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女医乃深雪の記録ー快楽の追及ー日常侵食編  作者: 女医乃深雪


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第39話 揺らぎの記録


研究室に静かな時間が流れていた。 篠原は装置の台座に身を預け、白いブラウスの胸元に冷たいセンサーが触れている。 緊張を隠すように天井を見つめ、その呼吸は規則正しさを取り戻しつつあった。


深雪は端末を確認し、胸部のセンサーに指先を添える。 「……波形は安定していますが、位置によって感度が変わることがあります。試しに少し動かしてみましょうか」


篠原の視線がわずかに揺れた。 「……動かす、のですか?」


「ええ。臨床でも誤差確認のために行う手順です」 淡々と告げながら、深雪はセンサーを数ミリ滑らせた。 冷たいパッドの端が敏感な部位をかすめ、篠原の呼吸が一瞬だけ乱れる。


端末の波形が跳ね上がり、すぐに収束する。 深雪はその変化を見逃さず、静かに記録を残した。 「感度は良好ですね。わずかな接触でも明瞭に反応しています」


篠原は言葉を返さず、天井を見つめながら唇を固く閉じた。 (――数値にされる、ただそれだけなのに……)


波形が跳ね上がった直後、深雪は端末を操作し、淡々と数値を並べた。 「ご覧のとおり、この新型は従来より感度が二倍以上に向上しています。呼吸や心拍の変動だけでなく、皮膚表面の微細な反応まで拾える」


篠原はわずかに視線を動かし、画面を確かめた。 「……確かに、通常ならノイズとして消えるレベルですね」


「はい。けれど、今のように一瞬の揺らぎを検出できれば、臨床での意味は大きい。疼痛の兆候や不随意運動を早期に把握できるでしょう」


篠原は静かに息を吐いた。 「……技術の進歩は恐ろしいほどです」


深雪は小さく微笑み、指先でログを保存した。 拘束具に手をかけ、ベルトを外しながら、落ち着いた声で問いかける。 「――これで簡易計測は終了です。今の説明で、ご理解いただけましたか?」


篠原はわずかに間を置き、呼吸を整えてから答えた。 「……ええ、十分に。報告にも活かせる内容でした」


深雪は静かに頷き、センサーを外す動作を続けた。 (――理解とは数値の意味か、それとも揺らいだ自分自身か)


篠原はブラウスの襟を整え、姿勢を正した。 さきほどまで台座に横たわっていた痕跡は消え、切れ長の瞳には再び委員長としての冷静さが宿っている。


「……では、本題に入りましょう。報告書の骨子ですが、まず臨床での利用状況を簡潔にまとめてください。症例数と、特に安全性に関する部分を重点的に」


深雪は端末を操作し、画面に一覧を呼び出す。 「公式に整理できる症例は十二件。いずれも安定しており、重篤な事例は確認されていません」


篠原は資料に目を落とし、短く頷いた。 「十二件……数字としては十分ですね。委員会としても継続利用の根拠にできるでしょう」


深雪は軽く指を動かし、別のフォルダを開いた。 「参考までに――こちらもご覧になりますか」


画面に映し出されたのは、規則的な波形。臨床患者の安定した反応データだ。 「これは通常症例のモニターです。報告書に添付しても問題ない範囲でしょう」


篠原は静かに頷き、息を整えた。 「ええ、これなら安心して出せます」


深雪の指がさらに操作を進める。 次の瞬間、画面に赤く跳ね上がる曲線が現れた。 篠原の眉がわずかに動く。 「……これは?」


深雪は視線を逸らさず、静かに告げた。 「装置導入直後、主任に協力していただいた記録です」


篠原の瞳が一瞬、硬直する。 画面いっぱいに刻まれた閾値突破の波形。 呼吸がかすかに乱れ、それを悟られまいと姿勢を正す。 「……報告には出せません」


「承知しています」 深雪は淡い微笑を浮かべ、画面を閉じた。 (――委員長という盾も、数値の前では揺らぐ。観察する価値は十分にある)



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