↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
女医乃深雪の記録ー快楽の追及ー日常侵食編  作者: 女医乃深雪


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

73/146

第71話 論理の残響


医局の自室に戻り、鍵を下ろす。

篠原はデスクに崩れることはせず、深々と椅子に腰を下ろした。机の上に置いた自分の指先が、わずかに震えている。彼女はそれを反対の手で静かに抑え込み、自嘲気味に息を吐いた。

(……見事なプロトコルだわ)

冷静に振り返れば、すべては計算されていたのだと気づく。

マシーンの導入に強硬に反対していた自分に対し、深雪が持ちかけた「委員長自身のデータによる安全性の確認」。あれは懐柔などではなく、私という個体を『検体』として登録するための巧妙な誘い出しだった。

研究者としての矜持を刺激され、自ら診察台に横たわったあの日から、すべては始まったのだ。深雪は決して強要せず、常に私に「追加データの必要性」を説き、私自身の意志で一歩ずつ引き返せない深みへと足を踏み外させてきた。

(あの子は知っている。私がこのポストに、どれほど固執しているかを)

深雪は日本屈指の腕を持つ外科医だ。彼女にはこの病院に留まる理由など何もないが、自分はこの委員長という地位を守るために、彼女の離脱というリスクを何としても避けなければならない。そして今や、彼女のタブレットの中には、決して公式にはできない「私の肉体の真実」が、逃げ場のない証拠として蓄積されている。

「……毒さえ使わず、言葉と状況だけでここまで追い詰めるなんて」

深雪は私を人間として扱ってはいない。羞恥に悶える姿さえ、彼女にとっては『刺激に対する応答精度』を測る指標の一つに過ぎない。私はただ、高精度なデータを提供し続けるための生体パーツに成り下がったのだ。

窓の外では、夕暮れの病院が静かに闇に呑まれようとしていた。

震えを抑えようとする指先に、いまだ消えない多点センサーの異物感が蘇る。

思考を切り替えようとしても、耳の奥では、あの診察室で聞いた深雪の無機質な声が何度も繰り返されていた。

「次回の追加治験では……埋没型センサーを使用します」

その冷淡な宣告が、まるで逃れられない死刑宣告のように、いつまでも彼女の脳裏から離れなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。