↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
女医乃深雪の記録ー快楽の追及ー日常侵食編  作者: 女医乃深雪


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

71/147

第69話 境界と沈黙

深雪はタブレットの入力を終えると、椅子を回し、無機質なレール音を立てて診察台の周囲のカーテンを引いた。一瞬にして、篠原の世界は数平方メートルの、白く濁った密室へと変わる。

「……カーテンを閉めましたので、そこでお着替えください」

布越しに届く深雪の声には、感情の起伏が一切ない。

「ガーゼも、そちらに用意しておきました。……必要ですね。冷たくしてお使いください。お着替えが終わる頃に、コーヒーを淹れますので」

深雪の足音が遠ざかり、代わりにコーヒーメーカーが駆動する低いうなりが聞こえ始める。篠原は、患者着の合わせ目を握りしめたまま、狭い空間に一人取り残された。

(……冷静に。私は、まだ……)

自分に言い聞かせるように呼吸を整えるが、患者着の隙間から滑り込む冷気が、先ほどまでの実験の余韻を容赦なく暴き立てる。トレイに乗せられた、氷を浮かべた水と、純白のガーゼ。彼女はそれを、しばらく見つめ続けた。

意を決して、患者着の紐を解く。薄い布が肌を離れるたび、微かな衣擦れの音がカーテンの向こう側――深雪の耳へと届くのではないかという疑念が、彼女の背中を強張らせた。

ガーゼを氷水に浸し、滴る滴を絞る。

篠原は、震える手でその冷塊を、スカートの奥……未だに自身の制御を離れ、熱を帯びて拍動を繰り返している秘部へと押し当てた。

「…………っ、……あ」

悲鳴にも似た溜息が漏れ、慌てて手で口を覆う。

焼けるような熱感と、刺すような冷気。

「必要ですね」という深雪の言葉通り、ガーゼが吸い取っていくのは、肉体の分泌液だけではない。委員長として保ってきた、形ばかりの威厳までもが、冷たい水の中に溶け出していくようだった。

濡れた肌を拭い、何度かそれを繰り返す。そのたびに、自分が深雪の「管理下にある検体」に過ぎないという事実を、自らの指先を通じて再確認させられた。

ようやく制服に袖を通し、ブラウスのボタンを一番上まで留める。指先は凍えるように冷たいのに、身体の芯には、抗いようのない疼きが居座り続けている。

鏡のない密室で、彼女は手櫛で髪を整え、最後にもう一度、深く息を吐いた。

カーテンの向こう、コーヒーの香りが濃くなっている。

篠原は、鉄の仮面を被り直すように表情を硬くすると、静かに布を横に引いた。

そこには、すでに二つのカップを並べ、湯気を見つめている深雪の背中があった。

「……。お待たせしました、深雪さん」

「……ええ。そちらのテーブルへ。おかけください」

深雪は振り返ることなく、まるで何も見ていなかったかのように、あるいは全てを見通しているかのように、静かに着席を促した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。