第7話 複合反応
研究室の前に立ち、久慈真理子は足を止めた。扉の向こうから漂う消毒液と機械油の匂いが、前回の記憶を呼び起こす。
――乳頭に装着された吸着ユニット。
冷たい感触と、不意に走った震え。
「診察だ」と自分に言い聞かせたけれど、心拍の乱れは誤魔化せなかった。
ほんの一瞬、背を向けたい衝動に駆られる。
けれど――深雪だからこそ、と自分に言い聞かせて、扉に手をかける。
小さく息を吐き、意を決して押し開けると、そこに広がっていたのは前回とは明らかに異なる光景だった。
机の上には見慣れた吸着ユニットに加え、蠕動を模した細長いプローブ。
さらに培養槽から伸びた管が、ぬらりと光を反射している。
「……そんなところまで器具を入れるなんて、本当に診察の一環だと?」
思わず声が漏れる。
深雪は微笑を浮かべ、淡々と答えた。
「否、実は今回は膣内のデータが欲しいの。
乳頭部と膣内を同時に測れば、神経回路の相関が見えてくるはずよ」
久慈は息を詰める。
「診察……の範疇を超えている」
そう感じながらも、抗う言葉は声にならなかった。
やがて吸着ユニットが乳頭を包み込み、蠕動型プローブが膣内へと滑り込む。
冷たい感触と湿った音が、研究室の静けさを破った。
――観察記録。
膣壁全体に応答あり。特に前壁に局所的な興奮反応を確認。
粘性上昇、呼吸数増加。複合刺激による閾値低下を観察。
「体は正直ね、主任医師。
あなたがどんなに否定しても――このデータは嘘をつかない」




