第35話 制御成功
研究室の冷却装置が低く唸りをあげる。 深雪は吸着型の触手片を三つに切り分け、培養槽へ一つずつ沈めた。横一列に並ぶ三槽は、すべて同じ起点から分けられたもの。条件を揃えた上で、三種類の血漿を滴下するためだった。
机上に並んだ三本のチューブ。 一本目は通常血漿、二本目は基礎成分だけを残した維持血漿、三本目は成長因子だけに分離した血漿。 深雪は呼吸を整え、各槽へ一滴ずつ滴下した。
通常血漿
投入から十分。 通常血漿の槽では、触手が緩やかな脈動を繰り返し、安定した収縮と吸着を保っていた。 「……基準通り」 深雪は端末に記録した。
維持血漿
次に視線を移す。 触手は変化を見せることなく、一定の収縮を淡々と繰り返している。膨張も分裂も起こさず、ただ最初の状態を保っていた。
「現状維持。活動安定」 深雪は小さく頷いた。
成長因子血漿
しかし成長因子の槽は違った。 投入直後から激しい膨張と収縮を繰り返し、壁面に張り付いて暴れる。表層には微細な突起が溢れ、増殖の衝動に駆られるようだった。
「……成長過多反応」 深雪が呟く間にも、触手は痙攣し、膨張部は裂け、内液を漏出して崩れ落ちた。 三十分も経たぬうちに、完全な沈黙。
結論
深雪は三つの槽を見渡し、端末に一行を打ち込む。 「制御成功」
小さく息を吐き、口元にわずかな笑みを浮かべた。 冷めきったコーヒーを口に含み、苦味の奥にかすかな甘みを覚える。 「……これで、次に進める」
蛍光灯の光が培養槽を照らし、冷却装置の唸りだけが室内に残った。




