第15話 切除と確保
手術灯の白い光が照らす中、久慈のメスが側頭部を切り裂いた。 腫瘍は思った以上に柔らかく、ゼラチン質の塊が「ぷる」と震えた。 吸引管に触れると、まるで自ら逃げるように形を変え、管の縁にぬるりと絡みついた。
「……妙ね。腫瘍にしては可塑性が強すぎる」 久慈が小さく眉を寄せる。
深雪は冷静に口を開いた。 「組織反応が特殊なだけかもしれません。解析すれば主任にとっても大きな成果になります」 「そうかしら……」
切除片は病理用の容器に落とされていく。 だが一部、微かに蠢いた部分を前に、深雪は声の調子を変えた。 「この部分は壊れやすい。私が直接処理します。随時、結果はお伝えしますから」
久慈が視線を向ける。 深雪は端正な顔をわずかに下げ、冷静なまま容器を操作していた。 だが内心では、自分の鼓動が速まっているのを意識する。 ――臨床では感じない高揚。未知の反応に触れたときだけ、体の奥が熱を帯びる。
「……わかった。ただし報告は随時よ」 久慈は短く答え、視線を逸らした。 その一瞬に、僅かな警戒と譲歩が混ざっていた。
「もちろんです」 深雪は即答し、独自の容器にその組織片を収めた。 指先に伝わるぬるりとした感触に呼吸が浅くなる。 だが表情は一切変えず、淡々とカルテに記録を残す。
――素材は確保できた。 オペ室の照明が落とされると同時に、遠く研究棟から冷却装置の低い唸りが聞こえてくる気がした。




