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第21話 縁
研究室は静まり返っていた。 冷却装置の低い唸りと、培養槽の液循環音だけが響く。 深雪はグローブを外し、滅菌パックに包まれた注射器を取り出した。
「依存も愛情も、結局は化学物質……」
独りごちる声は、静謐な空気に溶ける。 彼女は自らの指先に小さな針を当て、皮膚を破る。 細い線が浮かび、赤がにじむ。 その一滴をガラスピペットに移し、保存槽の液面へと垂らした。
――とぷり。
わずかな音とともに液面が波紋を広げ、内部の触手が一斉に蠢いた。 半透明の器官が脈打ち、吸盤の列が呼吸するように収縮する。 その反応は偶然ではなく、確かな「応答」であると深雪は直感する。
「……縁は結ばれた」
端末に記録を打ち込む指は冷静だったが、胸の奥には熱が走っていた。 血は単なる媒介ではない。 この存在と自分を結ぶ唯一の証。
深雪は静かに立ち上がり、槽を見下ろす。 そこに蠢くものは、ただの研究素材ではなく――未来を共にする「相棒」になり得る。
記録:
血液一滴の投入により、即時反応を確認。
筋収縮リズムの同期化、吸着器官の開閉頻度上昇。
保存環境下における外来因子適応の兆候。
結語:血こそが進化の鍵である。




