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女医乃深雪の記録ー快楽の追及ー日常侵食編  作者: 女医乃深雪


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第83話 不可逆の深度

 研究室の空気は、張り詰めた静寂に支配されていた。

 深雪は、篠原が発した「続きをなさい」という言葉を、単なるデータ提供の承諾書として受理した。そこには一切の私情を挟まず、ただ機械的にコンソールへと指を滑らせる。

「……了解しました。計測を再開します。出力を一目盛り、上昇」

 カチリ、と硬質な音が響く。

 その瞬間、80%の地点で燻っていたモニター上の赤いラインが、再び垂直に近い角度で跳ね上がり、瞬く間に「100%」の境界線へと回帰した。

「っ、あ……ああぁっ!!」

 篠原の肉体が、まるで巨大な質量に押し潰されたかのようにステンレスの台に叩きつけられ、そして激しく反り返った。パッチから脊髄へと流し込まれる高密度の信号。それは先ほどまでの「飢餓感」を瞬時に「過飽和」へと塗り替え、彼女の脳内を暴力的なまでの熱量で満たしていく。

 深雪は、その凄まじい反応を横目に、モニターに映し出される数値の「動き」を凝視していた。

(……やはり、早い)

 深雪の瞳の奥で、冷徹な計算が火花を散らす。出力を戻しただけだというのに、前回の記録を明らかに上回るスピードでパラメーターが天井へと「貼り付いて」いた。まるで篠原の脳そのものがこの刺激を待ちわび、信号を自ら増幅して迎え入れているかのような、異常な吸着性。

「……委員長、聞こえますか。100%への回帰を確認しました。ですが、バイタルの上昇速度が予測値を15%以上上回っています。……定着確認の段階を超え、あなたの報酬系はすでに独自の加速フェーズに入っているようです」

 深雪の宣告は、篠原にとって出口のない迷宮への招待状だった。

 深雪は「異常な反応スピード」という違和感を胸に、手元に引き寄せた銀色のトレイから医療用のカテーテルを取り出した。

「……追加項目、尿道圧および膀胱壁の収縮圧測定を開始します。100%以上の領域における自律神経の混線、および排泄系の挙動を記録するためです」

 深雪は淡々と告げると、篠原の返を待たずに処置を開始した。100%の衝撃で痙攣を続ける篠原の、最も秘められた入り口へと、無機質な異物が宛てがわれる。

「……っ、ぁ、……は、ぁ……っ!? ……あ、……ぁ、……っ、あぁああぁ……」

 喉の奥から漏れるのは、かつての厳格な委員長としての面影をかき消す、重く濁った喘鳴だった。摩擦や圧迫ですら、パッチ(AS-09)を介して歪んだ報酬信号へと「翻訳」されていく。

「……留置完了。固定バルーンを拡張します」

「……ぐ、ぅ、……あ、……ぅ、……は、あぁ、……っ」

 内側から「栓」をされるような鈍い圧迫感。深雪はモニターに視線を戻す。新しく追加された尿道圧のグラフが、篠原の呼吸と同期するように、激しく波打ち始めていた。

 カテーテルのバルーンが膨らみ、粘膜を内側から圧迫した、その瞬間だった。深雪はコンソールに触れていない。だというのに、赤い波形が限界の境界線を自ら食い破るように突き抜けた。

「……110%……?」

 深雪の口から、困惑を含んだ呟きが漏れる。本来なら「苦痛」であるはずの刺激を、篠原の脳がAS-09の信号と瞬時に「混線」させ、強烈な報酬として再定義してしまったことを示していた。

(……拒絶していない。……むしろ、歓迎している)

 深雪は、未知の検体に対する冷徹な関心を瞳に宿らせた。

「……面白い。あなたの脳は、どこまで自律的に『増幅』を続けるつもりですか」

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