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女医乃深雪の記録ー快楽の追及ー日常侵食編  作者: 女医乃深雪


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第37話 訪問


午後二時を過ぎ、研究室はひとときの静けさに包まれていた。 深雪は端末に並ぶデータを整理し、報告用のフォルダを分けていく。 ――臨床用に出す“きれいな症例”と、内部に残す“本当の記録”。


(篠原に渡すのは前者だけ。だが、後者をちらつかせる価値はある。委員長としての理性がどう揺らぐか……観察しておきたい)


冷めたコーヒーを片付け、散らかった器具を一瞥した。 「片付けは後でいい……今日は制度の目が来る」


時計の針が三時に近づく。 深雪は実験槽のカバーを閉じ、端末の画面を暗転させた。 呼吸を整え、椅子に腰を下ろす。


そのとき、壁際のインターホンが短く鳴る。 「……篠原です」


深雪は立ち上がり、スイッチを押した。 「どうぞ」


ドアが開き、グレーのスーツに身を包んだ篠原美沙子が姿を現した。 資料を胸に抱え、切れ長の瞳が真っ直ぐ研究室を射抜く。


「お忙しいところ失礼します、深雪先生」


深雪はわずかに微笑みを返し、席を示した。 「こちらへ。……お待ちしておりました」


篠原は資料を胸に抱いたまま椅子に腰を下ろした。 グレーのタイトスーツが豊満な線を隠しきれず、背筋を伸ばすたびに布地がわずかに張り詰める。


「……深雪先生。この前の症例検討会の発表、拝見しましたよ。難しいテーマでしたね」


深雪はわずかに微笑み、軽く会釈した。 「恐縮です。まだ課題は山積みですが……。篠原委員長も、以前は神経系の研究に携わっておられましたよね」


篠原の切れ長の瞳がわずかに細められる。 「ええ。痛覚の伝達機構や、神経応答の変動を追っていました。十年以上前の話ですが」


「臨床との接点も多い分野かと思います」 「そうですね。データは正確でも、痛みの主観は常に揺らぐ。その難しさが忘れられません」


深雪は頷きながら、視線を逸らさずに観察する。 (――委員長という制度の顔を持ちながら、研究者としての記憶は消えていない。ならば、こちらの“数値”にも興味を示すはず)


篠原は資料を指先で整えながら、ふっと息を吐いた。 「私は、あの頃で研究を区切るしかなかった。……今こうして、最新の機器を導入して研究に打ち込めるのは、正直うらやましいわ」


深雪はわずかに微笑む。 「環境が整っているのは確かに幸運です。ただ、制御に関してはまだ課題が残っています」


篠原は頷き、視線を研究室の奥へ送った。 「そう。……よければ少し詳しく見せてもらえますか? 実際にどう運用されているのか、気になります」


深雪は端末を手元に戻し、わずかに目を細めた。 「承知しました。こちらへ」


篠原は椅子を離れ、装置に歩み寄った。 金属フレームに沿って複数のセンサーラインが光を放ち、中央には人を横たえるためのベッド状の台座が据え付けられている。 両側には腕と脚を固定する拘束具が備え付けられ、淡い光沢を帯びていた。


「……やはり実物は迫力がありますね。拘束機構まで一体化されているとは」 篠原は冷静に問いかける。 「患者の体動を制御するため、という説明でよろしいのかしら」


深雪は背後から淡々と答えた。 「はい。高感度センサーを正確に作動させるには、わずかな動きも誤差になりますので。固定具はそのためのものです」


篠原は頷き、指先でベルト部分に軽く触れた。 「……必要だからこそ、際どく見えるのね」


深雪は微笑を浮かべ、視線を伏せた。 (――際どいのは装置ではない。測る対象の方だ)



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