第46話 次なる対象
研究室の白光の下、深雪は端末に並ぶ二つの波形を凝視していた。 久慈主任――閾値を突破し、記録上初めて“快楽経路の姿”を刻んだサンプル。 だが、それは一例にすぎない。科学として成立させるには、複数の再現が不可欠だった。
(……久慈の反応だけでは、偶然で片づけられる。次が要る。必ず)
画面を切り替える。 映し出されたのは倫理委員長・篠原。制度の盾でありながら、すでにその防壁に揺らぎを見せていた。 センサー跡、拘束痕、そして自らを裏切る数値。
「……次の対象は、あなたしかいない」
深雪は端末を閉じ、椅子の背にもたれた。報告書――委員会に提出する一枚の紙切れが、全てを裏返す鍵になる。
(委員長の肩書きが免罪符になる。篠原自身の数値が並べば、それは“安全性の証明”に変わる)
机を指先で軽く叩く。無理に強いる必要はない。篠原はすでに、数値の意味を理解してしまった。 理解した人間は、やがて確かめたくなる。 そして、彼女の体にはまだセンサーの痕と拘束の余韻が残っている。
「……報告書の追補が必要だと伝えればいい。それは委員長としての責務。断れるはずがない」
深雪の唇がわずかに歪む。 (制度を守る盾を、標的へ変える。――そして制度を正当化するのは、彼女自身の崩壊だ)




