↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
女医乃深雪の記録ー快楽の追及ー日常侵食編  作者: 女医乃深雪


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

96/147

第93話 排除された病名

一夜明け、篠原美沙子はいつもの冷静な委員長としてデスクに向かっていた。  昨晩の取り乱した姿は、もうどこにもない。  完璧なメイク、乱れのない白衣。決裁書類を捌く手つきもスムーズだ。

 ただ、時折。


 ――ズキン。

 不意に、脳の奥を小さな棘で刺されたような感覚が走る。  思考が一瞬だけ途切れ、下腹部に重たい違和感が過る。  だが、それは数秒で消える。


(……また、今の)


 篠原はペンを止め、眉間を揉んだ。  常にではない。仕事に集中していれば忘れられる程度だ。  けれど、ふとした拍子に――例えばエアコンの風がうなじに触れたり、遠くで金属音がしたりすると、その「ノイズ」は警告音のように明滅する。

(更年期……にしては早いわね。自律神経の乱れかしら)

 昨夜の失態も、この体調不良が原因だと思えば辻褄が合う。  原因さえ分かれば、薬で散らせる。  篠原はあくまで事務的な判断として、内科の受診を決めた。

     ***


「――検査結果ですが、委員長」


 内科部長の佐伯は、モニターの数値を指し示しながら、首をかしげた。

「……何も、出ませんね」 「何も? 炎症反応は? ホルモンバランスの乱れは?」 「ええ。すべて基準値のど真ん中です。甲状腺、血糖値、女性ホルモンの値に至るまで、驚くほど安定しています」

 篠原は、モニターに並ぶ「正常」の文字を見つめた。  そこには、彼女が期待した「病名」の居場所はなかった。

「むしろ、以前の検診時より血流や代謝は良いくらいです。……正直、内科的なアプローチでは、治療の必要がありません」


 佐伯の言葉は、医学的には最高の診断だ。  だが、篠原にとっては、逃げ道を塞がれる宣告に等しかった。


「……そう。なら、いいの」


 篠原は短く礼を言い、診察室を後にした。  廊下を歩く。  コツ、コツ、とヒールの音が響く。


 ――ズキン。


 また、脳が疼いた。  数値は正常。体は健康的。  だとしたら、この時折走る「疼き」は、身体の故障ではない。  彼女の脳が、正常な機能として**「あの刺激(多点センサー)」を必要栄養素として要求し始めた**――ただそれだけの生理現象だということになる。


(病気じゃないなら……私は、何なのよ)


 篠原は小さく息を吐き、その違和感を無理やり飲み込むと、再び無表情の仮面を被って歩き出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。