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女医乃深雪の記録ー快楽の追及ー日常侵食編  作者: 女医乃深雪


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第125話 本性と触手毒の証明

 久慈が逃げるように特別研究室を去り、室内には再び無機質な静寂が戻っていた。

 深雪は一人、PCのモニターと静かに対峙していた。画面には、先ほどまで『スマート空圧式処置チェア』に拘束されていた久慈の生々しい生体データが表示されている。

 深雪は手元のキーボードを叩き、以前採取した久慈のデータと、今回の波形を重ね合わせた。

「ふふ……やはり、前回のデータと比較しても、拘束された瞬間に明確な波形の乱れと高まりが見られる。外部刺激なしの、ただの『物理的な拘束』だけでこれとはね」

 深雪の唇から、嗜虐的な感嘆が漏れた。

 直接的な摩擦などを一切与えていないにもかかわらず、久慈の波形は拘束開始時から明らかに全体的な底上げを見せている。

 モニターの数値だけではない。特等席から見下ろしていた深雪の肉眼にも、その変化ははっきりと見て取れていた。

 拘束され、大股開きにされた直後から、久慈の額には薄らと汗が滲み、どうにか平静を装おうとしながらも、その視線は明らかに落ち着きなく泳いでいたのだ。

 一切の自由を奪われ、無防備な姿勢で固定されるという圧倒的な無力感と羞恥。そのシチュエーション自体が、彼女の奥底に眠っていた被虐的な興奮を強烈に引きずり出したのである。

 波形が細かくノコギリのように上下に乱れているのは、助教授としての理性が、その本能の高ぶりを必死に抑え込もうとブレーキをかけた痕跡だ。

「拘束されること自体に、あれほどの反応を示すとは……実に美しい葛藤の波形。彼女からは、今後も面白いデータが継続して取れそうね」

 久慈の良質な「被験体」としての適性を確信し、深雪はさらに画面を分割して、もう一つのデータを並べて表示させた。

 本命である、篠原委員長の波形データだ。二つのグラフを見比べ、深雪の瞳に冷酷な知の光が宿る。

「それに引き換え、篠原の波形は……やはり別格ね」

 まず、到達しているグラフの高さ(レベル)自体がまるで違う。すでに精神のタガが壊れかけている篠原の波形のピークは、久慈のそれと比べても圧倒的に高い。

 だが、それ以上に決定的な違いは、久慈の波形に顕著だった『下振れ(理性の抵抗)』が、篠原のデータには一切存在しないことだった。

「一度スイッチが入ると、自身では何の制御も効かない。急激な『報酬系の暴走』に理性の処理がまったく追いついていない……。最初から、ブレーキが存在しないも同然ね」

 理性が抗う余地すらなく、快楽の波に呑まれて自壊していく篠原の無防備な精神構造。

 それを証明する無慈悲な生体データを眺めながら、深雪は薄暗い研究室の中で、恍惚とした冷たい笑みを深く刻んだ。

 ふと、深雪は再び視線を久慈のデータへと戻した。

 この拘束による激しい波形の立ち上がりに、どこまで『触手毒』が作用しているのか。その直通度を示す箇所が、ログに明確に残されている。

 テストとして、電流のダイヤルをほんの一目盛りだけ上げた瞬間のデータだ。通常であれば、人体が知覚することすらできない極めて微弱なレベル。にもかかわらず、グラフは寸分の遅れもなく鋭く跳ね上がっていた。

「……完璧ね。完全に脳まで直通しているわ」

 久慈の首筋に貼り付けたパッチ。その裏面には、既存の薬剤をベースに、あらかじめ粘性の高いゲル状に加工した特別な『毒』が、ほんの少量だけ織り交ぜられていた。

 人間の脳の変異組織――いわゆる『触手』から抽出された毒だ。

 名称は『伝導ペプチド』。その主成分である【高伝導性アミノ酸結合体】は、脊髄から脳へと至る伝導経路に浸透し、神経の伝達速度と電気信号の透過性を極限まで高める効果がある。

 媚薬のような直接的な発情作用は一切ない。ただ純粋に、体内の通電を活性化させるためだけの成分である。

 神経の抵抗が完全に消滅しているからこそ、普通なら何も感じないはずの微電流すらも、脳へのダイレクトな物理刺激へと変換されるのだ。

「大股開きで完全に拘束されるという極限の状況下において、抵抗値を失った神経に微電流を流し込めばどうなるか。拘束による特異な興奮と、行き場のない過剰な負荷。それを処理しきれなくなった脳はバグを起こし、微弱な電流すらも強烈な『快楽』として誤認する」

 脊髄から脳へ直通した微弱な電気信号が、異常な拘束シチュエーションと結びつくことで、直接『報酬系』を暴走させたのだ。パッチに織り交ぜたのはごく微量だったというのに、ここまでの効果を叩き出すとは。

 もし既存の化学薬物で同じように神経の抵抗値を下げようとすれば、必ず副作用や生体の拒絶反応が混じり、すぐに耐性がついてしまう。だが、この成分にはそれが一切ない。

「やはり、元が人間の組織である『触手』から抽出した毒という事実が大きいわね。生体への適応性が極めて高いからこそ、これほど微量でも神経系に完全に馴染み、本来の経路を乗っ取ることができる」

 人間由来ゆえの、恐ろしいほどの親和性。

「今回のテストで得られた『適応性』のデータだけを省みても……この触手毒、本当に今後が楽しみだわ」

 深雪はモニターの光に冷たい横顔を照らされながら、未知の臨床結果を思い描き、暗い喜悦に瞳を細めた。

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