第72話 設計者の優先順位
深夜、深雪はモニターに映し出された三つの「侵食プラン」を、冷徹な脳外科医の目で精査していた。
プランA:脊椎埋没型チップ
脊椎の深部、神経束を直接抱き込むようにチップを留置する。
プランB:神経近傍穿刺ワイヤ
太い穿刺針を用い、特定の神経に沿って極細ワイヤを皮下へ通す。
プランC:マイクロニードル・パッチ
角質層を突破する微細な針による、治験時のみの簡易型。
「……流石にAとBは、現段階では無理ね」
深雪は、外科的な切開や穿刺を伴うプランAとBの図面を閉じた。
それは慈悲ではなく、合理的な判断だ。いくら弱みを握っているとはいえ、今の篠原に「簡易手術」を強行すれば、彼女の精神が防衛本能で完全に閉ざされるリスクがある。検体(篠原)を壊さず、自ら進んで檻に入らせるための「合意」が必要なのだ。
深雪の目的は、自分には欠落している「G感覚」や「潮吹き」という未知の生理現象を、一滴残らず数値化すること。かつて自らを検体にした際、冷めた心拍音しか得られなかった深雪にとって、篠原は自分の欠落を埋めてくれる「最高級の禁じられた素材」に他ならない。
深雪は、プランCの設計データを開く。
今回は薬剤は使用しない。その代わり、パッチ裏面に並ぶ目に見えないほどの微細な針が、篠原のうなじの神経パルスを物理的に補足し、増幅する機能を付加した。
「前回の治験で、絶頂の直前に放置(寸止め)されたままの彼女の身体なら、薬剤に頼らずとも、この増幅作用だけで十分すぎる反応を見せるはず」
モニターには、前回の治験で「放出」を禁じられ、激しく乱れた篠原の波形がリピートされている。
「自分には一生縁のないこの『爆発』というバグが、外部からの信号増幅だけで再現されるのか……。非常に興味深いわ」
深雪は満足げに設定を保存すると、静かに診察室を後にした。
「『手術はしないわ。このパッチを貼るだけ』……そう言えば、彼女は安堵して、自らうなじを晒すでしょうね。そのパッチが、彼女の理性を内側から暴走させるトリガーになるとも知らずに」




