。
休職期間切れの解雇。次の職のアテはなし。婚期を逃したため、実家に帰るつもりはない。
とぼとぼと途方もなく王城の無駄に長い廊下を歩いていると、王付きの女官から、王の執務室に至急来るようにとサクラは言われた。特に他に予定もないので、そのまま女官について行く。
王の執務室には、白いシャツに簡素なスラックスの出立の王が待っていた。
ごてごての装飾の服装しか見たことがなかったが、今日の格好は王の気品が引き立つ。
第二ボタンまで開けた白いシャツからは、透き通った白い肌と鎖骨が見える。いつも後ろにひっつめている金髪は、今日は無造作におろされ、動くたびに左右にサラサラと揺れる。整った形の二重の目は、憂いを帯びている。
サクラを迎えに来た女官セラフィーナは、王に熱い視線を送る。
「セラフィーナ、お茶を用意してもらえる?」
本来なら言わずとも動く女官が、うっとりとした顔で惚けている。
「セラフィーナ?」
王の呼びかけに反応しない女官セラフィーナに近寄り、王が彼女の顔を覗き込む。身を屈めてセラフィーナの顔を近距離で見る。年若い王の美肌と万人を瞬殺する端正な顔立ちが、セラフィーナに急接近する。
セラフィーナの鼻がすんすんと動く。ほんのり王からオレンジのフローラル系のいい香りがする。すんすんすん、すん。甘いけれど透明感のあるずっと嗅いでいたい香。
「大丈夫?」
王が心配そうにせラフィーナの目を見つめる。
セラフィーナ、『はうっ』と言い、口を押さえる。鼻血がつーっと垂れる。
我に返った女官は、鼻を抑えながら給仕をすべく部屋を出た。
(この王、無駄に色気をばら撒いている)
元騎士サクラは思う。
「側近にならないか?」
いま目の前にいる王は、狂ったのか?
目をまんまるく開くサクラは、驚愕と喜びの目で王を見る。
「もう一度言う。私の側近にならないか?」
「は、はい。ええと、じゃない。ええと」
「混乱させてしまい、申し訳ない。合理的に忖度なく動く側近の確保が急務でね。よければ…」
「もちろん!喜んで。謹んでお受け致します」
サクラは毛足の長いもふもふのカーペットに突っ伏して土下座した。
「そこまで、しなくても。快諾してくれて、良かった。さあ、立って」
王はサクラの手を支えて、ゆっくりと立たせる。王の執務室のソファに促す。
「で、いつからこちらの仕事をできそう?」
「今からでもっ」
ああ、驚きすぎて声が上擦る。サクラ、慌てる。
「落ち着いて。今日は休んで、明日の午後からここに来て」
「はい、陛下!」
サクラ、敬礼する。
「明日から敬礼はしなくていいから」
無職が一転、明日からの職を得たサクラは、王城の廊下を軽やかな足取りで帰った。
王は今の側近に、一見栄転に見えるポジションを用意し、即日異動させた。
よし、次は大臣。
財務大臣候補を探しに、お忍びで市場に行こう。




