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不可解な態度

 料理を食べ終えてボンヤリしている潤子に景吾の父親は、

「潤子君。景吾に質問は無いのかい?」

と、尋ねた。景吾の目が泳ぐ。潤子は何となく景吾に顔を向けて、

「なんであんなに税制度は複雑なんですか」

 と、やや事務的な口調でいてきた。え、と、景吾は声を漏らした。潤子の両親・米倉夫妻は困った顔をした。景吾の父親は快活に笑い、

「景吾。答えろよ」

景吾は咄嗟に言葉が出なかった。先程からボンヤリしていた潤子が今ではじっと景吾を見つめている。それが更に言葉を詰まらせる。景吾の母親は呆れ気味の目で景吾を睨む。景吾は、

「勉強すれば難しくありませんよ。慣れれば簡単です」

 潤子の両親は苦笑いを浮かべ、景吾の両親は不服そうに顔が歪む。潤子は無表情で、

「有能な経営者でも税理士を雇わないと納税出来ないのでしょう」

 潤子の両親は困惑して顔が歪み、景吾の両親は微笑む。景吾は、

「ま、まあ、控除とか色々有るし計算方法とか独特ですからね」

「納税方法と納税額を間違えて脱税扱いされた人もいるんじゃないのですか」

 潤子が真顔で言い詰める。景吾の父親はケラケラ笑い、母親はニコリと笑い、潤子の両親は呆れ気味に潤子を睨む。景吾は俯き、

「その場合、追加徴税になるけれど流石に逮捕にはなりませんよ」

「一円でも納税額が足りなかったり一日でも納税が遅れたら何割増しになるんですよね」

 潤子が事務的な口調で確かめる。怒気が込められていない分、冷たさが耳に響く。景吾は黙った。潤子の母親は潤子の肘を叩き、父親は潤子を睨む。潤子は不満そうに両親を見比べて、

「父さん達だって文句を言っているでしょ。『経営者は辛い』って」

「止めなさい。失礼でしょ」

 母親が咎める。父親は目をつむりながら橋本一家に頭を下げる。景吾の父親は楽しそうに笑い、母親は、

「まあ、事実ですからね」

 景吾は潤子を睨みながら冷たい声で、

「貴方は税務署がそんなに嫌いなんですか」

 景吾の両親は景吾を睨む。潤子は少し心外そうに、

「いいえ。税制度が簡単なら、納税者も税務署も苦労しなくて済むでしょう。脱税も減るでしょうし」

 潤子の両親は不思議そうに首を傾げる。景吾の両親はニコリと笑みを浮かべる。


 橋本一家と米倉一家は食事に集中した。潤子は母親から天ぷらをもらって食べている。


 不快より不可解を景吾は感じた。中小企業の社長や個人事業主が税務署に文句を言うのは分かる。しかし税金を天引きはされるが計算をしない労働者が税務署を敵視する理由は無いはずだ。ましてや障害者用の作業所で働く潤子は所得税を払っていないはずだ。何故、潤子が税制度を気にかけるのか景吾には分からなかった。単に両親の愚痴を聴いたからだろうか。それでも景吾には解せない。

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