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潤子の劣等感

 景吾も料理を半分ほど食べると、

「潤子さんは普段はどれくらい働いているのですか?」

 潤子は宙を睨みながら、

「週五日、一日四時間から六時間ぐらいですね」

 虹の雪を運営する景吾の母親の言う通りだった。障害者用の作業所としては標準的だろう。景吾は、

「仕事で不満とかは無いのですか」

「特に無いですね」

 曖昧に景吾を見ながら潤子が答える。まだ二回しか会っていない景吾に本音を話すのが面倒なのか本当に満足しているのか潤子の乏しい表情からは分からない。景吾は、

「税務署で働く僕に合わせて税制度とか予算とか訊いているんですか」

「そうみたいですね。この子なりに考えているようですけれど」

 母親が代わりに答える。潤子は母親を睨んで、

「違う。前々から当事者に訊きたかったんだよ」

「何?それ?」

 母親も睨み返す。景吾は苦笑いしながら、

「確かに僕は財務省の人間ですが、あくまでも下っ端ですから」

「でも、かなり残業するんですよね」

 潤子が不安そうに振り向く。景吾は、

「まあ、仕方ないですよ」

 母親は溜息を吐き、

「橋本さんは優秀で仕事が出来る人なの。貴方は自分の心配をしなさい」

 潤子をさとす。景吾は、

「何か心配事が有るのですか?」

 母親はぎこちなく笑って、

「この子は月に何回か仕事を休んでしまうんです。貴方の御母様の所長さんは頑張り過ぎた反動とおっしゃってくれるのですが」

 潤子は悔しそうに俯く。潤子なりの劣等感が有るのだろう。週五日の一日五時間前後の労働量は景吾にとっては天国だが、障害者である潤子にとっては楽ではないのだろう。


 母親はチラリと潤子を睨み、

「それにこの子は時事問題に中途半端に興味を持っては勝手にイライラするんです。最近ではスマホで動画サイトを観ないように命じてます」

 潤子は顔を上げて窓に振り向く。明らかに不服そうである。母親はそれを無視して、

「橋本さんは実際に現場で公務員として責任有る仕事をしていらっしゃいますから、この子が見習うべき所は沢山有ります」

「いえいえ。僕は目の前の数字とにらめっこしているばかりですよ」

 潤子の両親もまた単に国会議員の息子としてではなく勤労者として潤子の手本になるだろうと景吾に期待しているのだろう。しかし向上心もなく漫然と地味な作業を続けているだけで、景吾は潤子を教え導いてやろうという気にはなれない。


 三人は暫く黙って食事を再開する。隣の男達がスマホを見せ合いながら面白い動画を観てはゲラゲラ笑っている。他の客達はそれを気にせずに会話に花を咲かせている。

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