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普通の障害者

 当日。皆、着飾らずにホテルの料亭に集まった。男性達は背広、女性達はオフィスカジュアルの服装だ。窓からは雪景色を臨める。今尚もしんしんと降っている。時折、ボオと暖房の音が響く。


 潤子と景吾は向かい合わせに座り、それぞれの両親が両隣に座っている。長時間の正座は辛いので椅子を使用している。全員、まだ料理に手を付けていない。両親四人が自己紹介をしている。


 潤子の両親・米倉夫妻は気まずそうに目を泳がせながらも一生懸命に話している。景吾の両親・橋本夫妻は微笑みながら聴いている。時折、景吾の母親が補足説明をする。米倉夫妻は橋本夫妻に恐縮している。相手は娘の職場の運営者と国会議員だ。米倉の妻は娘をチラリチラリと盗み見て、夫は苦笑いを浮かべている。夫婦で不動産業を営んでいる。地主・大家と借主・買主の板挟みで苦労しているようだ。


 景吾は潤子を観察した。潤子は黙って俯いている。親達の話を聴いているのか聴いていないのか景吾には分からない。発達障害者は不可解な呟きと動きをするものだと思っていたが、潤子は料理を眺めているだけだ。潤子の母親が気を遣ったのだろうが服装も化粧も地味すぎず派手すぎず常識的だ。実年齢よりも若く見える。景吾と年格好は変わらないだろう。


 景吾の父親が微笑みながら乾杯して食事を始めさせた。潤子は酒が飲めないので緑茶だ。潤子の母親も運転しなければならないのでほうじ茶だ。他は日本酒を頼んでいる。橋本一家はタクシーを頼んでいる。


 仕事の重責と重労働で酒に溺れて免職処分を受けた先輩がいた。それを見てから景吾は酒を避けるようになったが、酒嫌いではなかった。久々の酒は美味い。潤子の父親と礼を言いながら酌をし合う。それを尻目に景吾の父親は潤子に作業所の仕事について質問する。


 虹の雪では夏は近くの農家の手伝いをして、冬は高齢者の代わりに雪掻きをする。どちらも障害者にとっては重労働で危険だが、職員に見守られながら焦らずに作業をする。事前にしっかりと作業方法や安全対策を教わり研修を受ける。潤子は淀みなく説明している。潤子の目は焦点が合わず、景吾の父親としっかり目が合ってないが、物怖じをしていない様子だ。それを潤子の両親はヒヤヒヤと見ている。景吾の両親は潤子に微笑んでいる。


 潤子が意思疎通が出来ると聞かされていたが、少し不器用な健常者にしか見えない。景吾は不思議に思った。


 景吾が殆ど会話しないので景吾の母親は景吾の肘を軽く叩いて喋らせる。景吾は苦笑いして、

「僕は大阪の税務署で働いているだけですよ」

「大事なお仕事ではありませんか」

 潤子の母親がおだてる。父親も羨望の目つき。しかし潤子は真顔だ。血税を吸い上げる仕事を憎んでいるのか、それとも雲上人だと思っているのか、景吾には分からない。

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