↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
女医乃深雪の記録ー快楽の追及ー日常侵食編  作者: 女医乃深雪


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

42/146

第40話 制度の余韻


篠原の指先が止まり、切れ長の瞳が端末の波形に釘付けになった。 「……知ってはいたけれど、これほどの反応とは」 声は抑えていたが、驚きの色を隠しきれない。


深雪は視線を逸らさず、淡々と答える。 「条件を整えただけです。主任は正確に応じてくださいました」


篠原は唇を結び、わずかに息を呑んだ。 「どうしたら、こんな数値になるのか……」 その言葉は研究者としての本音だった。


数秒の沈黙のあと、委員長の顔が戻る。 「……けれど、この記録は患者の臨床ではないですし、報告書には出せません」


深雪は淡い微笑を浮かべ、端末を閉じる。 「承知しています。公式に提出するのは十二件、それで十分です」


篠原は視線を伏せ、資料を抱き直した。 だがその瞳の奥には、なお数値の残像が揺らめいていた。


扉が閉じ、研究室に静寂が戻った。 深雪は端末を操作し、二つの波形を並べる。 ひとつは篠原の簡易計測――微細な揺らぎを残しながら、やがて平静へ戻る曲線。 もうひとつは久慈の導入直後の記録――閾値を突き抜け、赤く跳ね上がった鋭い軌跡。


「……患者の臨床ではない、か」 深雪は冷めたコーヒーを口に含み、淡い笑みを浮かべた。 (――制度の盾も揺れる。数値はすべてを暴き出す)


そのころ篠原は、長い廊下をゆっくりと歩いていた。 胸元にはまだセンサーの冷たい痕跡が残り、資料を抱える腕に力がこもる。 「臨床には含められない。それで正しい」――倫理委員長としてはそう結論づけた。


だが理性の奥底では、久慈の跳ね上がった波形が焼き付いて離れない。 あれは制度の枠を超えた数値。自らの計測では到底届かない、異質な臨界の証。 (……私は委員長として線を引いた。けれど、研究者としては理解してしまった)


廊下の光がグレーのスーツを照らすたび、篠原の瞳の奥にその残像がかすかに揺らいでいた。


深雪は静かにモニターを閉じ、独り言のように呟いた。 「――制度は報告を縛る。でも、数値は隠せない」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。