第30話 清拭の罠
足台はわずかに起こされ、腰のベルトが「かち」と締まっている。
「主任、電極外します」
深雪は淡々と告げ、操作盤に指を走らせる――「カチ」。
下腹部のパッドが解除され、膣内の細い電極が「す……っ」と気圧を抜くように退いていく。
「……ふ、は……」
久慈の肩が沈む。終わった――そう、思う。安堵、ひと筋。
だが、深雪の視線は逸れなかった。
下衣の隙間から覗く性唇は、潤滑剤と内因性の分泌で艶を帯び、内側の襞がわずかに脈打っている。
中央の陰核が「ふる」と震え、薄い膜を破るように硬さを主張していた。
(……閾値を越えた痕跡、明白)
深雪の喉仏がわずかに上下――「こく」。
滅菌トレーから無菌ガーゼを取り上げる。
病院で決められた標準手順――清潔操作、清拭。
それ以上でも、それ以下でもない。手順。冷たさ。
「清拭します」
声は一定。眼差しだけが、刃先。
――ガーゼがとろとろの液を吸い込み、「しゅ」と重さを得て、粘膜に触れた瞬間。
「っ……!」
久慈の腰が反射で跳ねた。解剖台が「ぎし」。
心拍と呼吸が一段で振れ、モニターの点滅が「ピ、ピ」と速まる。
(安全アラーム作動なし――限界手前)
濡れた繊維が性唇の外縁をなぞり上げる――「さり」。
ひだの谷間が浅く開き、透明な粘液が糸を引きながら吸い取られていく。
あくまで清拭の範疇。だが、数値は容赦なく跳ね上がった。
――導電率:+2.7σ
――収縮周期:2.6秒 → 1.4秒
「主任、残り少し……もう一度」
感情を削いだ声。だが繊維は小突起の縁をかすめ、上向きに撫で上げた。
「……つつっ、あ……くっ!」
瞼が強く閉じ、両手はベルトを掴んだまま震える。
骨盤帯のEMGが大きく振れ、胸と骨盤の点滅が――ぴたりと同期。
全身が一斉に波を立てた。
――収縮周期:1.4秒 → 1.1秒
――自律神経バランス:快楽側へ偏位、継続
深雪の指が角度を半呼吸だけ整える。
外周の襞を浅く掬い、今度は陰核の先端を逃さずに「さり」と擦り上げる。
「ひぁっ……!」
中心がひとりでに縮み、全身が弓なりに反る。
視界の端が白く焼け、音が遠のく。
モニターの点滅「ピ、ピ」が伸び、一本の線になる。
胸の奥で血が爆ぜ、喉が勝手に開く。
「……っ、あ……あぁぁっ!」
心拍は200を越え、交感/副交感の比率は快楽側へ大きく振り切れる。
解剖台が「ぎし」と鳴り、久慈の脚が拘束の中で小刻みに震えた。
深雪は冷静に記録を止める――「コツ」。
標準手順どおり。だが、想定外の応答。
無機質な眼差しの奥に、熱がわずかに灯っていた。
久慈は肩で息をしながら、かろうじて声を絞る。
「……い、今のは……」
言葉の続きが見つからず、喉が「ふる」と震える。
「標準手順の清拭です」
短く、冷たく。端末を閉じる――「パタン」。
実験は終了した。
だが――二人の間に沈んだ空気は、冷却装置の唸りよりも重く、熱を帯びていた。




