潤子の両親
景吾の父親は会話を続けるように景吾に目で促す。景吾は米倉夫婦に、
「お仕事についてもっと詳しく話を聞かせてください」
橋本夫妻は息子の景吾が潤子に話しかけないことに不快を覚えて眉を寄せる。米倉夫妻は苦笑いしながら答えた。妻が、
「橋本所長には随分とお世話になっているのですよ」
夫が笑顔で頷く。景吾が不思議そうに、
「母が?」
米倉夫妻は景吾の母親に尊敬の眼差しを向けながら説明した。娘の潤子が大学生の時に発達障害者だと分かるまで、米倉夫妻は審査を厳しくしていた。不動産業界では大企業の正社員として働く健常者男性が最も好まれて優先的に貸していく。防犯の面では女性、死後の問題の為に高齢者、家賃滞納の可能性で低所得者、近隣との折り合いで障害者が嫌がられる。皮肉にも家を必要とする者達がなかなか家を借りられない。米倉夫妻も業界仲間も大家達もその現状を気にしていなかった。
けれども娘の潤子が発達障害者だと判明した時、夫妻は衝撃を受けた。障害者の存在を他人事だとみなしてきた分、潤子の存在は恥と恐怖だった。親子は怪我するほど何度も喧嘩をした。父親は病院や施設に入れようと考えたが、母親は娘を社会の奥へ捨てるのに抵抗があった。一家が疲弊している時に世話になっている大家が虹の雪を紹介した。
出来る事を頑張り、無理をしない。助けられる時に助けられる人が困った人を助ける。虹の雪ではそれを理念にしていた。潤子は紆余曲折あったが虹の雪に適応していった。時々、鬱状態になったり集中出来なくて仕事を休むが、働く時は責任持って働く。所長である景吾の母親からも信頼されている。
虹の雪の人達と角が丸くなった潤子の変化に気付いた米倉夫妻は女性と障害者と高齢者の見方を変えていった。住居を真に必要とする弱者達から自分達が住む権利を奪ってきたのではないのか。弱者を頭ごなしに大家や近隣住民の敵だとみなしてきたのではないのか。米倉夫妻は自省するようになった。疎ましく感じてきた娘の潤子を再び大事な家族に感じられてきた。
傍らでそれを潤子は聴きながら料理を食べていく。時折、両親の説明で不服そうに顔が歪む。潤子なりに補足説明や不満は有るようだ。景吾は米倉一家が不器用でも誠実なのだと思った。自分の両親の顔付きから米倉夫妻が嘘をついてないと何となく分かる。特に母親は嬉しそうに顔が綻んでいる。米倉夫妻は障害者にも女性にも高齢者にも家を貸す努力を本当にしているのだろう。大家と近隣住民への説明、インフラと安全対策。面倒だが不動産業者として誇りを持っている。今の米倉夫妻の声と表情には卑屈さは無い。
少なくとも米倉夫妻は悪い人ではない。景吾は少し安心した。




