両親の期待
結局、景吾は年末年始に休暇をもらって再度帰省することになった。一月三日にホテルの料亭で見合いをする。景吾は秋田で生まれ育ったが、雪道の運転は慣れない。気をつけた甲斐があって無事に大晦日前に実家に到着。
両親は仕事と見合いの準備で忙しかった。父親は東京から戻った後、地元の有権者の陳情を聴いたり行事に参加したりしている。母親は虹の雪の運営と見合いの準備をしている。景吾は自室でボンヤリとゲームをして休んだ。掃除や料理はホームヘルパーの老夫婦が既にやってくれていた。
景吾はゲーム以外に趣味らしい趣味は無い。また、熱狂的にゲームをやるわけでもない。正月休みの今尚も仕事や勉強に励む同僚が何人かいる。最初は妬みと焦りで愚痴や文句を言いふらしていたが、今では諦めがついて自分に見合った内容と量をこなしている。昇進にも興味が無い。
見合いの前日に両親から留意点を聞かされた。潤子は景吾よりも五歳年上。発達障害者・ADHDで注意欠陥と衝動性がある。また、女性差別に敏感である。それを聴いた景吾は露骨に不快そうに、
「面倒臭いな。俺はどうすれば良いんだよ」
母親は溜息を吐き、
「本当にあんたは精神障害者と働いている私の息子なの?」
「彼女の話を聴くだけでも良いだろ」
父親も景吾に呆れ気味だった。景吾は、
「単なる精神障害者でなくて五歳年上のフェミニストかよ。嫌だな」
「そんな事を平気で言ってあんた、本当に国家公務員なの?」
母親が冷たい視線を送る。父親も、
「国家公務員は国と国民の為の公僕だぞ。邪険にするなよ」
景吾は俯き、
「なんで父さんも母さんもそんなに俺を見合いさせたいんだよ」
「統計や数字を読み解くのも大事だが、それ以上に人間を知らないといけない」
父親が答えた。景吾は頭を上げて、
「公務員は裏方。父さん達国会議員が国民の代表だろう」
「だったら国民と国会議員を信じるんだな」
胸に軽いしこり。景吾は居心地の悪さを感じた。上司達が時々、陰口を叩きながら国会議員達や納税者達の知識不足を嘲笑ったりしている。
母親はしっかりと低い声で、
「納税額が少なくても精神障害者を邪険にしないでよね。本当に社会の担い手なのだから」
景吾は頷いた。両親は潤子で景吾に社会経験を積ませるようだ。内心、それが上手くいかないだろうと景吾は思った。
五歳年上で女性差別に煩い女性障害者。頭と胸が重くなるほど気が滅入る。けれども潤子をぞんざいに扱えば両親は強く咎めるだろう。潤子の両親も来るそうだ。景吾はなるべく穏便に縁談を断る文言を考える。




